⑥
「ナイススパイク!」
声と共にボールの跳ねる軽快な音。
ハッと顔を上げれば、身体の大きな男たちがタンッと地面を蹴ってスパイクを打ち込んでいる。
その迫力はサーブ練習をはるかに上回る。
「うわ。すっご。つか、人間ワザと思えないって」
思わず声に出ていた。それくらい迫力がある。
同じ高校生とは思えない。身体全体から輝きが放たれているようだ。
――あ、鵜飼だ!
鵜飼が跳んだ。
踏み込みからジャンプは柔らかく身体が動いていたのに、ボールを打ち込む瞬間、身体全身が鞭のようにしなった。
鵜飼が着地するより早くボールがコートに叩きつけられる。
その躍動感が体育館の床を伝って僕の身体にビリビリ入り込む。
ダイナミックな動きに言葉を失う。
鵜飼は肩幅も肩の厚みも逞しい。
僕は自分の腕を撫でてみた。
――うん。全然違うなぁ。
僕は運動をやろうなどと思わなかった。デジタルゲーム攻略が小さい頃から好きだったし。
つい、中学の頃を思い出しそうになり、ブルブルと首を振った。
思い出すと気持ちが暗くなるから嫌だ。
ふと時間を見れば五時半。バレー部の練習は六時半すぎまでやるだろう。
電車の時間もあるし、僕はそろそろ帰ったほうがいい。鵜飼に声をかけようと思ったとき。
「じゃ、ゲーム!」
「ゲーム準備~!」
「はい!」
顧問のかけ声に部員たちが駆け足で動く。
それまでめまぐるしくコート内を駆け回っていた部員たちがコートの外に出る。
ボールが回収されて、コート内が整然とした。
――あ、何か、始まる?
そんな期待が生まれた。もう少し見ていきたい。
「じゃ、ゲームはAチーム対Bチーム! コート入れ!」
「お願いします!」
「お願いします!」
コートの端に六人ずつが並んで、挨拶を交わしてからコート内に陣取った。
僕は鵜飼を探した。鵜飼はAチームと呼ばれた側の前の列にいる。
アタック練習をしていたし、スパイクを打つポジションなのだろう。
いつの間にか審判台に笛を持った部員がいた。
「ピッ」
審判の合図でBチーム選手がサーブを打つ。
その瞬間。
両チームの選手が一気に動いた。
レシーブを受ける人だけじゃない。各ポジションの人がコート内を移動する。
「すっご!」
その動きとともに「クイック!」「C」など声が飛び交う。
いつの間にかスタートの陣営とは全然違う形をとった六人。
セッターがジャンプトスを飛ばした。
ネットに沿ってボールが低く飛んだ、と思った瞬間。
バシっとボールが床に叩きつけられて、一点が決まっていた。
――は? 何が、起きた?
あまりの速さに脳がバグる。
呆気にとられながら、僕は起きたことを脳内リプレイしてみた。
低いトスが上がったと思たら、いつの間にかジャンプしていた鵜飼が、神業のようにスパイクした。そうだ! 鵜飼が決めたはず。
「か、かっこよ……」
その一連の動きに全く無駄がなく、相手コートの選手はブロックさえ間に合わずに、気持ちいいくらいにバシッとスパイクが決まっていた。
「ナイッス鵜飼!」
「ナイス一本!」
コートの中がワッと沸く。破顔した鵜飼が周囲の選手とハイタッチをする。
まるで大迫力の映画を見ているようだ。背筋がゾワッとする。
僕の心臓がハクハクと興奮を訴える。
鵜飼から目が離せずにいると、彼がチラッと僕に視線を向けた。
一瞬目が合う。
そして、わずかに鵜飼が微笑んだ。
――うっわ! うっわ‼ なんだ、これ!
僕の心臓がドッドッと速くなる。一気に頬が熱くなる。
――ちょっと、待って! 胸が、苦しっ!
急に恥ずかしくなりリュックで顔を半分隠した。
意味不明の熱が僕の中に渦巻く。
心臓もバクバク動きまくるし、どうなっているんだよ⁉
そんな僕の混乱に構わず、コートの中ではゲームが進む。
先ほどまで歓喜に沸いたAチームのコートはすでに静まっていて、選手が元の位置に戻っている。
今度のサーブはAチームだ。
「ピッ」
審判の笛の音でサーブが放たれる。
その瞬間に定位置にいた選手たちが一気に動く。
キュッキュッと気持ちのいいシューズの音が立ち上がる。
一人一人の動きが俊敏だ。全身の筋肉をフル稼働しているのが分かる。
――スゴイ、綺麗、だ。
静と動の切り替わりに見惚れる。教室の終礼の比じゃない。緊張感が全く別物だ。
手が震える。羨ましいと思う光景が広がっている。
ホロリと僕の頬に涙が伝った。
――ヤッバ。涙が出てる!
慌てて僕は下を向いた。リュックに顔を隠して必死に頬を拭う。
そうして僕が目を逸らしている間も、軽快なシューズ音とボールの音が波のように入り乱れる。
――鵜飼はすごい世界で輝いてるな。スゴイや。
僕の目の奥には、高くジャンプして爽快にスパイクを決める鵜飼の姿が焼き付いている。
全身で喜びを表現する姿もカッコイイ。
僕は気持ちを落ち着けて、もう一度ゲームを見た。涙は止まっている。この瞬間を見逃すのは勿体ない。鵜飼のことをちゃんと見ておきたい。
そう思って鵜飼のプレーを目で追った。
ゲーム中はキュンキュンする自分の胸に耐えて、流れそうになる涙を堪えることに必死だった。
――鵜飼の言う通りだ。僕はバレーボールが好きかも。
そう思った。もちろんプレーできないから、見る専門だけど。
ゲームは鵜飼のいるAチームの圧勝だった。
僕はゲーム終了の六時四十五分まで見学していた。途中で帰ろうとは、とても思えなかった。
「ナイススパイク!」
声と共にボールの跳ねる軽快な音。
ハッと顔を上げれば、身体の大きな男たちがタンッと地面を蹴ってスパイクを打ち込んでいる。
その迫力はサーブ練習をはるかに上回る。
「うわ。すっご。つか、人間ワザと思えないって」
思わず声に出ていた。それくらい迫力がある。
同じ高校生とは思えない。身体全体から輝きが放たれているようだ。
――あ、鵜飼だ!
鵜飼が跳んだ。
踏み込みからジャンプは柔らかく身体が動いていたのに、ボールを打ち込む瞬間、身体全身が鞭のようにしなった。
鵜飼が着地するより早くボールがコートに叩きつけられる。
その躍動感が体育館の床を伝って僕の身体にビリビリ入り込む。
ダイナミックな動きに言葉を失う。
鵜飼は肩幅も肩の厚みも逞しい。
僕は自分の腕を撫でてみた。
――うん。全然違うなぁ。
僕は運動をやろうなどと思わなかった。デジタルゲーム攻略が小さい頃から好きだったし。
つい、中学の頃を思い出しそうになり、ブルブルと首を振った。
思い出すと気持ちが暗くなるから嫌だ。
ふと時間を見れば五時半。バレー部の練習は六時半すぎまでやるだろう。
電車の時間もあるし、僕はそろそろ帰ったほうがいい。鵜飼に声をかけようと思ったとき。
「じゃ、ゲーム!」
「ゲーム準備~!」
「はい!」
顧問のかけ声に部員たちが駆け足で動く。
それまでめまぐるしくコート内を駆け回っていた部員たちがコートの外に出る。
ボールが回収されて、コート内が整然とした。
――あ、何か、始まる?
そんな期待が生まれた。もう少し見ていきたい。
「じゃ、ゲームはAチーム対Bチーム! コート入れ!」
「お願いします!」
「お願いします!」
コートの端に六人ずつが並んで、挨拶を交わしてからコート内に陣取った。
僕は鵜飼を探した。鵜飼はAチームと呼ばれた側の前の列にいる。
アタック練習をしていたし、スパイクを打つポジションなのだろう。
いつの間にか審判台に笛を持った部員がいた。
「ピッ」
審判の合図でBチーム選手がサーブを打つ。
その瞬間。
両チームの選手が一気に動いた。
レシーブを受ける人だけじゃない。各ポジションの人がコート内を移動する。
「すっご!」
その動きとともに「クイック!」「C」など声が飛び交う。
いつの間にかスタートの陣営とは全然違う形をとった六人。
セッターがジャンプトスを飛ばした。
ネットに沿ってボールが低く飛んだ、と思った瞬間。
バシっとボールが床に叩きつけられて、一点が決まっていた。
――は? 何が、起きた?
あまりの速さに脳がバグる。
呆気にとられながら、僕は起きたことを脳内リプレイしてみた。
低いトスが上がったと思たら、いつの間にかジャンプしていた鵜飼が、神業のようにスパイクした。そうだ! 鵜飼が決めたはず。
「か、かっこよ……」
その一連の動きに全く無駄がなく、相手コートの選手はブロックさえ間に合わずに、気持ちいいくらいにバシッとスパイクが決まっていた。
「ナイッス鵜飼!」
「ナイス一本!」
コートの中がワッと沸く。破顔した鵜飼が周囲の選手とハイタッチをする。
まるで大迫力の映画を見ているようだ。背筋がゾワッとする。
僕の心臓がハクハクと興奮を訴える。
鵜飼から目が離せずにいると、彼がチラッと僕に視線を向けた。
一瞬目が合う。
そして、わずかに鵜飼が微笑んだ。
――うっわ! うっわ‼ なんだ、これ!
僕の心臓がドッドッと速くなる。一気に頬が熱くなる。
――ちょっと、待って! 胸が、苦しっ!
急に恥ずかしくなりリュックで顔を半分隠した。
意味不明の熱が僕の中に渦巻く。
心臓もバクバク動きまくるし、どうなっているんだよ⁉
そんな僕の混乱に構わず、コートの中ではゲームが進む。
先ほどまで歓喜に沸いたAチームのコートはすでに静まっていて、選手が元の位置に戻っている。
今度のサーブはAチームだ。
「ピッ」
審判の笛の音でサーブが放たれる。
その瞬間に定位置にいた選手たちが一気に動く。
キュッキュッと気持ちのいいシューズの音が立ち上がる。
一人一人の動きが俊敏だ。全身の筋肉をフル稼働しているのが分かる。
――スゴイ、綺麗、だ。
静と動の切り替わりに見惚れる。教室の終礼の比じゃない。緊張感が全く別物だ。
手が震える。羨ましいと思う光景が広がっている。
ホロリと僕の頬に涙が伝った。
――ヤッバ。涙が出てる!
慌てて僕は下を向いた。リュックに顔を隠して必死に頬を拭う。
そうして僕が目を逸らしている間も、軽快なシューズ音とボールの音が波のように入り乱れる。
――鵜飼はすごい世界で輝いてるな。スゴイや。
僕の目の奥には、高くジャンプして爽快にスパイクを決める鵜飼の姿が焼き付いている。
全身で喜びを表現する姿もカッコイイ。
僕は気持ちを落ち着けて、もう一度ゲームを見た。涙は止まっている。この瞬間を見逃すのは勿体ない。鵜飼のことをちゃんと見ておきたい。
そう思って鵜飼のプレーを目で追った。
ゲーム中はキュンキュンする自分の胸に耐えて、流れそうになる涙を堪えることに必死だった。
――鵜飼の言う通りだ。僕はバレーボールが好きかも。
そう思った。もちろんプレーできないから、見る専門だけど。
ゲームは鵜飼のいるAチームの圧勝だった。
僕はゲーム終了の六時四十五分まで見学していた。途中で帰ろうとは、とても思えなかった。
