『惚れ薬』が効きすぎるなんて、令和の時代にアリですか⁉

⑤
 翌日は眠気が残ったまま登校した。
 欠伸をしながら歩いたから、周りの人がどんどん僕を抜いていく。

 ――皆、朝から爽やかだな。
 そんな事を思いながら、またひとつ欠伸をした。

「花崎、おはよ」
 急な声にハッと顔を上げれば、キラリとした輝きをまとった鵜飼がいる。
 ――朝から眩しい! つか、なんで?
 朝に会うことなどこれまで無かったのに。びっくりして身体が固まった。
「鵜飼?」
「花崎、ゆっくりしてると遅刻するぞ」
 鵜飼の声に慌てて足をうごかした。
「あ、うん。おはよう」
「ん。眠そうだな」
 先ほどの僕の欠伸を見ていたのだろう。人に見られていると思っていなくて気を抜いていた。
 恥ずかしさに歩みを速める。

「ああ、昨日眠れなくて」
「あ、同じ。俺も放課後が楽しみで、ちょい寝不足」
 ――ん? 放課後が楽しみ?

 意味が分からず鵜飼をチラ見すると、茶色い瞳とバチリと目が合う。
 朝陽を背負ったイケメンの破壊力はすごい。
 爽やかさが眩しすぎて僕はすぐに目線を外した。イケメンには直視できない迫力がある。

 特に会話をするわけでもないのに、鵜飼は僕の隣を歩く。
 先に行っていいのに。
 そう言うのも変な気がして、流れに身を任せる。これじゃまるで二人で一緒に登校しているようだ。
 僕とは顔を知っているだけのクラスメイトの関係なのに。
 鵜飼は何を考えているのだろう。
 隣の存在を気にしながらも、僕はそのまま足を進めた。

 優しく吹き抜ける朝の風は少し涼しさを感じる。日中は暑くても、秋が来ていると感じる。
 それなのに僕の額には汗が滲んでいる。
 分かっている。これは気候のせいじゃなく、緊張のせいだ。

 先ほどからチラチラと目線を感じて落ち着かない。
 正門前の通学路に入ると、それが著明になった。
 皆の言いたいことは分かる。イケメン鵜飼の隣に僕がいるからだ。釣り合うわけない。
 学校に近付くほど視線を感じて、僕はどんどん背を丸めた。

 ――注目とか、されたくないのに。
 そう思って大きくため息をついた。
「体調、悪い?」
 心配そうな声に、僕はブンブンと首を振った。
「いや、大丈夫」
 この状況でひょうひょうとしている鵜飼が羨ましい。きっとバレーで度胸がついているのだろう。

「そっか。今日は奢るけど、どこか行きたいとこある? 花崎がよく行くとこ教えて」
 お詫びと言っていたけれど、本当に奢ってくれるつもりだろうか。
「あ、奢るとかいいって。けど、そうだなソイゼでドリンクバーとか、どう?」
 提案に乗ってくれたら嬉しい、と思いながら、後ろめたさで僕の心臓がドキドキする。

 ドリンクバーなら温かい紅茶が準備できる。そうなれば『惚れ薬』が出来るかも。
 あんなの中世のまじないなんてバカバカしい。
 そう思う自分と、ちょっと試してみたい気持ちが混在している。

「オッケ。ソイゼな。つか、意外なんだけど。花崎ならゲーム関係とか、ゲーセンとか言うと思った」
 そう言われてドキッとする。
 どうしてゲーム好きと思ったのだろうか。

 ――もしかして、僕のこと、バレてたり、しないよな。
 僕を良く知らないだろう鵜飼に言い当てられたことが不安を生む。
 少し、手が震えた。
 
「そっか?」
 僕は自分の気持ちがバレないように、短く返事をして教室に急いだ。