『惚れ薬』が効きすぎるなんて、令和の時代にアリですか⁉

④
 鵜飼の去った後をぼんやり見ていると、ポンと肩に刺激が走る。
 僕の肩に手を置いているのは青木だ。

「見ていたぞ。花崎、もしかして復讐計画の幕開けか?」
 青木の言葉に『惚れ薬』のことを思い出す。
「やべ、花崎最高すぎ。作戦実行すんの? 鵜飼、モテるのに誰とも付き合わんし、これ面白そ。楽しすぎ」
 渡辺までからかってくる。
「まぁな。つか、お前ら暇すぎ! 首突っ込んでくるなよ」
「だって楽しみが少ないんだもん」
 可愛子ぶる青木を小突いて教室を後にした。

 ――惚れ薬、か。あの鵜飼が誰かを好きになったら。きっと学校中の大騒ぎになるな。

 想像すると楽しくなる。ま、ちょっとふざけるだけだ。
 そう思い、歩きながら図書室で借りた本を開く。
 惚れ薬のページ。
 そこには、中世の女性が意中の男性を射止めるために、茶会などで行っていたとされる『魔女の紅茶』が載っている。
『温かな紅茶に、月光を浴びせたローズマリーの香りを足して、パンジーの花弁を浮かべる。花弁が水面を一回転してから飲ませる』
 は? ローズマリーって、なに?
 意味の分からない言葉にびっくりする。
 というか、パンジーって花だけど、飲み物に入れていいのだろうか。さすが中世のレシピだ。
 今じゃ衛生的に無理じゃないか。
 そう思いながらも、スマホを取り出す。

「これは、AIに聞いてみるか」
 スマホで調べると、ローズマリーはスーパーでも手に入るし、現代では食用パンジーが販売されていることが分かった。
 ――え? これ、いけるかも。
 そんな変なヤル気が湧き上がる。

 その足で大型スーパーに行き、ハーブコーナーでローズマリーを買った。
 材料がひとつ手に入ってテンションが上がった。
 そのまま、ダメもとで花屋に足を運んでみると、偶然にも食用パンジーが手に入ってしまった。

 高揚した気分で家につく。
 材料が揃ってしまった!

 部屋に閉じこもって何度も惚れ薬のページを読んだ。
 ――やっべ。運が僕に向いている。これは、やるしかない!

 偶然にも秋の名月と呼ばれる時期で、最近の夜は月が美しい。月光もばっちりだろう。
 陽が落ちてから、少しワクワクして小皿に乗せたローズマリーを窓辺に置いた。
 ――僕は女子かよ。
 そんな一人ツッコミを入れた。

 ふと心配事が生まれる。
 紅茶にローズマリーやパンジーを入れて味が変にならないのだろうか。
 心配になり、AIにどれくらいの量を入れて良いのか聞きながら、試しに自分で飲んでみた。
 もちろん月光に当てていないローズマリーを使って。

「うわ。ちょい癖がある」
 思ったより薬草のような匂いが気になった。思い切って一口飲むと、味は草っぽくなくて安心する。
「あんまりローズマリー混ぜない方がいいかも。わずかに、だな」
 これは量の調整が大切だ。
 AIに知恵を借りて、ハチミツを混ぜて飲みやすくすることに成功した。

 そこまで考えて、ハッと気が付く。
「つか、こんな怪しいの、絶対飲んでもらえんだろう!」
 そうだ。普通に考えて、他人に変なモノ出されて飲むやつなどいない。鵜飼だって拒否するハズだ。
 一生懸命になっている自分がバカバカしく思える。

「やめやめ。もう寝よ」
 そのままベッドに入ったけれど。
 紅茶を数杯飲んだおかげで目が冴えてしまい、なかなか寝つけなかった。