『惚れ薬』が効きすぎるなんて、令和の時代にアリですか⁉

①
 月曜日の朝が来た。
 学校に行きたくないけれど、行かなくてはいけない。

 土曜日は勇気がなくて鵜飼に連絡ができなかった。
 悩みに悩んだけれど、ラインを送ることさえできなかった。
 ――鵜飼は疲れていただけかもしれないし。
 そう自分を励ましても、あの冷たい目が頭から離れない。

 せめて鵜飼から連絡があれば安心できたのに。
 土曜日の夜も、日曜日も僕のスマホは鳴らなかった。
 ――鵜飼、どうしたんだよ……。

 張り裂けそうな心が辛い。
 でも、前の時とは違う。僕は鵜飼の事が大切で大好きだ。だからこそ、鵜飼の言葉を聞きたい。
 そのために、引きこもって逃げたらダメだ。
 鵜飼は大声援の中、あれだけのプレッシャーの中、戦っていた。僕だって逃げずに前を向きたい。
 ――よし!
 気合いを入れて家を出る。
 寝不足だし、もしかしたら眩暈を起こすかもしれない。

 ふと考える。鵜飼は、まだ僕を支えてくれるだろうか。
 ふらついたら背負ってくれるだろうか。
 不安ばかりが頭に過って胸が苦しい。

 ――考えたらダメだ!
 大きく深呼吸をして足を進める。

 十月が半ばになると朝の空気は凛としている。空も高く見える。
 ――うん。天気もいいし、大丈夫!
 リュックの紐をギュっと握っていつもの道を歩む。

 けれど。
 いつもなら鵜飼が現れる場所についても鵜飼は来ない。
 少し待ってみるけれど、やっぱり来ない。

 ――いなかった。もう、ダメ、かな。
 頑張って足を進めたぶん、鵜飼がいなかったショックが大きくて気持ちが沈む。
 急に重くなった足をやっとの思いで前に進めた。

 教室に着くと、いつもの騒めきがやけに耳についた。ちょっとムッとするくらい気に障った。

 その時。
「ねぇねぇ、聞いて! ビックニュース!」
 大きな声の川本の声が響く。キンキン声に思わず耳を塞ぎたくなった。

「鵜飼君、県選抜選手から落ちたんだって!」

 ――はぁ⁉
 驚きすぎて川本をまじまじと見つめた。

「まじぃ? どこ情報よ」
「バレー部男子情報だから確実~! 週末に通告されたって」

 ――そんな! そんなバカなことって!
 頭が真っ白になる。
 土曜日の鵜飼は、表彰式まではニコニコと嬉しそうだった。
 だけど、態度がおかしかったのは帰宅のとき。

 それまでに、なにか通達があったのだとすると……。

 帰りの時に笑えるわけなどない! 
 微笑み返すことなど、鵜飼にできるわけがない!

 鵜飼がどれだけバレーボールを好きか知っているから、苦しさが痛いほどわかる。
 ――鵜飼!
 青ざめて鵜飼の席に目を向ける。鵜飼はまだ来ていない。
 でも、この時間なら、きっとどこかにいる。登校しているはず。

 ――探しに行かなくちゃ!
 ガタン、と椅子を鳴らして席を立ったけれど。
 その時、黒板側の出入口から鵜飼がヌッと姿を見せた。

 教室が一瞬静まり、鵜飼に目線が集まる。
 鵜飼はそれらに何の反応もせず、スタスタと自分の席に着いた。
 話しかけたいけれど。
 鵜飼は机に突っ伏してしまう。誰も声を掛けるな、と背中が語っていて近づけない。

 その内に担任が入ってきてホームルームが始まった。
 担任から土曜日のバレーボール部の優勝が告げられて、皆がパラパラと拍手を送った。
 鵜飼は下を向いたまま、ぺこりとお辞儀をした。

 その様子が痛々しくて鼻の奥がツンとする。
 ――いますぐに鵜飼を僕の腕の中に隠したい。
 僕は唇を噛んでそう望んだ。