①
二学期になっても汗が滲む日々。
二年五組の教室から見る運動場は、ゆらりと湯気が上がっている。
――陽炎でてんじゃん。九月なのに、あっついからなぁ。
昼休みなのに人のいない校庭。真夏の静寂だ。
エアコンの効いた教室には生徒が詰まっているのに、無人の校庭との格差が非現実的だ。異世界とか夢世界とか、そんな感じがする。
――うん。ちょっと、イイ感じだな。
その景色に惹かれて僕の頬が少し緩んだ、その時。
「教室は快適だけどさ、人が多いなぁ」
クラスメイトの青木の声に、ハッと意識を教室に戻した。
思ったより綺麗な光景に見惚れてしまっていた。
確かに夏の教室には人が多い。これにはちゃんと理由がある。
夏以外なら皆、自由な場所で弁当を食べる。けれど夏だけは違う。
僕たちの高校では節電のために使用教室だけしか冷房が効いていない。使わない教室は暑くてたまらない。
だから教室で昼休みを過ごす生徒がほとんど。
「ああ。やっぱ、今日も行く?」
「だな。真面目な俺らのオアシスへ!」
「あはは! 確かに真面目な僕らの場所だ。飲み物を買っていこうぜ」
友人の青木と渡辺と笑い合う。僕らは陽キャではないし、陰キャでもない。
二年で同じクラスになってから、何となく一緒にいる。部活で成果を出すことはなく、勉強は普通の成績。つまり平凡君の集まり。目立ちたくない僕には、とても助かる友人たちでもある。
そんな僕らのお気に入り場所は図書室。
昼休みの食後の時間をざわめきの多い教室で過ごすより、静かな図書室が快適。もちろんエアコンもバッチリ効いている。
今日も図書室に向かうため、自分の名が書かれた利用カードを手にして席を立ったけれど。
「あ、花崎。ちょい待って」
名を呼ばれて足を止めた。僕を呼ぶ低い声。
振り返れば男子バレー部の鵜飼虎太郎がいた。
鵜飼は高身長イケメンの陽キャ男子。その身長は高校二年で百八十五センチ。
どうやらまだ伸びているらしい、と女子が騒いでいた。
それに比べて僕は、高校男子の平均身長に少し届かずに止まってしまった。その差は十五センチ以上。
そこまでの差になると、鵜飼が男子とかの分類じゃなく宇宙人に思えてくる。ついでに鵜飼の明るめの髪の毛がオシャレ感を醸し出している。うん。まさに陽キャという分類の宇宙人だ。
そんな一軍陽キャの鵜飼が何の用だ?
眉間に皺を寄せて考えるが、僕には心当たりが一つもない。
「えっと、なに?」
僕が足を止めたから、青木も渡辺も静止した。二人から驚きのオーラが出ている。うん、わかるよ。僕も驚いているから。
「悪いんだけど、化学のノート貸してくれない?」
鵜飼の柔らかな笑顔が眩しい。思わず見惚れる。まじまじとイケメンを眺めて、言われたことを考える。
――化学のノート? 僕の? なんで?
僕は化学で平均点しかとれない平凡男子だ。いや、全部の教科が平均程度だけど。その僕にノートを借りたいって、どういうこと?
二学期になっても汗が滲む日々。
二年五組の教室から見る運動場は、ゆらりと湯気が上がっている。
――陽炎でてんじゃん。九月なのに、あっついからなぁ。
昼休みなのに人のいない校庭。真夏の静寂だ。
エアコンの効いた教室には生徒が詰まっているのに、無人の校庭との格差が非現実的だ。異世界とか夢世界とか、そんな感じがする。
――うん。ちょっと、イイ感じだな。
その景色に惹かれて僕の頬が少し緩んだ、その時。
「教室は快適だけどさ、人が多いなぁ」
クラスメイトの青木の声に、ハッと意識を教室に戻した。
思ったより綺麗な光景に見惚れてしまっていた。
確かに夏の教室には人が多い。これにはちゃんと理由がある。
夏以外なら皆、自由な場所で弁当を食べる。けれど夏だけは違う。
僕たちの高校では節電のために使用教室だけしか冷房が効いていない。使わない教室は暑くてたまらない。
だから教室で昼休みを過ごす生徒がほとんど。
「ああ。やっぱ、今日も行く?」
「だな。真面目な俺らのオアシスへ!」
「あはは! 確かに真面目な僕らの場所だ。飲み物を買っていこうぜ」
友人の青木と渡辺と笑い合う。僕らは陽キャではないし、陰キャでもない。
二年で同じクラスになってから、何となく一緒にいる。部活で成果を出すことはなく、勉強は普通の成績。つまり平凡君の集まり。目立ちたくない僕には、とても助かる友人たちでもある。
そんな僕らのお気に入り場所は図書室。
昼休みの食後の時間をざわめきの多い教室で過ごすより、静かな図書室が快適。もちろんエアコンもバッチリ効いている。
今日も図書室に向かうため、自分の名が書かれた利用カードを手にして席を立ったけれど。
「あ、花崎。ちょい待って」
名を呼ばれて足を止めた。僕を呼ぶ低い声。
振り返れば男子バレー部の鵜飼虎太郎がいた。
鵜飼は高身長イケメンの陽キャ男子。その身長は高校二年で百八十五センチ。
どうやらまだ伸びているらしい、と女子が騒いでいた。
それに比べて僕は、高校男子の平均身長に少し届かずに止まってしまった。その差は十五センチ以上。
そこまでの差になると、鵜飼が男子とかの分類じゃなく宇宙人に思えてくる。ついでに鵜飼の明るめの髪の毛がオシャレ感を醸し出している。うん。まさに陽キャという分類の宇宙人だ。
そんな一軍陽キャの鵜飼が何の用だ?
眉間に皺を寄せて考えるが、僕には心当たりが一つもない。
「えっと、なに?」
僕が足を止めたから、青木も渡辺も静止した。二人から驚きのオーラが出ている。うん、わかるよ。僕も驚いているから。
「悪いんだけど、化学のノート貸してくれない?」
鵜飼の柔らかな笑顔が眩しい。思わず見惚れる。まじまじとイケメンを眺めて、言われたことを考える。
――化学のノート? 僕の? なんで?
僕は化学で平均点しかとれない平凡男子だ。いや、全部の教科が平均程度だけど。その僕にノートを借りたいって、どういうこと?
