③
「うっわ。小さい大会って言ってたのに……」
東部総合体育館に八時半に着いて驚いた。様々な高校ジャージの生徒たちが体育館に出入りしている。
体育館の周りはたくさんひとがいる。
東部総合体育館は県の施設でバレーコートが四面できるほど広くて大きい。
選手らしき人たちは体育館一階の出入り口から入っていく。案内看板には、観客入場は二階入り口に行くように書かれている。
――鵜飼、いないかな?
ちょっとでも会えないだろうか。うちの高校ジャージの人たちはいないだろうか。
僕は鵜飼にまだ言えていない。頑張って、と。その一言を伝えたい。
そんな思いでキョロキョロしていると。
「あれ? 花崎、君だよな? えっと、端森中の。俺のこと分かんない? 同中なんだけど」
一気に心臓が冷えた。
――同じ、中学? 誰?
僕の前にヌッと現れたのは見たことの無い男性。いや、どこかの高校のジャージを着ているし、きっと選手だ。
鵜飼ほどではないけれど身長が高い。
「なぁ、花崎君って晴青高校なんだろ? 鵜飼って知ってる? 俺と県選抜が一緒でさ」
下を向いて何も答えない僕に一方的に話しかけてくる。その情報が胸をチクチクと刺す。
――鵜飼と、こいつが、知り合い。鵜飼と。
地鳴りのように心臓がドクッドクッと動く。
息が苦しくなりそうで、その場を去ろうとしたけれど。
「花崎! え? 池田も一緒?」
僕の全身がビクっと震えた。
――鵜飼。
息を切らして鵜飼が現れた。うちの高校ジャージにいつものスポーツバッグ。
会いたかったはずなのに。
探していた鵜飼なのに。
泣きたいような苦しさが心を占める。
「鵜飼! 丁度良かった。ほら、中学生Ⅴチューバ―と会ってみたいって言っていただろ? ほら、これが花崎佑二。ってか、高校でもう話しかけた? うちの中学じゃ有名人だったヤツ」
明るく話す池田と呼ばれた生徒の声が槍のように僕の背に突き刺さる。
「池田、お願いだから、あっちに行ってて」
鵜飼の声が水の中に聞くように遠くに聞こえる。
――鵜飼は、僕の過去を知っていた。知っていて、僕に接近した……。
胸が紐で縛られたようにキリキリする。
「なんだよ。冷たいじゃん。夏休みはユウに興味津々で、残ってる動画を見て笑ってたじゃん」
――笑っていた? 鵜飼が、僕を?
泣きたいような衝撃が走る。脳を直接叩かれたようなガンガンとした痛み。
「池田! まじ、自分の高校のとこ行けって」
「なんだよ。ま、いいや。今日は敵だし。負けんからな」
池田と呼ばれていた生徒が小走りに去っていく。
その場に僕と鵜飼が残される。
――なんと言えばいいのだろう。僕は、僕は……。
頭の中が真っ白で、鵜飼のそばに寄ることができない。
「花崎……」
鵜飼の苦しそうな声に僕の背が大きく揺れた。思ったよりビクッと身体が反応していた。
鵜飼の顔が見られない。
「あ……、えっと。鵜飼、頑張って……」
しょぼくれた風船のような声掛けになってしまった。
スッと鵜飼の手が僕に伸びるのが視界に入った。とっさに僕は一歩下がった。
――しまった! 変に、思われたかな。
いや、もうそんな事を考えても仕方がないのだけれど。
どうしても鵜飼の近くにいきたくない。
思わず鵜飼に背を向けた、その時。
「花崎! 俺は優勝する! 勝つから。そしたら、話しを聞いてほしい!」
鵜飼の声が僕の背中を打つ。ぎゅっとバッグの紐を握りしめる。
混乱で息が苦しい。
それでも、僕の足は二階の応援席に向いた。帰ろうと思わなかったのは、僕の中で揺れる気持ちがあったから。
沈む心を伴って、僕は端っこの席に座った。
「うっわ。小さい大会って言ってたのに……」
東部総合体育館に八時半に着いて驚いた。様々な高校ジャージの生徒たちが体育館に出入りしている。
体育館の周りはたくさんひとがいる。
東部総合体育館は県の施設でバレーコートが四面できるほど広くて大きい。
選手らしき人たちは体育館一階の出入り口から入っていく。案内看板には、観客入場は二階入り口に行くように書かれている。
――鵜飼、いないかな?
ちょっとでも会えないだろうか。うちの高校ジャージの人たちはいないだろうか。
僕は鵜飼にまだ言えていない。頑張って、と。その一言を伝えたい。
そんな思いでキョロキョロしていると。
「あれ? 花崎、君だよな? えっと、端森中の。俺のこと分かんない? 同中なんだけど」
一気に心臓が冷えた。
――同じ、中学? 誰?
僕の前にヌッと現れたのは見たことの無い男性。いや、どこかの高校のジャージを着ているし、きっと選手だ。
鵜飼ほどではないけれど身長が高い。
「なぁ、花崎君って晴青高校なんだろ? 鵜飼って知ってる? 俺と県選抜が一緒でさ」
下を向いて何も答えない僕に一方的に話しかけてくる。その情報が胸をチクチクと刺す。
――鵜飼と、こいつが、知り合い。鵜飼と。
地鳴りのように心臓がドクッドクッと動く。
息が苦しくなりそうで、その場を去ろうとしたけれど。
「花崎! え? 池田も一緒?」
僕の全身がビクっと震えた。
――鵜飼。
息を切らして鵜飼が現れた。うちの高校ジャージにいつものスポーツバッグ。
会いたかったはずなのに。
探していた鵜飼なのに。
泣きたいような苦しさが心を占める。
「鵜飼! 丁度良かった。ほら、中学生Ⅴチューバ―と会ってみたいって言っていただろ? ほら、これが花崎佑二。ってか、高校でもう話しかけた? うちの中学じゃ有名人だったヤツ」
明るく話す池田と呼ばれた生徒の声が槍のように僕の背に突き刺さる。
「池田、お願いだから、あっちに行ってて」
鵜飼の声が水の中に聞くように遠くに聞こえる。
――鵜飼は、僕の過去を知っていた。知っていて、僕に接近した……。
胸が紐で縛られたようにキリキリする。
「なんだよ。冷たいじゃん。夏休みはユウに興味津々で、残ってる動画を見て笑ってたじゃん」
――笑っていた? 鵜飼が、僕を?
泣きたいような衝撃が走る。脳を直接叩かれたようなガンガンとした痛み。
「池田! まじ、自分の高校のとこ行けって」
「なんだよ。ま、いいや。今日は敵だし。負けんからな」
池田と呼ばれていた生徒が小走りに去っていく。
その場に僕と鵜飼が残される。
――なんと言えばいいのだろう。僕は、僕は……。
頭の中が真っ白で、鵜飼のそばに寄ることができない。
「花崎……」
鵜飼の苦しそうな声に僕の背が大きく揺れた。思ったよりビクッと身体が反応していた。
鵜飼の顔が見られない。
「あ……、えっと。鵜飼、頑張って……」
しょぼくれた風船のような声掛けになってしまった。
スッと鵜飼の手が僕に伸びるのが視界に入った。とっさに僕は一歩下がった。
――しまった! 変に、思われたかな。
いや、もうそんな事を考えても仕方がないのだけれど。
どうしても鵜飼の近くにいきたくない。
思わず鵜飼に背を向けた、その時。
「花崎! 俺は優勝する! 勝つから。そしたら、話しを聞いてほしい!」
鵜飼の声が僕の背中を打つ。ぎゅっとバッグの紐を握りしめる。
混乱で息が苦しい。
それでも、僕の足は二階の応援席に向いた。帰ろうと思わなかったのは、僕の中で揺れる気持ちがあったから。
沈む心を伴って、僕は端っこの席に座った。
