『惚れ薬』が効きすぎるなんて、令和の時代にアリですか⁉

④
「鵜飼は、いつからバレーやってんの?」
 静かな体育館で僕の声が妙に大きく聞こえる。
 鵜飼がボールを転がす手を止めて、僕に目を向けた。
「小学三年。地元のスポーツ少年団に入ってから」
「へぇ。じゃ、歴が長いな」
「そうかも。バレーボールって中学から始める奴が多かったし」
 鵜飼がボールを僕にポンっと投げた。僕は座ったままでそれをキャッチする。
 手触りのいい皮と適度な硬さが心地いい。

 これが凄いスピードでコートの中を飛び交う様を思い浮かべる。
 あんなに激しく叩かれてボールは大丈夫なのか気になって、白い球体を撫でまわした。
 この白球が宙に舞うと、鵜飼が跳ぶ。
 コートの中の鵜飼は大鷲のようなカッコよさがある。

「鵜飼はアタッカーなんだよな。やりたいポジションなのか?」
「ん? そうそう。俺はアウトサイドヒッターなんだ。小学生の頃からアタッカー希望」
 ――ええ? 何だって?
 聞きなれない言葉に困惑する。
「ごめん、鵜飼。分からん」
「あ、そっか。アタッカーって三つのタイプがあってさ。アウトサイドヒッターはレフトポジにいるやつ。で、反対側のオポジット。で、ブロックとか速攻攻撃のミドルブロッカー」
 なんだか難しい名前で覚えきれない。とりあえずコクコクと頷いた。

 鵜飼が僕に寄ってきて僕からボールが奪われる。そのままスっと立ち上がり、鵜飼がその場でジャンピングじゃないサーブを打った。
 ――あ、ウォームアップのサーブだ。本気じゃない。
 ボールは大きく弧を描き、床に落ちる。ポンッと跳ねる様子を目で追った。
 鵜飼がグイッと伸びをしながらボールを取りに行く。

「鵜飼」
 鵜飼が足を止めて振り返る。
「なに?」

「バレーボールが好き?」

 鵜飼は数秒停止してから、ゆっくりと僕に足を進めた。
 ――あれ? ボールは?
 拾いに行ったんじゃないのか? えっと、なんで僕に向って来るのだろう。

 鵜飼が真剣な表情で僕を凝視している。
 徐々に近くなる距離に、僕の心臓がドキドキしだす。
 体育館は電気をつけていないから、差し込む光が幻想的に鵜飼に影を落とす。
 妙に心がソワソワする。
 バレーボールが好きか、など分かりきったことを問うべきじゃなかったのかも。
 座っていていいのか不安になって僕も立ち上がる。
 ――後ずさりしたら、変だよな。
 鵜飼の様子が読めない。どうしたらいいのだろう。

「好きだよ」

 僕にあと一歩というところで足を止めた鵜飼が低い声を放った。
 鵜飼は僕を真っすぐ見ている。

「……え?」
 一瞬、僕の息が止まりそうになった。全身がビリビリと震える。
 ――は? はぁあ⁉
 心臓が限界まで速くなり、ドドドッと迫力のある音を鳴らす。
 ――すす、好き⁉ どうしよう! 
 僕の全身がパニックを訴える。顔が熱い!

「バレーボールは、俺の青春、だろうな。とか、キメすぎか」
 頬を染めて鵜飼が破顔する。

 ――バレーボール……。

 そうだよ! 僕は何を勘違いしているのだ! そう聞いたのは僕じゃないか。
 いや、だけど。
 あまりに真剣な鵜飼の様子に、まるで僕が告白をされたかと勘違いをしてしまった。
 というか、すごい迫力だった。
 いまだに僕の心臓の高鳴りはおさまらない。

「あは、は。そう、だよな。好きじゃなきゃ、あんなに上手くないよな」
 勘違いした自分の恥ずかしさが鵜飼にバレないように、慌てて笑いで取り繕った。
 だけど。

「上手い、か。そっか。俺さぁ、バレーは好きだけど、苦しい、かな」
 ――好きだけど、苦しい。
 その表現に僕の笑みが引く。
 鵜飼の気持ちは痛いほどわかる。その苦しさは、僕も知っているから。