⑩
「失礼します、って養護教諭の先生は不在か」
鵜飼が声をかけながらドアを開ける。
結局僕は鵜飼に背負われて保健室まで到着した。鵜飼の体温のおかげか、昨日沈み込んだ僕の心はフワリと浮上している。
イメージで言うと、鵜飼という親鳥が僕という卵を温めてくれている感覚。鶏をイメージすると大鷲が頭に浮かぶ。
バレーコートでスパイクを決める鵜飼は羽があるみたいだし、あの鋭い瞳は大鷲で間違いない。
ん? 待てよ。大鷲が僕の膝枕でゴロっとするか?
う~ん、どうなのだろう。そもそも大鷲はゴロンと寝そべるのか?
「花崎? おい?」
ユサユサと身体を揺すられてハッとする。
「え?」
「保健室ついたけど。大丈夫か?」
「あ、ごめ」
何だろう。意識が変な方に飛んでいた。頭がぼんやりする。
「つか、マジで熱とかあるかもな。すぐ寝たほうがいいぞ」
「あ、うん。そうする。運んでくれてありがとう」
「降ろすぞ」
鵜飼にゆっくり降ろしてもらうけれど、その背から離れるのが少し寂しい。立ち上がった鵜飼が僕を向く。
――どうしよう。離れたくない、とか。僕はマジでおかしいかもな。
さっきから変な事ばかり考える自分がよく分からなくて、鵜飼の目を見られない。
「本当に、ありがと。重かったよな。ごめん」
少しだけしょんぼりしてベッドに向かった。
鵜飼は教室に行くだろうと思ったけれど。
ベッドに入ってギョッとした。鵜飼がベッドサイドにいる。
――ええ? 僕に付き添うつもり?
驚いて目を丸くして鵜飼を見つめた。
「ははっ、休めって。目は閉じとけ」
鵜飼は茶色の瞳を細くする。
―――優しい、目だな。
その瞳がキラキラと綺麗で見惚れる。
すると、大きな手が伸びてきて、僕の目を覆った。急に目の前が暗くなる。
体温が高い手がホットアイマスクのようで気持ちいい。
――すっごい、落ち着く。
鵜飼が側にいてくれる。
へへっと笑いそうになって、口元が緩んだ。
「こら。もう、寝ろって」
呆れたような声。
――うん。もう、寝るよ。だけど……。
「なぁ、鵜飼の、願いって、なに?」
うつらうつらしながら聞いた。
「俺の願い?」
「ん。僕が……、叶えて、あげるから」
プハッと笑い声がする。
――おい、笑うなよ!
心の中ではそう言ったのだけど。
言葉にできていたかは分からない。
ただ、「可愛いな」と呟く鵜飼の声だけは耳に残った。
僕はその日、午前いっぱいを寝て過ごした。
何をしに学校に来たのだ、と自分にツッコミを入れたかった。
でも、すごく満たされた日だった。
鵜飼は、あいつらとは違う。大丈夫。
そう強く思った。
「失礼します、って養護教諭の先生は不在か」
鵜飼が声をかけながらドアを開ける。
結局僕は鵜飼に背負われて保健室まで到着した。鵜飼の体温のおかげか、昨日沈み込んだ僕の心はフワリと浮上している。
イメージで言うと、鵜飼という親鳥が僕という卵を温めてくれている感覚。鶏をイメージすると大鷲が頭に浮かぶ。
バレーコートでスパイクを決める鵜飼は羽があるみたいだし、あの鋭い瞳は大鷲で間違いない。
ん? 待てよ。大鷲が僕の膝枕でゴロっとするか?
う~ん、どうなのだろう。そもそも大鷲はゴロンと寝そべるのか?
「花崎? おい?」
ユサユサと身体を揺すられてハッとする。
「え?」
「保健室ついたけど。大丈夫か?」
「あ、ごめ」
何だろう。意識が変な方に飛んでいた。頭がぼんやりする。
「つか、マジで熱とかあるかもな。すぐ寝たほうがいいぞ」
「あ、うん。そうする。運んでくれてありがとう」
「降ろすぞ」
鵜飼にゆっくり降ろしてもらうけれど、その背から離れるのが少し寂しい。立ち上がった鵜飼が僕を向く。
――どうしよう。離れたくない、とか。僕はマジでおかしいかもな。
さっきから変な事ばかり考える自分がよく分からなくて、鵜飼の目を見られない。
「本当に、ありがと。重かったよな。ごめん」
少しだけしょんぼりしてベッドに向かった。
鵜飼は教室に行くだろうと思ったけれど。
ベッドに入ってギョッとした。鵜飼がベッドサイドにいる。
――ええ? 僕に付き添うつもり?
驚いて目を丸くして鵜飼を見つめた。
「ははっ、休めって。目は閉じとけ」
鵜飼は茶色の瞳を細くする。
―――優しい、目だな。
その瞳がキラキラと綺麗で見惚れる。
すると、大きな手が伸びてきて、僕の目を覆った。急に目の前が暗くなる。
体温が高い手がホットアイマスクのようで気持ちいい。
――すっごい、落ち着く。
鵜飼が側にいてくれる。
へへっと笑いそうになって、口元が緩んだ。
「こら。もう、寝ろって」
呆れたような声。
――うん。もう、寝るよ。だけど……。
「なぁ、鵜飼の、願いって、なに?」
うつらうつらしながら聞いた。
「俺の願い?」
「ん。僕が……、叶えて、あげるから」
プハッと笑い声がする。
――おい、笑うなよ!
心の中ではそう言ったのだけど。
言葉にできていたかは分からない。
ただ、「可愛いな」と呟く鵜飼の声だけは耳に残った。
僕はその日、午前いっぱいを寝て過ごした。
何をしに学校に来たのだ、と自分にツッコミを入れたかった。
でも、すごく満たされた日だった。
鵜飼は、あいつらとは違う。大丈夫。
そう強く思った。
