⑧
決勝戦が始まったのは、十六時半。
僕たちの晴青高校と池田がいる赤泉高校との対決。
池田は鵜飼と高校選抜で一緒にプレーしている。
嫌な予感がした。晴青高校の主力は鵜飼だ。
池田はきっと鵜飼のプレーを知っている。必ず対策を立ててくる。
――鵜飼、頑張れ。
切に願って試合開始の笛の音を聞いた。
試合開始から両者とも一歩も譲らない攻防が続く。
やはり鵜飼は高身長のブロッカーにマークされていた。
けれど、鵜飼はブロックを上手く利用して点を決めていく。
フェイントをかけたり、ブロックにわざと当てて弾かせたり。
―――うっわ! ドキドキする!
こんなに興奮したのはいつぶりだろう。会場の臨場感もすごい。
広い体育館でたった一つの試合に皆が歓声を上げている。身体中が興奮してゾワゾワする!
僕は神に祈るように両手を胸の前に組んで鵜飼を目で追った。
体育館で響く声、ボールが跳ねる音、鵜飼が跳ぶ靴の音。
全てがスポットライトを浴びた別世界のように見える。
あんな中で活躍できるなんて。
感動と尊敬で身震いが起きる。
「鵜飼ぃ! 決めろぉ!」
心の奥底が熱い。僕の口から声援が飛び出る。
気が付けば、僕は席を立って身を乗り出して応援していた。
こんなに叫んで必死になったことなどない。
これほどガッツボーズを高く上げたことなどない。
涙が流れようが、鼻水が垂れようが、鵜飼から目が離せない。
試合は緊迫した。
第一セットは晴青高校がとった。
第二セットは赤泉高校が取り返した。
これで、ストレート勝ちはなくなった。
というか、鵜飼たちは勝てるのだろうか。
そんな不安が僕の心臓をキリキリと刺激する。
だけど。
きっと鵜飼の方が大変な思いを抱えているはずだ。
だって、この試合の主役なのだから。
第二セットを終えて、タオルを頭にかぶり肩で息をする鵜飼を見守る。
悔しい。僕は見守るしかできないなんて。
試合前に触れた鵜飼の背は汗で湿っていた。
きっと今は汗で重くなっているはずだ。
その背を軽くしてあげたくて。何か一つでも鵜飼にしてあげたくて。
それなのに、鵜飼までが遠すぎる!
「鵜飼、頑張れ」
呟くような小さな声が口から漏れた。
次の第三セットをとれば鵜飼が勝つ。この大会は二セット先取制。
だけど、鵜飼の疲労が大きい。ここから見ていても分かる。
第三セットの中盤。
「あっ!」
初めて鵜飼がサーブミスをした。
ジャンプサーブがネットにかかってしまった。相手コートにボールが届かず、床に転がる。
――鵜飼!
鵜飼は肩で息をしている。
「ピー」
審判の笛が響く。監督からの指示で選手交代。
鵜飼がベンチに座り込む。飲み物を飲んで、一息つくと鵜飼は笑顔になった。
「サーブミスってゴメン」そんな会話が聞こえてきそう。
――もう、もう、無理しなくて、いいよ。
頑張る鵜飼を応援したいけれど、これ苦しい思いをしなくていいと思える。
ハラハラして見守ると、鵜飼はスッと立ち上がり、僕の方に目を向けた。
ドキッとする。汗まみれの鵜飼の瞳に、僕だけが映っている。
そんな錯覚が生まれる。
その時、鵜飼がニッと笑った。
その輝く笑顔に、僕の胸がキュンキュンする。
「はうぅ」っと声に出しそうになり、慌てて自分の胸を押さえた。
いけない。今は周囲に人もいるし、試合中だし。
――あいつ、遠距離ビームも使えるのか。つか、僕もいちいち反応すんなよ。
自分を落ち着かせながらコートに目を向ける。
鵜飼は選手交代でまたコートに戻っている。点は大きく動いていない。
チラっと相手チームを見る。セッターのポジションに池田がいる。
彼も汗だくだ。皆が必死になっている。
体育館の中が一体になって試合の行方を追っている。
僕の肌がゾワッとする。
きっと高校野球に夢中になる人たちってこんな感覚なのだろう。
彼らの一生懸命さにドキドキが止まらない。
さらに僕は鵜飼に息さえ苦しくなるほどのドキドキをもらっている。
試合は両者譲らずに、競りながらマッチポイントに突入した。
なんと、マッチポイントをとっているのは赤泉高校。晴青高校は一点差につけている。
――次の一本だけはとられるわけにいかない!
その思いは晴青高校応援団も同じだ。ものすごい声援が飛ぶ。
赤泉高校からは逆の声援。
その勢いが心臓にドッドッと響く。
――僕も。精一杯の応援を、鵜飼に!
「鵜飼! 決めろぉ! 晴青高校ぉ、頑張れぇ!」
必死に声を張り上げる。僕の額に汗が滲む。
変なの。僕がバレーボールをしているわけじゃないのに。
だけど、この必死さが全部鵜飼の元に届くのだとしたら。鵜飼の力になるのだとしたら。
――僕の全てを鵜飼に。
そう願った。
赤泉高校からサーブが放たれる。
そのボールに会場中の意識が集中する。
晴青高校がレシーブをし、トスが上がる。そのトスは、やっぱり鵜飼の元に上がっていく。
「打てぇ! 鵜飼、決めろぉ!」
手を握りしめて声援を送った。
鵜飼が高く跳ぶ。だけど正面のブロックもダブルで付いている。
――お願い! 決まって!
強く願い過ぎて僕の腕がブルブル震えた。
鵜飼がバシッとボールを打ち抜く。
ボールがブロックに当たりながらも相手コートの床にバウンドする。
ワッと喝采が上がった!
僕はもう涙が止まらなくて。
鵜飼が眩しくて。
この一点奪取が功を奏して、晴青高校が第三セットを勝ち取った。
勝利の歓喜の波に僕の心が飲みこまれた。
閉会式で表彰される鵜飼の晴れやかな顔。戦った後の選手たちの様々な姿。
まるでドラマのワンシーンを見ているようだった。
僕は今日大会に参加していた全ての選手に拍手を送った。こんな感動はこれまで知らなかった。
鵜飼の生きている世界はすごい。
決勝戦が始まったのは、十六時半。
僕たちの晴青高校と池田がいる赤泉高校との対決。
池田は鵜飼と高校選抜で一緒にプレーしている。
嫌な予感がした。晴青高校の主力は鵜飼だ。
池田はきっと鵜飼のプレーを知っている。必ず対策を立ててくる。
――鵜飼、頑張れ。
切に願って試合開始の笛の音を聞いた。
試合開始から両者とも一歩も譲らない攻防が続く。
やはり鵜飼は高身長のブロッカーにマークされていた。
けれど、鵜飼はブロックを上手く利用して点を決めていく。
フェイントをかけたり、ブロックにわざと当てて弾かせたり。
―――うっわ! ドキドキする!
こんなに興奮したのはいつぶりだろう。会場の臨場感もすごい。
広い体育館でたった一つの試合に皆が歓声を上げている。身体中が興奮してゾワゾワする!
僕は神に祈るように両手を胸の前に組んで鵜飼を目で追った。
体育館で響く声、ボールが跳ねる音、鵜飼が跳ぶ靴の音。
全てがスポットライトを浴びた別世界のように見える。
あんな中で活躍できるなんて。
感動と尊敬で身震いが起きる。
「鵜飼ぃ! 決めろぉ!」
心の奥底が熱い。僕の口から声援が飛び出る。
気が付けば、僕は席を立って身を乗り出して応援していた。
こんなに叫んで必死になったことなどない。
これほどガッツボーズを高く上げたことなどない。
涙が流れようが、鼻水が垂れようが、鵜飼から目が離せない。
試合は緊迫した。
第一セットは晴青高校がとった。
第二セットは赤泉高校が取り返した。
これで、ストレート勝ちはなくなった。
というか、鵜飼たちは勝てるのだろうか。
そんな不安が僕の心臓をキリキリと刺激する。
だけど。
きっと鵜飼の方が大変な思いを抱えているはずだ。
だって、この試合の主役なのだから。
第二セットを終えて、タオルを頭にかぶり肩で息をする鵜飼を見守る。
悔しい。僕は見守るしかできないなんて。
試合前に触れた鵜飼の背は汗で湿っていた。
きっと今は汗で重くなっているはずだ。
その背を軽くしてあげたくて。何か一つでも鵜飼にしてあげたくて。
それなのに、鵜飼までが遠すぎる!
「鵜飼、頑張れ」
呟くような小さな声が口から漏れた。
次の第三セットをとれば鵜飼が勝つ。この大会は二セット先取制。
だけど、鵜飼の疲労が大きい。ここから見ていても分かる。
第三セットの中盤。
「あっ!」
初めて鵜飼がサーブミスをした。
ジャンプサーブがネットにかかってしまった。相手コートにボールが届かず、床に転がる。
――鵜飼!
鵜飼は肩で息をしている。
「ピー」
審判の笛が響く。監督からの指示で選手交代。
鵜飼がベンチに座り込む。飲み物を飲んで、一息つくと鵜飼は笑顔になった。
「サーブミスってゴメン」そんな会話が聞こえてきそう。
――もう、もう、無理しなくて、いいよ。
頑張る鵜飼を応援したいけれど、これ苦しい思いをしなくていいと思える。
ハラハラして見守ると、鵜飼はスッと立ち上がり、僕の方に目を向けた。
ドキッとする。汗まみれの鵜飼の瞳に、僕だけが映っている。
そんな錯覚が生まれる。
その時、鵜飼がニッと笑った。
その輝く笑顔に、僕の胸がキュンキュンする。
「はうぅ」っと声に出しそうになり、慌てて自分の胸を押さえた。
いけない。今は周囲に人もいるし、試合中だし。
――あいつ、遠距離ビームも使えるのか。つか、僕もいちいち反応すんなよ。
自分を落ち着かせながらコートに目を向ける。
鵜飼は選手交代でまたコートに戻っている。点は大きく動いていない。
チラっと相手チームを見る。セッターのポジションに池田がいる。
彼も汗だくだ。皆が必死になっている。
体育館の中が一体になって試合の行方を追っている。
僕の肌がゾワッとする。
きっと高校野球に夢中になる人たちってこんな感覚なのだろう。
彼らの一生懸命さにドキドキが止まらない。
さらに僕は鵜飼に息さえ苦しくなるほどのドキドキをもらっている。
試合は両者譲らずに、競りながらマッチポイントに突入した。
なんと、マッチポイントをとっているのは赤泉高校。晴青高校は一点差につけている。
――次の一本だけはとられるわけにいかない!
その思いは晴青高校応援団も同じだ。ものすごい声援が飛ぶ。
赤泉高校からは逆の声援。
その勢いが心臓にドッドッと響く。
――僕も。精一杯の応援を、鵜飼に!
「鵜飼! 決めろぉ! 晴青高校ぉ、頑張れぇ!」
必死に声を張り上げる。僕の額に汗が滲む。
変なの。僕がバレーボールをしているわけじゃないのに。
だけど、この必死さが全部鵜飼の元に届くのだとしたら。鵜飼の力になるのだとしたら。
――僕の全てを鵜飼に。
そう願った。
赤泉高校からサーブが放たれる。
そのボールに会場中の意識が集中する。
晴青高校がレシーブをし、トスが上がる。そのトスは、やっぱり鵜飼の元に上がっていく。
「打てぇ! 鵜飼、決めろぉ!」
手を握りしめて声援を送った。
鵜飼が高く跳ぶ。だけど正面のブロックもダブルで付いている。
――お願い! 決まって!
強く願い過ぎて僕の腕がブルブル震えた。
鵜飼がバシッとボールを打ち抜く。
ボールがブロックに当たりながらも相手コートの床にバウンドする。
ワッと喝采が上がった!
僕はもう涙が止まらなくて。
鵜飼が眩しくて。
この一点奪取が功を奏して、晴青高校が第三セットを勝ち取った。
勝利の歓喜の波に僕の心が飲みこまれた。
閉会式で表彰される鵜飼の晴れやかな顔。戦った後の選手たちの様々な姿。
まるでドラマのワンシーンを見ているようだった。
僕は今日大会に参加していた全ての選手に拍手を送った。こんな感動はこれまで知らなかった。
鵜飼の生きている世界はすごい。
