⑤
鵜飼の着ているユニフォームは黒地に白と青の斜めラインが入ったデザイン。大きな男たちが揃いのユニフォームを着ていると迫力がある。それだけで強そうだ。
いつもの黒い練習着Tシャツより身体のラインにフィットしていて、胸板とか肩のがっちり感が良く分かる。
同じユニフォーム姿の人たちを見渡してから、もう一度、鵜飼に目を向けた。
開会挨拶をする偉い人に目を向ける鵜飼の顔はポーカーフェイス。感情の見えない顔だ。
その姿を見ながら、ひとつため息をこぼす。
鵜飼にとって、僕のことなど心乱されることではないのだ。
僕との温度差がありすぎる。
そう思うと心がミシッと音を立てる。
――鵜飼の背番号は三なんだ。
ぼんやりと彼を眺めていると、鵜飼が急に目線を上げた。
ハッとする。整列している選手たちは前を向いているのに、一人だけ二階の観客席に視線を飛ばせば目立つ。
――なにやってんだ! 前を見ろって!
僕のいる観客席は選手の正面側だ。僕は同じ高校の人たちを避けたくて、彼らの反対に来た。
その結果、選手が整列すると正面側になる場所に席を確保している。これは偶然だった。鵜飼たちの正面になるなど僕は知らなかった。だけど、この位置だから鵜飼の動きがよく見えてしまう。
鵜飼が目で僕を探しているような気になってドキドキする。
いや、そう思うのは自意識過剰かもしれない。なんとなく背を丸めた。
けれど。
ゆっくり視線を泳がせていた鵜飼が僕を見つけて、動きをピタッと止めた。
――やっぱり僕を探していた!
バチリと視線が重なる。鵜飼の顔が泣きそうに歪んだ。
まるで、僕がいるか不安になって探していたように感じてしまう。そんな期待はしたくないのに。
――なんだよ、その顔。
嬉しいような、隠れたいような複雑な思いが胸を占める。
鵜飼の本心が分からない。僕に向ける優しさは本心だろうか。ただのからかいだったのだろうか。
――でも、鵜飼いは、嫌な奴じゃない、よな。
僕の知っている鵜飼は、朗らかで楽しくて、ちょっと甘えたで。
「ピーピピ!」
急に体育館に笛の音が響く。
ハッとしてコートを見れば、四面あるバレーコートそれぞれで第一試合が開始になっている。
いつの間にか開会式が終了していた。
「あっ、鵜飼は?」
つい鵜飼の姿を探す自分にハッとする。
――なにしてんだ、僕は。もう鵜飼なんて……。
バレーコートから目を逸らした時。
「ナイッス!」
「いけ~!」
応援席の歓声にビクっとする。
少し離れた席のベンチ入りしていない選手たちが高揚して歓声を送っている。
その声援に胸がドキドキしだす。
強豪校が相手だったら、鵜飼は勝てるのだろうか。
――鵜飼、大丈夫かな。
先ほどの鵜飼の目線が脳裏に過る。
鵜飼の試合は第三コートのはず。
目線を向ければ、コートの中を走る鵜飼が目に入った。
声援やボールの音が僕の身体をすり抜ける。
僕の心は第三コートの鵜飼に釘付けになった。
鵜飼が低い姿勢から飛び込んでレシーブをした。驚くほどの強打を、受け止めた。
鵜飼の腕がボールを跳ね上げた。
――ボールを繋いで! 落とさないで! 誰か!
必死になって立ち上がり、ボールの行方を目で追った。
高く上がったボールは走り込んだ選手がポンっとトスをする。
――オーバートスだ!
僕は自分の手をトスの形にして、まるで僕がトスを上げるかのように手を動かした。
――鵜飼! 鵜飼に届け!
予想通り、いつの間にかスパイクの姿勢を取っている鵜飼が、跳んだ。
鵜飼が空中でしなった。
その瞬間。
「いけぇ!」
僕の口から声援が飛んでいた。
恥ずかしいとか、そんな気持ちはどうでも良かった。
鵜飼に決めて欲しい。鵜飼に点を取って欲しい。それだけを願った。
バシンっと相手コートにボールが叩きつけられる。
「よっし!」
その瞬間に僕は拳を突き出していた。それくらい興奮する一瞬だった。
一点を決めて破顔した鵜飼が、ふと僕に顔を向けた。
僕の全身がカッと熱くなる。
立ち上がって拳を突き出しているところを見られてしまった。
――うっわ! 恥っず!
すぐに手を引っ込めたけれど。
鵜飼が、僕に微笑んだ。嬉しそうに。
その顔を見た瞬間に、僕の頬に涙が伝った。
――鵜飼の言葉を、聞こう。
そう思えた。
体育館の中には沢山の声援。
きっと僕が声を上げても紛れる。
心臓がドッドッと激しく動く。
――僕から、鵜飼に、してあげたい。
緊張で耳鳴りがする。それでも、届けたい。
息を大きく吸い込む。
「鵜飼ぃぃ‼ 優勝しろぉ‼」
聞こえていなくていい。それでも、どうしてもエールを送りたい。
偶然だろうか。鵜飼は軽く右手を上げた。
まるでそれが、『まかせとけ』と言っているようで、涙が止まらなくなる。
聞こえているわけない。僕の声など、かき消えている。
それでも。
――鵜飼!
胸がキュンキュンして悲鳴を上げそうになる。
黒いユニフォームを着ている鵜飼が、自由にコートを駆け回る。気持ち良くスパイクを決める。
その全てがキラキラと輝いて見えて。
僕のこの胸の高鳴りは、ただの『推し』とは違って思えて。
例え鵜飼が僕を裏切っていても、いい。
この輝く姿を応援したい。鵜飼の煌めきにときめいていたい!
――だって、好きだから。
僕の全身がビリビリしびれる。
そうだ。僕は鵜飼が好きだ。
そう気が付くと、心が一気に熱くなる。
胸がキュウっと締め付けられる。とても優しい締め付けだ。
そして、この感覚が愛おしくて。
僕の目の前が明るくなったように感じた。
鵜飼の着ているユニフォームは黒地に白と青の斜めラインが入ったデザイン。大きな男たちが揃いのユニフォームを着ていると迫力がある。それだけで強そうだ。
いつもの黒い練習着Tシャツより身体のラインにフィットしていて、胸板とか肩のがっちり感が良く分かる。
同じユニフォーム姿の人たちを見渡してから、もう一度、鵜飼に目を向けた。
開会挨拶をする偉い人に目を向ける鵜飼の顔はポーカーフェイス。感情の見えない顔だ。
その姿を見ながら、ひとつため息をこぼす。
鵜飼にとって、僕のことなど心乱されることではないのだ。
僕との温度差がありすぎる。
そう思うと心がミシッと音を立てる。
――鵜飼の背番号は三なんだ。
ぼんやりと彼を眺めていると、鵜飼が急に目線を上げた。
ハッとする。整列している選手たちは前を向いているのに、一人だけ二階の観客席に視線を飛ばせば目立つ。
――なにやってんだ! 前を見ろって!
僕のいる観客席は選手の正面側だ。僕は同じ高校の人たちを避けたくて、彼らの反対に来た。
その結果、選手が整列すると正面側になる場所に席を確保している。これは偶然だった。鵜飼たちの正面になるなど僕は知らなかった。だけど、この位置だから鵜飼の動きがよく見えてしまう。
鵜飼が目で僕を探しているような気になってドキドキする。
いや、そう思うのは自意識過剰かもしれない。なんとなく背を丸めた。
けれど。
ゆっくり視線を泳がせていた鵜飼が僕を見つけて、動きをピタッと止めた。
――やっぱり僕を探していた!
バチリと視線が重なる。鵜飼の顔が泣きそうに歪んだ。
まるで、僕がいるか不安になって探していたように感じてしまう。そんな期待はしたくないのに。
――なんだよ、その顔。
嬉しいような、隠れたいような複雑な思いが胸を占める。
鵜飼の本心が分からない。僕に向ける優しさは本心だろうか。ただのからかいだったのだろうか。
――でも、鵜飼いは、嫌な奴じゃない、よな。
僕の知っている鵜飼は、朗らかで楽しくて、ちょっと甘えたで。
「ピーピピ!」
急に体育館に笛の音が響く。
ハッとしてコートを見れば、四面あるバレーコートそれぞれで第一試合が開始になっている。
いつの間にか開会式が終了していた。
「あっ、鵜飼は?」
つい鵜飼の姿を探す自分にハッとする。
――なにしてんだ、僕は。もう鵜飼なんて……。
バレーコートから目を逸らした時。
「ナイッス!」
「いけ~!」
応援席の歓声にビクっとする。
少し離れた席のベンチ入りしていない選手たちが高揚して歓声を送っている。
その声援に胸がドキドキしだす。
強豪校が相手だったら、鵜飼は勝てるのだろうか。
――鵜飼、大丈夫かな。
先ほどの鵜飼の目線が脳裏に過る。
鵜飼の試合は第三コートのはず。
目線を向ければ、コートの中を走る鵜飼が目に入った。
声援やボールの音が僕の身体をすり抜ける。
僕の心は第三コートの鵜飼に釘付けになった。
鵜飼が低い姿勢から飛び込んでレシーブをした。驚くほどの強打を、受け止めた。
鵜飼の腕がボールを跳ね上げた。
――ボールを繋いで! 落とさないで! 誰か!
必死になって立ち上がり、ボールの行方を目で追った。
高く上がったボールは走り込んだ選手がポンっとトスをする。
――オーバートスだ!
僕は自分の手をトスの形にして、まるで僕がトスを上げるかのように手を動かした。
――鵜飼! 鵜飼に届け!
予想通り、いつの間にかスパイクの姿勢を取っている鵜飼が、跳んだ。
鵜飼が空中でしなった。
その瞬間。
「いけぇ!」
僕の口から声援が飛んでいた。
恥ずかしいとか、そんな気持ちはどうでも良かった。
鵜飼に決めて欲しい。鵜飼に点を取って欲しい。それだけを願った。
バシンっと相手コートにボールが叩きつけられる。
「よっし!」
その瞬間に僕は拳を突き出していた。それくらい興奮する一瞬だった。
一点を決めて破顔した鵜飼が、ふと僕に顔を向けた。
僕の全身がカッと熱くなる。
立ち上がって拳を突き出しているところを見られてしまった。
――うっわ! 恥っず!
すぐに手を引っ込めたけれど。
鵜飼が、僕に微笑んだ。嬉しそうに。
その顔を見た瞬間に、僕の頬に涙が伝った。
――鵜飼の言葉を、聞こう。
そう思えた。
体育館の中には沢山の声援。
きっと僕が声を上げても紛れる。
心臓がドッドッと激しく動く。
――僕から、鵜飼に、してあげたい。
緊張で耳鳴りがする。それでも、届けたい。
息を大きく吸い込む。
「鵜飼ぃぃ‼ 優勝しろぉ‼」
聞こえていなくていい。それでも、どうしてもエールを送りたい。
偶然だろうか。鵜飼は軽く右手を上げた。
まるでそれが、『まかせとけ』と言っているようで、涙が止まらなくなる。
聞こえているわけない。僕の声など、かき消えている。
それでも。
――鵜飼!
胸がキュンキュンして悲鳴を上げそうになる。
黒いユニフォームを着ている鵜飼が、自由にコートを駆け回る。気持ち良くスパイクを決める。
その全てがキラキラと輝いて見えて。
僕のこの胸の高鳴りは、ただの『推し』とは違って思えて。
例え鵜飼が僕を裏切っていても、いい。
この輝く姿を応援したい。鵜飼の煌めきにときめいていたい!
――だって、好きだから。
僕の全身がビリビリしびれる。
そうだ。僕は鵜飼が好きだ。
そう気が付くと、心が一気に熱くなる。
胸がキュウっと締め付けられる。とても優しい締め付けだ。
そして、この感覚が愛おしくて。
僕の目の前が明るくなったように感じた。
