⑥
昼休みはいつものように青木と渡辺と弁当を広げる。
今日も教室内は満員だ。
「花崎、聞いて良いか?」
真面目な顔で渡辺が質問してきた。
「いいよ。何?」
「ほら、例の惚れ薬。もう鵜飼に使った?」
真剣な顔をして聞くことが惚れ薬って笑える。
「まっさか」
「いや、朝一緒に登校して来ただろ?」
「ああ、偶然会っただけ」
興味津々で身を乗り出していた青木と渡辺が、大きく息を吐いて身体の力を抜く。
「なんだ。偶然か」
「変なこと想像すんなって。惚れ薬が成功しても、相手が僕ってことはないだろ」
「え? まじで木村センセにするつもりかよ? 試しに花崎に惚れさせろ。じゃなきゃ効果があったのか分からないだろ?」
それもそうか、と考える。
つい、惚れ薬を作ることばかりに意識が向いて、惚れさせる相手のことを考えていなかった。
さすがに木村先生と鵜飼のペアは見たくないし。
「ま、効果の検証だな。見てろ。僕に惚れさせてやる」
「あはは! まじウケる!」
三人でクスクス笑い合いながら昼を過ごした。
ふと顔を上げれば、離れた席で運動部男子と弁当を食べている鵜飼と目が合った。
鵜飼が僕のほうに視線を向けている。
――え? 僕を見ている?
一瞬、そんな勘違いをしそうになった。
僕の心臓がドキっと動く。
妙な高揚感が生まれて気持ちがソワソワした。だけど。
「うわ。鵜飼君があたしのこと見てる。ちょっと、ヤッバ」
川本の嬉しそうな声にハッと我に返る。
――そうだよ。鵜飼が僕を見てるワケないじゃないか。
鵜飼からスッと目線を外して、運動場を見た。
近くの席から「川本っち、鵜飼ゲットじゃん」などとはしゃぐ女子の声が耳障りでイライラする。
近くに陣取る川本たちの声を聞きたくなくて、自分の弁当をかき込むように口に入れて席を立つ。
青木たちに「先に図書室に行く」と宣言をして教室を出た。
一人になって、暑さの残る廊下で静止した。
腹が立っている自分を落ち着けようと深呼吸を数回する。
――鵜飼は、僕と放課後、遊ぶからな。僕と、二人で過ごすんだ!
モヤモヤとする自分の気持ちに、何度もそう言い聞かせた。
だけど。
どうして僕はイライラしているのだろう。何故?
そう自分に問いかける。
僕は、ほんの少し鵜飼と接点を持っただけなのに、まるで自分が鵜飼の特別になったかのような錯覚を持ってしまっている。
――僕は、何を勘違いしているんだよ。
ギュっと手を握り、自分を戒める。
――いい気になるな。僕は鵜飼のようなステージに行きたいワケじゃない。もう、イヤな思いは、したくない!
暑い廊下で、壁に寄りかかって目を閉じた。
平凡で満足していた僕の中に、鵜飼という派手な存在が入り込んできて、気持ちが乱されている。
「あ~、青木と渡辺と一緒にいるだけでいいのになぁ」
心の声がポツリと口から出てしまった。
「青木と渡辺と、仲いいよな」
急に聞こえた低い声に身体がビクっと反応した。
ハッと目を開ければ僕を覗き込むように鵜飼が立っていた。
――距離、近いって!
驚いて壁からすぐに離れた。だけど急に動いたのがいけなかった。
目の前が暗転した。
――ヤバ。立ち眩み!
昨夜の睡眠不足と、暑さの中で目を閉じていたせいだ。
傾く身体を支えるために腕を伸ばしたけれど。
その腕ごと、僕はガッチリホールドされた。
昼休みはいつものように青木と渡辺と弁当を広げる。
今日も教室内は満員だ。
「花崎、聞いて良いか?」
真面目な顔で渡辺が質問してきた。
「いいよ。何?」
「ほら、例の惚れ薬。もう鵜飼に使った?」
真剣な顔をして聞くことが惚れ薬って笑える。
「まっさか」
「いや、朝一緒に登校して来ただろ?」
「ああ、偶然会っただけ」
興味津々で身を乗り出していた青木と渡辺が、大きく息を吐いて身体の力を抜く。
「なんだ。偶然か」
「変なこと想像すんなって。惚れ薬が成功しても、相手が僕ってことはないだろ」
「え? まじで木村センセにするつもりかよ? 試しに花崎に惚れさせろ。じゃなきゃ効果があったのか分からないだろ?」
それもそうか、と考える。
つい、惚れ薬を作ることばかりに意識が向いて、惚れさせる相手のことを考えていなかった。
さすがに木村先生と鵜飼のペアは見たくないし。
「ま、効果の検証だな。見てろ。僕に惚れさせてやる」
「あはは! まじウケる!」
三人でクスクス笑い合いながら昼を過ごした。
ふと顔を上げれば、離れた席で運動部男子と弁当を食べている鵜飼と目が合った。
鵜飼が僕のほうに視線を向けている。
――え? 僕を見ている?
一瞬、そんな勘違いをしそうになった。
僕の心臓がドキっと動く。
妙な高揚感が生まれて気持ちがソワソワした。だけど。
「うわ。鵜飼君があたしのこと見てる。ちょっと、ヤッバ」
川本の嬉しそうな声にハッと我に返る。
――そうだよ。鵜飼が僕を見てるワケないじゃないか。
鵜飼からスッと目線を外して、運動場を見た。
近くの席から「川本っち、鵜飼ゲットじゃん」などとはしゃぐ女子の声が耳障りでイライラする。
近くに陣取る川本たちの声を聞きたくなくて、自分の弁当をかき込むように口に入れて席を立つ。
青木たちに「先に図書室に行く」と宣言をして教室を出た。
一人になって、暑さの残る廊下で静止した。
腹が立っている自分を落ち着けようと深呼吸を数回する。
――鵜飼は、僕と放課後、遊ぶからな。僕と、二人で過ごすんだ!
モヤモヤとする自分の気持ちに、何度もそう言い聞かせた。
だけど。
どうして僕はイライラしているのだろう。何故?
そう自分に問いかける。
僕は、ほんの少し鵜飼と接点を持っただけなのに、まるで自分が鵜飼の特別になったかのような錯覚を持ってしまっている。
――僕は、何を勘違いしているんだよ。
ギュっと手を握り、自分を戒める。
――いい気になるな。僕は鵜飼のようなステージに行きたいワケじゃない。もう、イヤな思いは、したくない!
暑い廊下で、壁に寄りかかって目を閉じた。
平凡で満足していた僕の中に、鵜飼という派手な存在が入り込んできて、気持ちが乱されている。
「あ~、青木と渡辺と一緒にいるだけでいいのになぁ」
心の声がポツリと口から出てしまった。
「青木と渡辺と、仲いいよな」
急に聞こえた低い声に身体がビクっと反応した。
ハッと目を開ければ僕を覗き込むように鵜飼が立っていた。
――距離、近いって!
驚いて壁からすぐに離れた。だけど急に動いたのがいけなかった。
目の前が暗転した。
――ヤバ。立ち眩み!
昨夜の睡眠不足と、暑さの中で目を閉じていたせいだ。
傾く身体を支えるために腕を伸ばしたけれど。
その腕ごと、僕はガッチリホールドされた。
