『惚れ薬』が効きすぎるなんて、令和の時代にアリですか⁉

②
 返事に困って僕が固まると、鵜飼はコテンと首を傾げた。
 イケメン男子の可愛い仕草に、男ながらに僕の心臓がドキッとする。
 近くの席に座っていた女子から「きゃ、最高!」と小声が聞こえた。
 ――うっわ。イケメン力が半端ねぇ。いや、そんなの僕が知っても何の得もないけどな!

「ん? 花崎って化学が得意なんだろ?」
 おいおい、どこの情報だ、と思った時。
「プッハ! 鵜飼君、それ、花菱君の間違いじゃない?」
 近くの席の川本が頬を染めて鵜飼に声を掛けた。
 彼女は大きな瞳をパチパチさせて鵜飼にアピールしている。
 川本は声が大きいし動作のアピールが強い女子。僕が苦手なタイプだ。

 そして僕は何となく理解した。これは鵜飼の勘違いだ。
 隣のクラスの花菱は理系が得意で常にトップだ。名前が似ていたから間違えたのだ。
 少し高揚した気分が一気に沈む。
 注目を浴びてしまい恥ずかしさに顔が熱くなる。どうしていいかわからず、僕は下を向いた。

 そんな僕に構うことなく会話が続いていく。
「え? そうなのか?」
「そうだよぉ。花菱君とこ行く? あたし去年同クラだし、案内するよ」
「あ、いや、そうじゃなくて……」
 会話を乗っ取った川本と話をする鵜飼に背を向けた。

 ズンズンと足を進めると青木と渡辺が追いかけてきた。
「おい、花崎。いいのか? なんか、鵜飼がお前の方を見てるぞ」
「いいだろ。あんな勘違いされて恥ずかしすぎ」
「まぁ、あれはハズいな。つか、鵜飼は化学苦手なんかな? 成績良いって聞いたけどな」
「あ、先週休んだからじゃね? ほら、県選抜強化練習とかで」

 青木と渡辺の声に僕はピタッと歩みを止めた。

「それなら、なんで僕なんだ! はじめっから花菱か陽キャ仲間に借りろよ! この恥ずかしさはどうしてくれるんだ!」
 僕は悔しさに頭を抱えて声を荒げた。クラスで注目を浴びる苦痛。しかも頭のいい花菱と勘違いされて。
 女子の小馬鹿にした笑いが耳に残っている。思い出すとフツフツと怒りが沸く。

「ま、ご愁傷様としか言えんな」
「同感。おっつ」
「お前ら他人事だと思って……」
 じっとり目で睨むと二人が軽く笑う。
「ま、廊下は暑いし図書室に急ごうぜ」
「だな」
 二人が僕の背に手を回して歩みを進める。渋々と僕も足を前に出した。

 ――ま、青木と渡辺に八つ当たりしてもなぁ。
 そう思いながら、モヤモヤが僕の中にくすぶった。


 図書室は静かだ。図書室司書の方針で、室内でのスマホやゲームの使用は禁じられている。
 僕らのように避暑に来て、本を読まずに入り浸る生徒が多いから利用規則が追加された。
 そのおかげで図書館に来る人は真面目な生徒だけ。静かな空間が保持されている。

「休み時間はあと十五分か。俺、サーキット本を見てくる」
「おお」
 それぞれ興味のあるコーナーに向かう。僕ら三人は趣味が一緒ではない。
 青木はサーキット関係が最近のお気に入り。渡辺は現代ミステリーにハマっている。

 そして僕はヨーロッパ歴史関係に興味が出ている。僕らの高校の図書室は中世の歴史関係の本が充実している。僕は歴史の成績は良くないけれど、歴史本は楽しいと思う。
「じゃ、あとでな」
 互いに手を軽く振り合う。

 歴史コーナーに行き本の背表紙を眺めていると、「中世魔女の妙薬レシピ」と書かれた古い本が気になった。
 と言うか、妙薬ってなんだろう。
 中世ヨーロッパでは魔女狩りという怖い歴史があるのは知っている。気になって本を手に取った。

 ぱらぱらっとページをめくれば、「眠れない夜のためにヨーロッパで行われていた習慣」とか、「酔いを覚ますために」とかが載っている。これは薬草や食べものから効果を得るために、過去に中世で行われていた、まじないのようなレシピ本だとわかった。

 ――ちょっと面白いかも。
 中世当時の社会情勢と併せて解説があるところにも興味が湧いた。