『惚れ薬』が効きすぎるなんて、令和の時代にアリですか⁉

⑦
「なぁ、お前、Ⅴチューバーのユウってマジ?」
 中三になって、クラスの華やかな男子たちに声を掛けられた。
 僕に声を掛けて来たのは樋川。
 この頃には、僕は中学の有名人になっていた。

 僕は自分の「花崎佑二」の名前から「ユウ」という名をつけてユーチューブで活動をしている。
 突然、Ⅴチューバー名で声を掛けられるとびっくりする。
「あ、うん。そう、だけど」
 彼らは色々遊んでいると噂の四人組。すでに大人のような体格をしているし、オシャレな風貌が威圧的。
 この頃は僕の身長が百五十センチも無かったから、彼らが怖く感じた。

「へぇ。いいじゃん。俺らのグループ入らねぇ」
「ええ?」
 驚きの提案にのけ反るように過剰反応してしまった。
 彼らは他校生と喧嘩をして先生に注意を受けている人たちだ。
 僕の反応にご機嫌を損ねたかもしれない。不安になって彼らの顔色をうかがった。
 僕は四人に囲まれて冷汗を流したけれど。

「いいじゃん! コレ、フォローするって」
 金髪の戸口がスマホを出して、目の前で僕のチャンネルを登録する。
「俺も。花ちゃんって呼ぶなぁ」
 黒髪で一見真面目に見えるけれどピアスの光る田代が、戸口と同じようにスマホをいじる。
「似合ってんなぁ、花ちゃん呼び」
 ツーブロックヘアの大宮もチャンネル登録画面を僕に見せる。

 ――えっと、校内では携帯電話の使用は禁止されているのだけど。
 そう思っても、僕は大宮にガッチリ肩を組まれて、とても注意などできず、生きた心地がしなかった。
 ――どうしよう! 断れないし、怖いって!
 これから先の中学人生は終わった。

 そう思ったけれど。
 意外にも彼らは優しかった。

 学校内では一緒に笑い合うし、僕を優先してくれる。
 少し困るのは、帰りに時々ファーストフード店に誘われることくらいだ。
 他校の生徒に会うと、「コイツ、Ⅴチューバ―のユウだぜ」と自慢げに紹介されるのが嫌だった。でも、拒絶するほどじゃない。

 ――なんだ、大丈夫じゃん。怖くないや。
 そう安堵していた。

 中学三年の夏休み前。
「なぁ、花ちゃんち遊びに行っていい?」
「つか、Ⅴチューブってマジに配信してんのか見せてよ」
 樋川と大宮から言われて、ちょっと困った。
 これまで作業は一人でしていたし、最近はネットでのゲーム配信も順調で、その作業を見せるのは抵抗がある。
「えっと、配信は、ちょっと……」
 初めて彼らに対して拒否の姿勢を見せようとしたら。

「はぁ? 俺らのこと、信用してねぇっつーのかよ」
 急に低い声が耳元に響いた。身体の芯がブルブルっと震えた。
 ――やば。怖いって。
 がっしりと肩を組まれると『逃げられねぇぞ』と言われているようだ。
 心臓が恐怖にドッドッと大きな音を立てる。

「なぁ、花ちゃん。俺らと遊ぶよなぁ」
 田代が睨みを利かせて僕の顔を覗くから、僕はコクコクと頷くしかなかった。

 中三の夏休みがスタートした。
 たびたび僕の家に集まる彼らに、僕は疲弊した。彼らは不定期に突撃してくる。
 それを断わることはできなかった。
 勝手にパソコンを見られるのも、部屋を漁られるのも嫌だった。
 動画の生配信は行っていない、と拒否し続けたけれど、アバターを出せと言われて、僕と並んだ写真を撮られた。

 その内に、彼らとの付き合いが苦しくなって、とうとう僕は居留守を使った。

 そうすると、外に出たときに『いるじゃないか!』とバレる気がして、僕は外出ができなくなった。
 夏休み中は昼食を自分で買って食べて、と親から言われていたが、とても買いに出られず、その理由を説明することができなくて、食事を抜く毎日。
 朝食用に置いてあるパンだけでは空腹に襲われる。家にあるお菓子で何とか空腹を凌ぐ。

 母に言えれば良かったのだけれど、本当に困っていることを伝える勇気が、僕になかった。

 八月の後半。居留守を使うと、ドアをガンガン叩かれて、「花崎! 居留守、使ってんじゃねぇよ!」「いい気になってんな!」「Ⅴチューバーのユウの家はここでぇす!」などと怒鳴られるようになった。

 僕は怖くて仕方なくて。
 彼らが優しくしてくれていた一学期が嘘のようで。
 ――どうして? なんで?
 泣きながら、そのことばかりを考えた。ユーチューブの配信はとても更新できなかった。