『惚れ薬』が効きすぎるなんて、令和の時代にアリですか⁉

⑨
 閉会式を終え、鵜飼たちが会場から出てくるのを外で待った。
 すでに時間は十八時半。
 すっかり暗くなっている。

 ――虫の声とか。秋っぽい。
 ゲームばかりに気を取られていたけれど、外の世界って季節感があるな、としみじみする。
 さっきまでの感動が残っているのか、ちょっと感傷的になっている。そんな自分がくすぐったい。

 鵜飼と関わって僕の世界が変わった。
 毎日を平凡に目立たずに生きてきた僕に、人の中心で輝く鵜飼の生き方は刺激的だ。
 僕の心を埋め尽くすくらい影響力がすごい。好きだって思ってしまうくらいに。
 そう、鵜飼が好きなんだよなぁ。

 鵜飼が舐めた右手にチラッと目を向ける。
 いつもの自分の右人差し指がちょっと特別に思えたりして。
 いや、待て待て。何をときめいているのだ。僕はアホか。普通に考えて、汚いし、変態かって思うだろ。
 ――でも、なんか、ちょっとドキドキするって言うか……。

 自分の指をそっと手で包んで、胸に当てる。
 ――好きってすごいなぁ。変態行為にも、キュンとするのかぁ。
 そんなことを考えて頬が緩んだ。

 鵜飼が早く出てくるといい。今日は話せないかもしれない。
 ゆっくり話すのは、鵜飼の疲れが取れてからだ。今日は休養が最優先。
 それでも、僕は鵜飼に「お疲れさま」と「ありがとう」を伝えたい。
 あの熱気をありがとう、と言いたい。
 それに、優勝おめでとう、も。

 だからここで待っている。
 鵜飼に伝えたいことばかりだ。
 僕は少し欲張りだなぁ。 
 涼しくなった風を肌で感じて、虫の音に耳を傾けた。

 少しすると選手たちがゾロゾロ出てきた。
 ――あ! いた!
 鵜飼を見つけた。だけど、部活のみんなでまとまっていて、声を掛けていいのか分からない。
 考えてみれば、鵜飼たちは部活の団体で来ているのだ。
 きっと高校までマイクロバスでまとまって帰るはずだ。
 ――うわ。僕はなにをしてるんだ!
 鵜飼が個人的に僕に時間を取れるわけがないのに。
 今日はこればっかりだ。
 僕の思いばかり優先させてしまって、鵜飼の立場とかすっぽ抜けている。

 ――僕、ダメダメじゃんか。
 鵜飼の迷惑になってはいけない。鵜飼に見つからないようにその場を離れようとしたけれど。

 鵜飼が僕に気が付いて、軽く手を振った。
 その顔は疲れ切っている。
 かつて見たことがないほど鵜飼が疲弊している。
 それはそのはずだ。
 あれだけの試合をこなしたのだから。
 その姿を見たら、僕が言いたい言葉は全て引っ込んだ。

 今は声を掛けなくていい。鵜飼に無理をさせたくない。
 見送るだけで十分だ。
 僕は精一杯両手を振った。
 心の中で精一杯『お疲れ様』と言いながら、鵜飼に微笑みかけたけれど。

 鵜飼が僕からフイっと目を逸らした。

 ――え?

 気のせい、だろうか。鵜飼の目が僕を冷たく見た、気がする。

 いつもの鵜飼なら微笑み返してくれる。嬉しそうに頬を染める。
 目にハートが見えるほどに、僕に好意を向ける、はずなのに。
 鵜飼は皆の中に紛れて行ってしまう。
 去っていく背を見つめて、僕は呆然と立ち尽くした。

 ――なんで? 
 マイクロバスは選手が乗ると明かりをつけて出発する。

 僕は、何かしてしまったのだろうか。
 知らないうちに鵜飼に嫌われたのだろうか。

 それとも。
『惚れ薬』の効果が、切れた?

 絶望に身体が震える。
 ――そんな! こんなタイミングで!

 動けない僕を残して、総合体育館の照明が消える。
 ――どうし、よう……。
 一気に寂しくなる光景に、一人残されて膝が震えた。