②
昼休み。
きっと鵜飼は教室で昼食を食べないだろう。
僕は声を掛けたくて、終礼と共に鵜飼のほうに向かった。
鵜飼は何かを予測してか、サッと廊下に出てしまう。
慌てて鵜飼を追いかける。
――嫌だ! ちゃんと、話したい!
僕は息を吸い込んで腹に力を入れた。
「鵜飼! ちょっと待てって!」
僕の声は思いの外、廊下に響いた。
廊下にいる人が僕に視線を向ける。
本当ならこんな注目されることは嫌だけれど、鵜飼を引き留めることに必死だった。
不思議と周囲が気にならない。
僕の目に映るのは鵜飼だけ。
鵜飼は足を止めて、振り返る。
視線は下を見たまま。僕に向かない。
だけど。
――良かった。まだ僕の声が届く。
そう安堵した。
鵜飼に向けて僕が足を進めたとき。
「花崎、もう俺に構わなくていいから」
冷たい声を残して、鵜飼が踵を返す。
「おい、鵜飼!」
あっと思う間に鵜飼は歩き始める。
長身の鵜飼が早歩きすると、とても僕は追いつけない。
去っていく背を見つめて僕は大きく息を吐いた。
これまで鵜飼といて歩くペースが違うと思ったことはない。
だけど、もしかしたら鵜飼が僕に合わせてゆっくり歩いてくれていたのかも。そんな気がした。
――考えてみれば、僕はいつも鵜飼の優しさに甘えていた、かも。
鵜飼はバレーボールの楽しさを教えてくれて、僕と関わるために昼食を一緒に食べてくれて。
僕は全て受け身で、鵜飼の積極さに流されていた。
その鵜飼が背を向けると、僕はどうやって関わっていいのか分からない。
全てを拒絶するような張り詰めた雰囲気の鵜飼に関わらない方がいいのだろうか。
だけど、僕の心がザワついて、手を差し伸べたいって声を上げる。
そっとしておくべきか、励ましの声を掛けるべきか。
そもそも、僕が励ましていいのだろうか。
鵜飼には他の仲間がいるのに。僕が出しゃばるべきじゃないのかも。
よく分からなくなる。
「あ~! もう!」
廊下で独り言を吐き、頭をガシガシ掻いた。
その時、僕の肩がポンと叩かれた。
顔を上げれば青木がいる。
「花崎、おつ。鵜飼は、教室では食わんか。花崎はどうする? 俺らと食べる?」
マイペースな青木に救われる。
心にモヤモヤが残っていて、一人で教室に戻るのが嫌だった。
「うん。じゃ、一緒に食べていい?」
「もちろん」
青木と教室に入ると、渡辺がヒラヒラと手を振った。
その姿を見て、ホッと落ち着く。
――やっぱり僕は平凡に生きるのが合ってる。
青木と渡辺の変わらない様子に心がジンと温まる。
――もう、鵜飼はそっとしておくほうがいいのかな。
土曜日に一人残った寂しさを思い出す。日曜日は、連絡が取れなくて胃がキリキリするほど悩んだ。
鵜飼に心が乱されっぱなしだ。
今なら、まだ間に合う。
青木たちの平凡の輪に入って、鵜飼と距離を置いて、卒業まで……。
僕の心臓がドクンと動く。
心の奥底で『そんなのダメだ!』と声がする。
鵜飼からもらったキラキラした感動を思い出す。バレーボールの躍動感が再現されて心を刺激する。
鵜飼の笑顔が脳裏に浮かぶ。
鳥のように跳んでスパイクを決める姿も。
「優勝する」と豪語した自信たっぷりの顔。
鮮明な光景を思い出し、胸が痛くなる。
「食べないのか?」
青木の声にビクっとする。
「あ……」
僕は席に着いたけれど、弁当を広げずにぼんやりとしていた。
ハッと顔を上げて青木と渡辺に目を向ける。
二人とも、モグモグと口を動かしながら僕の顔を見ていた。
――ヤバ。食わないと。
そう思った時。
「花崎、鵜飼なら体育館だろ。体育館の昇降口の外階段。落ち込むと、多分そこ。日陰になってるとこ見てみ」
突然の声がした。
声の方に向けば、もともと鵜飼が一緒に昼食を食べていたグループが僕に話しかけている。
クラスの中心にいる彼らに話しかけられるなんて、驚いて声が出ない。
「はい。あのさ、鵜飼君、食事は口に通らないかもじゃん? これ、あげる。必ず、渡してきてね」
近くの席にいた川本が、購買で買ったのだろうドーナツを二つ、僕の前に置く。
「……あり、がとう」
驚きすぎて何度もドーナツと川本を見つめた。
「行って来いって、花崎」
青木の声だ。僕は狼狽えてしまい、キョロキョロと周りを見渡した。
教室の皆が食事をとる手を止めて、僕を見ている。
その瞳が優しくて。
「花崎、鵜飼を頼んだ」
誰かの声がした。
僕にはそれが誰か分からなくて、ただ、必死に教室を眺めた。
胸がジンと熱い。
息が震える。
――よし!
「ありがとう! 行ってくる!」
僕はドーナツを掴んで教室を飛び出した。
僕が教室を出た後、ワッと歓声が起こっていた。
なんだか、照れくさくて、心が熱くて。
――友達って、いいな。
心からそう思った。
昼休み。
きっと鵜飼は教室で昼食を食べないだろう。
僕は声を掛けたくて、終礼と共に鵜飼のほうに向かった。
鵜飼は何かを予測してか、サッと廊下に出てしまう。
慌てて鵜飼を追いかける。
――嫌だ! ちゃんと、話したい!
僕は息を吸い込んで腹に力を入れた。
「鵜飼! ちょっと待てって!」
僕の声は思いの外、廊下に響いた。
廊下にいる人が僕に視線を向ける。
本当ならこんな注目されることは嫌だけれど、鵜飼を引き留めることに必死だった。
不思議と周囲が気にならない。
僕の目に映るのは鵜飼だけ。
鵜飼は足を止めて、振り返る。
視線は下を見たまま。僕に向かない。
だけど。
――良かった。まだ僕の声が届く。
そう安堵した。
鵜飼に向けて僕が足を進めたとき。
「花崎、もう俺に構わなくていいから」
冷たい声を残して、鵜飼が踵を返す。
「おい、鵜飼!」
あっと思う間に鵜飼は歩き始める。
長身の鵜飼が早歩きすると、とても僕は追いつけない。
去っていく背を見つめて僕は大きく息を吐いた。
これまで鵜飼といて歩くペースが違うと思ったことはない。
だけど、もしかしたら鵜飼が僕に合わせてゆっくり歩いてくれていたのかも。そんな気がした。
――考えてみれば、僕はいつも鵜飼の優しさに甘えていた、かも。
鵜飼はバレーボールの楽しさを教えてくれて、僕と関わるために昼食を一緒に食べてくれて。
僕は全て受け身で、鵜飼の積極さに流されていた。
その鵜飼が背を向けると、僕はどうやって関わっていいのか分からない。
全てを拒絶するような張り詰めた雰囲気の鵜飼に関わらない方がいいのだろうか。
だけど、僕の心がザワついて、手を差し伸べたいって声を上げる。
そっとしておくべきか、励ましの声を掛けるべきか。
そもそも、僕が励ましていいのだろうか。
鵜飼には他の仲間がいるのに。僕が出しゃばるべきじゃないのかも。
よく分からなくなる。
「あ~! もう!」
廊下で独り言を吐き、頭をガシガシ掻いた。
その時、僕の肩がポンと叩かれた。
顔を上げれば青木がいる。
「花崎、おつ。鵜飼は、教室では食わんか。花崎はどうする? 俺らと食べる?」
マイペースな青木に救われる。
心にモヤモヤが残っていて、一人で教室に戻るのが嫌だった。
「うん。じゃ、一緒に食べていい?」
「もちろん」
青木と教室に入ると、渡辺がヒラヒラと手を振った。
その姿を見て、ホッと落ち着く。
――やっぱり僕は平凡に生きるのが合ってる。
青木と渡辺の変わらない様子に心がジンと温まる。
――もう、鵜飼はそっとしておくほうがいいのかな。
土曜日に一人残った寂しさを思い出す。日曜日は、連絡が取れなくて胃がキリキリするほど悩んだ。
鵜飼に心が乱されっぱなしだ。
今なら、まだ間に合う。
青木たちの平凡の輪に入って、鵜飼と距離を置いて、卒業まで……。
僕の心臓がドクンと動く。
心の奥底で『そんなのダメだ!』と声がする。
鵜飼からもらったキラキラした感動を思い出す。バレーボールの躍動感が再現されて心を刺激する。
鵜飼の笑顔が脳裏に浮かぶ。
鳥のように跳んでスパイクを決める姿も。
「優勝する」と豪語した自信たっぷりの顔。
鮮明な光景を思い出し、胸が痛くなる。
「食べないのか?」
青木の声にビクっとする。
「あ……」
僕は席に着いたけれど、弁当を広げずにぼんやりとしていた。
ハッと顔を上げて青木と渡辺に目を向ける。
二人とも、モグモグと口を動かしながら僕の顔を見ていた。
――ヤバ。食わないと。
そう思った時。
「花崎、鵜飼なら体育館だろ。体育館の昇降口の外階段。落ち込むと、多分そこ。日陰になってるとこ見てみ」
突然の声がした。
声の方に向けば、もともと鵜飼が一緒に昼食を食べていたグループが僕に話しかけている。
クラスの中心にいる彼らに話しかけられるなんて、驚いて声が出ない。
「はい。あのさ、鵜飼君、食事は口に通らないかもじゃん? これ、あげる。必ず、渡してきてね」
近くの席にいた川本が、購買で買ったのだろうドーナツを二つ、僕の前に置く。
「……あり、がとう」
驚きすぎて何度もドーナツと川本を見つめた。
「行って来いって、花崎」
青木の声だ。僕は狼狽えてしまい、キョロキョロと周りを見渡した。
教室の皆が食事をとる手を止めて、僕を見ている。
その瞳が優しくて。
「花崎、鵜飼を頼んだ」
誰かの声がした。
僕にはそれが誰か分からなくて、ただ、必死に教室を眺めた。
胸がジンと熱い。
息が震える。
――よし!
「ありがとう! 行ってくる!」
僕はドーナツを掴んで教室を飛び出した。
僕が教室を出た後、ワッと歓声が起こっていた。
なんだか、照れくさくて、心が熱くて。
――友達って、いいな。
心からそう思った。
