『惚れ薬』が効きすぎるなんて、令和の時代にアリですか⁉

⑥
 その夜。
 僕は興奮を抑えることができず、このドキドキを解放したくて、久しぶりにパソコンを立ち上げた。
 鵜飼の真っすぐな姿勢が、全てに背を向けていた僕の心を刺激する。
 しばらく触れていなかったパソコン画面が、電源を入れたことで明るく光を発する。

 ――あ、なんか、ちょい緊張。
 ワクワクするような気持ちで画面に向き合う。
 久しぶり過ぎて胸の高鳴りが凄い。

「よし!」
 自分に気合を入れて、インストールしてあるゲームエンジンを更新する。
 ――二年以上、か。
 向き合えなくなってだいぶ時間が経過している。これは更新にも時間がかかるだろう。

 目を閉じれば鵜飼のバレーボールに打ち込む姿が脳裏に浮かぶ。
 高く跳ぶ姿。真剣な瞳。僕の膝に頭を預けて幸せそうに微笑む顔。
 思い出すと心臓がドキドキと音を立てる。

 鵜飼はバレーボールを「好きだけれど苦しい」と言っていた。
 鵜飼は苦しくても逃げずにバレーに向き合っている。まっすぐに。

 ――僕も、もう一度だけ、向き合ってみよう。
 そんな湧き上がる衝動に突き動かされている。

 引き出しに仕舞いこんでいたノートを取り出す。これはゲーム設定をかきこんだノート。
 パラパラとめくり、ミニゲームの設計を考える。
 ――うん。鵜飼に見せてみたいな。
 鵜飼はどんな顔をするのだろう。想像すると頬が緩む。
 そう言えば、体育館で僕の頬を鵜飼が触った。
 男の顔を愛おしそうに触れるなんて。

「あいつ、本当に変なヤツだよな」
 そう呟いてから自分の中で訂正する。
 今の鵜飼は一時の迷いだ。惚れ薬のせいでおかしくなっているのだから。
 本来なら鵜飼は僕など視界に入っていない一軍男子。
 そう考えて、パソコンから目を離す。

 今日の帰りに百円均一で購入したビニルボールを取り出す。
 椅子に座ったまま、トスの真似をしてみる。
 頭上にポンっとボールを上げて、トスの形をした手の中にキャッチする。そのまま上にボールを投げる。
 ポンポンとなんてとても出来ない。

 鵜飼のトスの姿が頭に浮かぶ。
 ――やっぱ、鵜飼はすごいなぁ。
 ボールを腕の中にキャッチする。鵜飼を思うと僕の胸に熱いものが込み上げる。

 鵜飼が僕に興味を示しているうちに、僕の作ったゲームを見せたい。
 鵜飼が「凄いじゃん!」と言ってくれたら嬉しい。
 僕の中にある、封じ込めたキラキラを、少しだけ鵜飼に知って欲しい。

 深呼吸をして白いボールを思い浮かべる。ボールはフワリと舞ったり、高速で飛んだり。鵜飼はそれを自由自在に操作する。
 それに、静かな体育館。息が止まるようなドキドキの時間。
 そう言えばバレーのボールはカラーのタイプと白がある。あれは何が違うのだろう。明日、鵜飼に聞いてみよう。
 きっと丁寧に教えてくれそうだ。

 これは、僕と鵜飼のゲームになる。他の誰にも見せなくていい。だから、好きなように作れば良いんだ。
 だけど。
 思い出すとため息が出る。
 僕の中に忘れることなど出来ない記憶と感情が蘇る――。

 ◇◇◇
 僕は幼い頃からゲームが好きだった。両親は共働きで、大人しく時間を潰していれば何も言ってこない。パソコンやゲーム機も買ってもらえた。

 そんな中でやり始めたミニゲームの作成。
 ユーチューブで作成している動画を見て、やってみたら何とかできた。初めて作ったのは単純な「じゃんけんゲーム」だけど、プロミラミングできたことが嬉しくて。

 誰かとこの楽しみを共有したくて、親に頼んでユーチューブ配信を開始した。
 もちろん顔出しはできないからⅤチューバ―として。アバターの姿を使って音声だけ僕の声とした。
 初めから「自分のゲームを見てください」とはできず、有名なゲームの攻略を配信。僕の目線で、小学生にはこの設定がきついよね、と躓くポイントを解説した。
 するとかなり人気がでた。
 中学一年で始めた配信は、一年たつと登録者数が一万人になった。これには自分で驚いた。

 ――僕ってスッゴイじゃんか!
 ちょっと良い気になっていたと思う。だって、こんなに注目されることも褒められることもなかったから。

 だから、中学校で「僕が配信してるんだ!」って言いふらしてしまったんだ。