『惚れ薬』が効きすぎるなんて、令和の時代にアリですか⁉

④
 鵜飼が僕を裏切った。
 僕を、笑っていた。

 信じたくない事実が背中に突き刺さって抜けてくれない。
 そもそも、どうして僕は鵜飼を信じていたのだろう。

 二階の観客席で背を丸めて下を向く。胸が苦しい。
 僕の中で鵜飼の存在が大きくなりすぎた。
 鵜飼の包み込むような優しさに惹かれていたのに。

 考えて、ハッとする。
 もとは僕が鵜飼を騙したのだ。

 鵜飼に「惚れ薬」飲ませてしまえとか、飲ませた時にも、願いが叶うおまじない、とか、嘘をついたのは、僕だ。
 ――いつも、僕は後で後悔する。

 中学の時に家から出られなくなった、あの時。
 元をたどれば、僕がいい気になって吹聴したせいで不良グループから目を付けられた。好きな事の全てを手放すことになった。
 あの絶望も、僕が引き起こしたのだ。

 ――そっか。鵜飼が裏切ったんじゃない。僕が全部悪いんだ……。

 そう考えると鼻の奥がツンとする。目が熱い。
 この付近には人が少ない。あまりコートが見えないから。
 コートがよく見える観覧席では、ベンチ入りしていないのだろう部員たちが応援のために陣取っている。
 その活気が僕と正反対だ。彼らは開会を待っているのだろう。一階の体育館コートを見つめている。
 端っこの後方にいる僕のほうを向く人はいない。少しほっとするけれど。
 それでもここで泣きたくない。
 必死に涙を堪える。

 鵜飼が僕に声を掛けたのは、有名人がいると思ったからだろう。興味本位だ。
 化学のノートとか言って声を掛けてきたけれど、化学のノートなんかどうでも良かったのかもしれない。
 先程の池田の言葉が痛いほどに耳に残っている。
 鵜飼は、僕の残っている動画を見て、笑っていた。
 目を閉じて眉間に手を当てる。

 もう僕はネットで自分を検索していないけれど、拡散されてしまい、削除できていない配信映像や写真があるはずだ。きっと悪意のあるコメントで炎上したものだ。

 それを見て、鵜飼いはどう思ったのだろう。
 僕があんなに苦しんだことを、笑ったのか……。
 考えると胸が苦しい。
 あんなに楽しみだったバレーの試合なのに、全然ドキドキしない。
 頭がガンガンする。

 やっぱり帰ろうかと考えたとき。場内にアナウンスが流れた。

「ただ今より、第十三回秋青葵バレーボールカップ開会式を執り行います。選手の皆さんは入場準備をお願いします」
 観客席がピシッと静かになる。僕もつられて前を向いた。

「選手入場」

 アナウンスに続いて、選手が並んで一斉に入ってきた。先頭の人が高校名の入ったカードを掲げている。
 ――みんな、大きいなぁ。
 バレー選手って筋肉マッチョに見えないから不思議だ。

 ぼんやり見つめながら鵜飼の厚い胸を思い出す。腕だって硬くて太いのに、スラッと見える。
 ――あ、鵜飼。
 いつもと違う。
 さっきの学校ジャージは見慣れていたけれど。
 鵜飼はバレーボールのユニフォーム姿だ。