『惚れ薬』が効きすぎるなんて、令和の時代にアリですか⁉

④
 ホームルームが終了する。僕は今日もこの雰囲気を味わう。
 皆が部活や帰宅に向けて動くから教室内が波打つようだ。とはいえ、ゆっくり見てもいられない。
 今日は僕にも鵜飼の部活を見に行く予定があるから。

 見ている側だった僕がこの波に入っていくと思うとドキドキする。
 ――そうか。帰りの支度!
 ハッと気が付いて、慌ててリュックに物を詰め込んだ。

「花崎、急がなくていいよ」
 ぬっと大きな影とともに鵜飼が側に来る。
「ごめん。でも遅くなると鵜飼の練習時間が減るだろ? すぐに支度するから」
「ん。サンキュな」
 ――部活だって。見学だけど、僕が、部活!
 想像していなかった出来事にワクワクする。

 本当は、皆の輝きが少し羨ましかった。
 僕だって、普通に地元の高校に通っていたら部活に入っていたはずだけど。
 だけど……。
 ――いやいや! 考えるな!

 ブンブンと頭を振って嫌な考えを追い出す。
「花崎、どうかした?」
 そりゃ心配にもなるよな。急に頭をブンブンと振り出したのだから。
「あはは。何でもない。行こう。連れて行ってくれるんだろ?」
 リュックを背負って声を掛ければ、鵜飼は頬をピンクに染める。
 ――ん? 暑いせい?
 教室内はエアコンが効いているけれど。

「まかせろ。俺が、連れていくから」
「ん」
 鵜飼は口に手を当てて顔全体を赤く染めている。一体どうしたのだ。心配になって鵜飼の顔を覗き込んだ。
「鵜飼?」
「うっわ! 花崎、ちょい、ちょっと、距離感!」
 ――はぁあ⁉ 今朝から人の隣に接近してきていた奴のセリフかよ!
 有り得ないだろう! 自分は距離感バグっておいて、僕には注意するのか。
 意味が分からず鵜飼を軽く睨んだ。

「鵜飼は、マジで訳わからん」
 僕がプイっと横を向けば、鵜飼は口をへの字に曲げる。
「仕方ないじゃないか。こんな気持ち、これまで知らなかったし」
 真剣に答える鵜飼に、僕は誠意を込めて心の中で謝罪した。
 ――ごめん! 鵜飼、完全にそれ、勘違いだ!それ、ただの惚れ薬効果だぁ!
 気まずい空気に耐えられずに、鵜飼の背を押した。

「鵜飼、早く行こう」
声を掛ければ鵜飼は優しく目尻を下げた。

「おう」
その優しい瞳がキラキラと輝いていて、僕の心がドキリと揺れる。
 まるで媚薬とか関係なく、心からの好意が込められているようだ。
 思わず見惚れてしまい、息を飲んだ。

 鵜飼が『どうかしたか?』とでも言いたげに、軽く首を傾げる。
 ――うっわ。かっこ、いい!
 そのモデルのような男の色気に背筋がビリっと反応する。

 いや、男の僕がそんな風に思うのはおかしいのだけれど。あ、それを言うのなら、鵜飼が僕に赤面する時点でおかしいのだけれど!
 ――もう、どうなってるのか分からん‼

 混乱で頭がグルグルする。
 とにかくこの空気をどうにかしたくて、鵜飼の背をグイグイと押して足を進めた。

 何かが変だ。鵜飼も、僕も。どうしたのだろう。

 時々ドキリと反応する自分の心が、少し怖い。
 鵜飼の背に隠れて、グッと唇を噛みしめた。