⑦
午前は大会トーナメント一回戦を行い終了。
早めの昼食休憩をとり、午後に二回戦と準決勝、決勝がある。
こうしてみると確かに鵜飼の言う通り、小さな大会なのかもしれない。
優勝するのに四回勝てばいいのだから。
初めて試合を見る僕にとっては、この選手や応援の勢いだけで驚いてしまったけれど。
鵜飼の度胸が分かった気がする。
こんな大きな体育館で、人に注目されて、声援を受けてプレーするのだ。
――鵜飼にはプレッシャーとかないのかな。
「勝つ」と豪語していた自信たっぷりの顔を思い出す。
鵜飼には苦手が無いのかもしれない。どんなことでも乗り越えてしまいそうだ。
――いや、そうでもないか。
鵜飼はバレーボールを「好きだけれど、苦しい」と言っていた。
一体なにが「苦しい」のだろう。
僕はその気持ちが分かると思いながら、鵜飼の苦しさに触れることができなかった。
この大会が終わったら、鵜飼と話すことが沢山だ。
そして。
僕も言わなくてはいけない。僕だって鵜飼に嘘をついた。
願いが叶うと嬉しそうだった鵜飼を裏切っている。変なモノを飲ませているし。
――ちゃんと、謝ろう。
そう心に誓った。
二回戦が始まったのは昼過ぎ。
僕は隅っこから最前列に移動した。
コートの近くは応援団が占拠しているから、少し離れている席。
だけどさっきよりはよく見える。
鵜飼は軽快に動き回り、たくさんの活躍を見せてくれた。真剣な顔も、笑顔もキュンとする。
――やっぱり、僕のそばに来る鵜飼と、試合に出ている鵜飼は別人みたいだ。
二回戦は少し苦戦した。
驚いたのは、鵜飼がブロックにマークされて、いつものように爽快にスパイクを決めきれないこと。
何本かのスパイクは高身長の選手に止められて失敗してしまった。
その時の悔しそうな顔。
思わず手を握りしめる瞬間だった。
身長のことに悩んでいた鵜飼の気持ちが少しだけ分かった。
準決勝も同じく、鵜飼がマークされていた。
ブロックがしつこくついてきて、鵜飼が決めきれない。
他の選手では得点力が劣る。
僕はハラハラしながら試合の行方を追った。
――鵜飼、頑張れ!
鵜飼に沢山のエールを送った。
苦戦しながらも鵜飼のチームは二セットを先取し、ストレート勝ち。
僕は胸を撫でおろした。
午後は連続の試合となるため、インターバル時間が四十分間設けられている。
準決勝が終わった後の鵜飼の表情は、少し沈んでいた。
きっと思ったようにプレーできなかったからだろう。
そんな様子がどうしても気になって、僕は一階の選手たちのフロアに足を向けた。
僕は部外者だし、一階に行くのはちょっと緊張する。カバンの紐をギュっと握りしめて足を進めた。
廊下や広いスペースで選手がストレッチやマッサージをしているのを見ながら、僕の高校の人たちを探した。
――うっわ。熱気がすご。
今まさに戦っている人たちの緊張感も凄い。それだけで足がすくみそうになる。
いつも見学してる部活動とは雰囲気が別物だ。
――どうしよ。広いし、ウロウロすると邪魔だよな。やっぱ、戻ろう。
なるべく人のいない階段から二階席に戻ろうとした。
階段を上ってハッとする。
踊り場に人がいる。
壁に向かって項垂れている選手。見覚えのある黒のユニフォーム。背番号は三。
「鵜飼!」
つい声を掛けてしまった。
声を掛けてから『しまった』と思う。精神統一をしていたかもしれないのに。
鵜飼の背中がビクっとして、ゆっくり振り返る。
「あ、花崎。ははっ、見られちゃった」
照れたような顔に元気がない。
「えっと、鵜飼、その、ちょっと心配になって……」
「うん。こんなにマークされていると思わなくて。ちょい、驚いてる」
はぁ、と大きく息を吐いて鵜飼は困ったように眉をハの字にする。
大丈夫か、とか聞いていいのだろうか。よく分からずに立ち尽くす。
――僕はバカか! 僕が来たところで何もできないじゃないか!
心配だからって、大会中の鵜飼に会いに来てしまうなんて!
自分の浅はかさに肩を落とす。
でも。それでも、伝いたいことがある。
「鵜飼! 頑張れ! めっちゃ応援してるから!」
鵜飼は少し微笑んだ。
「サンキュ。なぁ、優勝、できなかったら、ごめん」
弱気な発言に泣きたくなる。
自信たっぷりの鵜飼の言葉とは思えなくて。
「鵜飼。僕は鵜飼を、信じてる」
大きな鵜飼の背を、そっと撫でた。鵜飼の背は汗で湿っていた。
その汗から鵜飼の精一杯の頑張りが伝わってくる。
僕の心がジンと震える。
――鵜飼がスパイクを決められますように。
そう強く願った。
午前は大会トーナメント一回戦を行い終了。
早めの昼食休憩をとり、午後に二回戦と準決勝、決勝がある。
こうしてみると確かに鵜飼の言う通り、小さな大会なのかもしれない。
優勝するのに四回勝てばいいのだから。
初めて試合を見る僕にとっては、この選手や応援の勢いだけで驚いてしまったけれど。
鵜飼の度胸が分かった気がする。
こんな大きな体育館で、人に注目されて、声援を受けてプレーするのだ。
――鵜飼にはプレッシャーとかないのかな。
「勝つ」と豪語していた自信たっぷりの顔を思い出す。
鵜飼には苦手が無いのかもしれない。どんなことでも乗り越えてしまいそうだ。
――いや、そうでもないか。
鵜飼はバレーボールを「好きだけれど、苦しい」と言っていた。
一体なにが「苦しい」のだろう。
僕はその気持ちが分かると思いながら、鵜飼の苦しさに触れることができなかった。
この大会が終わったら、鵜飼と話すことが沢山だ。
そして。
僕も言わなくてはいけない。僕だって鵜飼に嘘をついた。
願いが叶うと嬉しそうだった鵜飼を裏切っている。変なモノを飲ませているし。
――ちゃんと、謝ろう。
そう心に誓った。
二回戦が始まったのは昼過ぎ。
僕は隅っこから最前列に移動した。
コートの近くは応援団が占拠しているから、少し離れている席。
だけどさっきよりはよく見える。
鵜飼は軽快に動き回り、たくさんの活躍を見せてくれた。真剣な顔も、笑顔もキュンとする。
――やっぱり、僕のそばに来る鵜飼と、試合に出ている鵜飼は別人みたいだ。
二回戦は少し苦戦した。
驚いたのは、鵜飼がブロックにマークされて、いつものように爽快にスパイクを決めきれないこと。
何本かのスパイクは高身長の選手に止められて失敗してしまった。
その時の悔しそうな顔。
思わず手を握りしめる瞬間だった。
身長のことに悩んでいた鵜飼の気持ちが少しだけ分かった。
準決勝も同じく、鵜飼がマークされていた。
ブロックがしつこくついてきて、鵜飼が決めきれない。
他の選手では得点力が劣る。
僕はハラハラしながら試合の行方を追った。
――鵜飼、頑張れ!
鵜飼に沢山のエールを送った。
苦戦しながらも鵜飼のチームは二セットを先取し、ストレート勝ち。
僕は胸を撫でおろした。
午後は連続の試合となるため、インターバル時間が四十分間設けられている。
準決勝が終わった後の鵜飼の表情は、少し沈んでいた。
きっと思ったようにプレーできなかったからだろう。
そんな様子がどうしても気になって、僕は一階の選手たちのフロアに足を向けた。
僕は部外者だし、一階に行くのはちょっと緊張する。カバンの紐をギュっと握りしめて足を進めた。
廊下や広いスペースで選手がストレッチやマッサージをしているのを見ながら、僕の高校の人たちを探した。
――うっわ。熱気がすご。
今まさに戦っている人たちの緊張感も凄い。それだけで足がすくみそうになる。
いつも見学してる部活動とは雰囲気が別物だ。
――どうしよ。広いし、ウロウロすると邪魔だよな。やっぱ、戻ろう。
なるべく人のいない階段から二階席に戻ろうとした。
階段を上ってハッとする。
踊り場に人がいる。
壁に向かって項垂れている選手。見覚えのある黒のユニフォーム。背番号は三。
「鵜飼!」
つい声を掛けてしまった。
声を掛けてから『しまった』と思う。精神統一をしていたかもしれないのに。
鵜飼の背中がビクっとして、ゆっくり振り返る。
「あ、花崎。ははっ、見られちゃった」
照れたような顔に元気がない。
「えっと、鵜飼、その、ちょっと心配になって……」
「うん。こんなにマークされていると思わなくて。ちょい、驚いてる」
はぁ、と大きく息を吐いて鵜飼は困ったように眉をハの字にする。
大丈夫か、とか聞いていいのだろうか。よく分からずに立ち尽くす。
――僕はバカか! 僕が来たところで何もできないじゃないか!
心配だからって、大会中の鵜飼に会いに来てしまうなんて!
自分の浅はかさに肩を落とす。
でも。それでも、伝いたいことがある。
「鵜飼! 頑張れ! めっちゃ応援してるから!」
鵜飼は少し微笑んだ。
「サンキュ。なぁ、優勝、できなかったら、ごめん」
弱気な発言に泣きたくなる。
自信たっぷりの鵜飼の言葉とは思えなくて。
「鵜飼。僕は鵜飼を、信じてる」
大きな鵜飼の背を、そっと撫でた。鵜飼の背は汗で湿っていた。
その汗から鵜飼の精一杯の頑張りが伝わってくる。
僕の心がジンと震える。
――鵜飼がスパイクを決められますように。
そう強く願った。
