④
「やっば! これもう、間に合わん」
「あ~、サボるとか、絶対嫌なのに!」
「今からダッシュするか?」
鵜飼の声にフフっと笑う。
「いや、仕方がない。次の授業は諦める」
「んじゃ、弁当食うか」
「あ、鵜飼は食べていいよ。僕は教室に置いてきちゃった」
「まじ? じゃ、半分こするか」
前に鵜飼に「あ~ん」をしたな、と思い出す。
「うん。鵜飼が食べない分をもらおうかな」
鵜飼は軽く笑った。
そして、カポっと自分の弁当を開けて、箸で唐揚げを掴むと、僕の口に運んでくる。
「はい」
いやいや、『はい』じゃない。先に食べるのが僕でいいのかよ。
しかも、一番メインのおかずだろうが。
――ま、でも、鵜飼っぽいか。
僕が口を開けるのを期待している茶色の瞳。その目にハートが潜んで見えて、心の底が温かくなる。
いつもの鵜飼だ。
僕は口をパカッと開けた。想像通りに唐揚げが口に投入される。
――唐揚げ、でっか。
鵜飼は自分の口にも唐揚げと白米を放り込む。
僕の口にも白米を運ぼうとするから、慌てて首を横に振った。
そんなに一気に口に入らない!
ゴクリと飲み込んで、鵜飼に声をかけた。
「あとは鵜飼が食べて。鵜飼の弁当だろ? 僕は教室に行けば自分のがあるんだって」
「そっか? さっきまではメシなんか食える気分じゃなかったんだけど。花崎って不思議なパワーもってんだよな」
「は? 僕が?」
「おお」
鵜飼が弁当を食べるのを見守った。
青空の下で弁当を食べるなんて小学校の遠足みたいだ。
それにサボりをしてしまった特別感。僕は意外と度胸があるのだと知った。
いや、鵜飼の影響なのかも。鵜飼はサボりなのに平然としているから。
ふうっと息を吐いて、風を顔に感じる。
「なぁ、鵜飼は僕が中学時代に、その、ネットとかで騒がれたの、知ってたんだろ?」
どこかの学年が音楽の授業をしているのだろう。校舎から聞き覚えのある曲が流れてくる。
「まぁ、夏に知って」
「二学期になって急に声かけて来たのって、そのせい?」
鵜飼は弁当を食べる手を止めた。
「うん。ごめん。県選抜で活躍できなくて、メンバーと仲良くなることで安心しようとしたのかも。池田が花崎の話題出したからさ、これは乗るしかないって思って。けど、学校始まってから、花崎を観察してさ、ネットに書かれているような嫌な奴じゃない気がして。控えめに周りをじっと見る姿と、ネットの情報がかけ離れていて、さ」
僕は空の雲を眺めた。なんと言ったらいいのだろう。
「ふうん」と口にだして聞けばいいのだろうか。
――あ、ソフトクリームみたいな雲。
鵜飼を見られなくて、空に意識を向ける。
「そのうちに、青木と渡辺にキレられて。興味本位に花崎を見るなって」
――え? 青木?
思いもしなかった人物の登場に驚いて鵜飼の顔に目を向けた。
鵜飼は軽く目尻を下げる。
「なん、で? 青木と、渡辺?」
「ああ。二人は知ってるよ。花崎のこと」
「うっそだ!」
あの二人はそんな素振りを一切見せなかった。
「優しいよな。青木が顔を真っ赤にして怒った時には、正直ビビった。花崎はいい友人に守られているなって」
知らなかった。
あの、青木と、渡辺が。
鼻がツンとする。
僕のことを知っていて、目立たないように一緒にいてくれたのか。
「あいつら……」
「青木が言うにはさ、調子が悪そうでも学校に来る花崎が、偉いんだって。なんか、応援したくなるらしくて」
そんなことを聞くと、恥ずかしくて顔が熱くなる。
「別に、僕は、ただ学校に来ているだけで。特別に頑張っているわけでもない、普通のことなのに」
ちらっと鵜飼を見る。鵜飼のほうが、凄いのに。バレーコートを駆け回る姿はたくさんの人に感動を与えている。
「俺さ、花崎を話のネタにするつもりで見はじめたのに、だんだんと気になって仕方がなくなって。話してみたいって思って、声をかけたんだ」
空に目線を戻して、流れる雲を追う。
「で? 実際の僕は、どうだった?」
「崖っぷちを、本当は怖いのに、平気なフリして歩いている、感じかな」
「なんだそれ」
少し僕の頬が緩む。
「俺が、支えたいって思った。一緒に、いたいって。だから、花崎が図書室で、惚れ薬とか言っているのを聞いて、利用しない手はないって思ったんだ」
ハッとする。鵜飼は僕が彼をだましたことを知っていたのか!
「あ、あの、鵜飼。その件に関しては、ゴメン!」
「いや、楽しかったし。それに、願いは叶ったから、いいんだ」
そうだ。あの紅茶を飲ませたとき、僕は願いを叶えるまじないって言ったのだ。
「鵜飼の、願いって?」
心臓がドキドキとする。
今なら、はぐらかされずに教えてもらえる。そんな確信がある。
「やっば! これもう、間に合わん」
「あ~、サボるとか、絶対嫌なのに!」
「今からダッシュするか?」
鵜飼の声にフフっと笑う。
「いや、仕方がない。次の授業は諦める」
「んじゃ、弁当食うか」
「あ、鵜飼は食べていいよ。僕は教室に置いてきちゃった」
「まじ? じゃ、半分こするか」
前に鵜飼に「あ~ん」をしたな、と思い出す。
「うん。鵜飼が食べない分をもらおうかな」
鵜飼は軽く笑った。
そして、カポっと自分の弁当を開けて、箸で唐揚げを掴むと、僕の口に運んでくる。
「はい」
いやいや、『はい』じゃない。先に食べるのが僕でいいのかよ。
しかも、一番メインのおかずだろうが。
――ま、でも、鵜飼っぽいか。
僕が口を開けるのを期待している茶色の瞳。その目にハートが潜んで見えて、心の底が温かくなる。
いつもの鵜飼だ。
僕は口をパカッと開けた。想像通りに唐揚げが口に投入される。
――唐揚げ、でっか。
鵜飼は自分の口にも唐揚げと白米を放り込む。
僕の口にも白米を運ぼうとするから、慌てて首を横に振った。
そんなに一気に口に入らない!
ゴクリと飲み込んで、鵜飼に声をかけた。
「あとは鵜飼が食べて。鵜飼の弁当だろ? 僕は教室に行けば自分のがあるんだって」
「そっか? さっきまではメシなんか食える気分じゃなかったんだけど。花崎って不思議なパワーもってんだよな」
「は? 僕が?」
「おお」
鵜飼が弁当を食べるのを見守った。
青空の下で弁当を食べるなんて小学校の遠足みたいだ。
それにサボりをしてしまった特別感。僕は意外と度胸があるのだと知った。
いや、鵜飼の影響なのかも。鵜飼はサボりなのに平然としているから。
ふうっと息を吐いて、風を顔に感じる。
「なぁ、鵜飼は僕が中学時代に、その、ネットとかで騒がれたの、知ってたんだろ?」
どこかの学年が音楽の授業をしているのだろう。校舎から聞き覚えのある曲が流れてくる。
「まぁ、夏に知って」
「二学期になって急に声かけて来たのって、そのせい?」
鵜飼は弁当を食べる手を止めた。
「うん。ごめん。県選抜で活躍できなくて、メンバーと仲良くなることで安心しようとしたのかも。池田が花崎の話題出したからさ、これは乗るしかないって思って。けど、学校始まってから、花崎を観察してさ、ネットに書かれているような嫌な奴じゃない気がして。控えめに周りをじっと見る姿と、ネットの情報がかけ離れていて、さ」
僕は空の雲を眺めた。なんと言ったらいいのだろう。
「ふうん」と口にだして聞けばいいのだろうか。
――あ、ソフトクリームみたいな雲。
鵜飼を見られなくて、空に意識を向ける。
「そのうちに、青木と渡辺にキレられて。興味本位に花崎を見るなって」
――え? 青木?
思いもしなかった人物の登場に驚いて鵜飼の顔に目を向けた。
鵜飼は軽く目尻を下げる。
「なん、で? 青木と、渡辺?」
「ああ。二人は知ってるよ。花崎のこと」
「うっそだ!」
あの二人はそんな素振りを一切見せなかった。
「優しいよな。青木が顔を真っ赤にして怒った時には、正直ビビった。花崎はいい友人に守られているなって」
知らなかった。
あの、青木と、渡辺が。
鼻がツンとする。
僕のことを知っていて、目立たないように一緒にいてくれたのか。
「あいつら……」
「青木が言うにはさ、調子が悪そうでも学校に来る花崎が、偉いんだって。なんか、応援したくなるらしくて」
そんなことを聞くと、恥ずかしくて顔が熱くなる。
「別に、僕は、ただ学校に来ているだけで。特別に頑張っているわけでもない、普通のことなのに」
ちらっと鵜飼を見る。鵜飼のほうが、凄いのに。バレーコートを駆け回る姿はたくさんの人に感動を与えている。
「俺さ、花崎を話のネタにするつもりで見はじめたのに、だんだんと気になって仕方がなくなって。話してみたいって思って、声をかけたんだ」
空に目線を戻して、流れる雲を追う。
「で? 実際の僕は、どうだった?」
「崖っぷちを、本当は怖いのに、平気なフリして歩いている、感じかな」
「なんだそれ」
少し僕の頬が緩む。
「俺が、支えたいって思った。一緒に、いたいって。だから、花崎が図書室で、惚れ薬とか言っているのを聞いて、利用しない手はないって思ったんだ」
ハッとする。鵜飼は僕が彼をだましたことを知っていたのか!
「あ、あの、鵜飼。その件に関しては、ゴメン!」
「いや、楽しかったし。それに、願いは叶ったから、いいんだ」
そうだ。あの紅茶を飲ませたとき、僕は願いを叶えるまじないって言ったのだ。
「鵜飼の、願いって?」
心臓がドキドキとする。
今なら、はぐらかされずに教えてもらえる。そんな確信がある。
