『惚れ薬』が効きすぎるなんて、令和の時代にアリですか⁉

③
「お。とうとう中世魔女狩りに興味持ったか」
 突然聞こえた青木の声に笑いを返す。
「いや、グロいのは苦手。つか、過去の魔女レシピとか面白いじゃんって思ってさ」
 適当にページを開いて見せると、青木がプハッと吹き出した。
「花崎、それ、試すのか?」

 ん? 何を試すのだ? 
 見せたページを確認すれば、「惚れ薬」のページが開かれていた。これは笑われて当然だ!
「違う! 偶然だって」
「おっまえ、誰に使う気だよ~」
 全否定をして本を閉じた、けれど。ふと僕の頭に浮かぶ考え。
 いいイタズラを思い付いた感覚で笑いが込み上げる。
 僕はニッと口角を上げた。

「青木。僕はこれを鵜飼に飲ませるんだ」
「は、はぁ? 何言ってんだ?」
「だから、さっきの仕返しだ。鵜飼め。僕に恥をかかせた罰をうけろ!」
「うっわ。陰険~。花崎が狂った」
 ブハハと青木が笑うから、つられて僕も笑ってしまい、図書委員から睨まれた。
 小さく肩をすくめて、スミマセン、とアピールする。

「ばっか、お前ら怒られてんじゃん」
 渡辺が近くに来る。
「だってさ、花崎が魔女本で惚れ薬作るって言うからさ」
「ブッハ! なんだそれ」
「だっろ? 鵜飼に使うんだと」
「なんで鵜飼だよ? 女子に使うんじゃないんだ」
「それが、さっきの仕返しだって」

 二人にからかわれてムッとする。
「おう。鵜飼に飲ませるわ。見てろ。鵜飼は木村先生にでも惚れてしまえ!」
 これには青木と渡辺が同時に吹き出した。

 木村先生は停年間近のヒステリックな女性教師。生徒の人気ワーストワン。イケメン鵜飼と木村先生のペアを想像すると僕も笑いが込み上げた。
 けれど、さすがに図書委員に咳払いをされてしまい、僕らは手にしていた本を借りて、図書室から退散した。

「ああ、俺の避暑地が」
 残念がる青木に「今日は諦めろ」と声を掛けて教室に戻る。

 自分の席に着く前に鵜飼に目を向けたけれど彼はいなかった。きっと女子に案内されて花菱のところに行ったのだ。僕への失礼はすっかり忘れて、楽しい陽キャの時間にしていることだろう。

 ――僕は、すごく嫌な思いをしたのに。
 僕の中に鵜飼に対して苦手意識が生まれた。


「以上でホームルームを終わります」
 担任の先生の声とともに教室内が動き出す。
 この静と動が切り替わる瞬間が僕は好きだ。
 何かのスタートを見ている気分になる。

 いつものようにしばらくその雰囲気を楽しんでいると、ぬっと僕に影がかかった。
 驚いて見上げると鵜飼が立っている。彼を見た瞬間に僕の眉間に皺が寄った。
 無意識に軽く睨んでいた。
「花崎、あのさ……」
 申し訳なさそうに声を掛けてくる鵜飼の言葉を聞きたくなくて、彼の言葉を遮るように僕は口を開いた。
「化学のノートは借りれたか?」
 思ったより棘のある声音になっていると自分で思った。ちょっとやりすぎたかも。

 ちらっと鵜飼を見れば、傷ついた顔をしていた。そんな表情を目にすると心がズキッとする。
「あ、借りられたんだけど。えっと、昼は、ごめん」
 しおらしく謝る鵜飼からは意地悪な雰囲気は伝わってこない。
 ――わざとじゃ、ないのかも、な。
 本当に花菱と僕を勘違いしただけかもしれない。それなら、こちらが勝手に怒って拗ねているのは、僕の方がいかがなものかと思えてくる。

 もういいにしようかと思った時。

「あ、鵜飼君。なになにぃ? これは化学が得意じゃない花崎君だよぉ。花菱君とは違うからね」
 昼休みに鵜飼と話していた川本が会話に割り込んできた。途端に気分が悪くなる。
 ――悪かったな、頭の出来が悪いほうで。
 おさまっていた怒りが再燃する。
「あ、ちょっと、花崎と話したいから」
 優しく川本に対応する鵜飼を一瞥して、僕はフンと鼻を鳴らした。
「いや、僕はもう用事はないし。ほら、川本さんと帰ったら?」

 嫌味のように声を掛ければ、川本は頬をピンクに染めて破顔した。
「ええ! 花崎ぃ、良い奴じゃん! ねぇ、鵜飼君。花崎君もこう言ってるし、一緒に帰ろ」
 甘い声に『やってられるか!』と内心毒づいてリュックを手にした。
「いや、川本さん、ごめん。俺は部活あるから」
 ああ、そうですか。青春どうぞ、と思いながら、僕は先に帰ろうとしたのに。

「花崎、明日の放課後は空いてる?」
「は?」
「今日の詫び、させて」
「え? じゃぁ、あたしも一緒しちゃお」
 相変わらずアピールの強い川本が割り込む。
「川本さん、ごめんだけど花崎と二人で話したいから」
 ハッキリと断る鵜飼に驚いた。僕は二人のダシにされていると思っていたのに。
 川本は不機嫌に口をとがらせて去っていく。
「なんで、僕と?」
 思ったことが口に出ていた。
「だから、詫び。明日はバレーの練習ないし。どっか寄って帰ろ。いい?」
 まじまじと鵜飼を見てしまった。だって、僕と鵜飼では輝きのランクが違うから。

 僕はこんな陽キャと並びたくない。心でそう思っても、そんな理由で断ることなど実際には出来ない。
「うん。いい、けど……」
 少し困りながら返事をした。
「オケ。じゃな」
 鵜飼は爽やかな笑顔を残して背を向けた。