『惚れ薬』が効きすぎるなんて、令和の時代にアリですか⁉

③
「青木、渡辺! 昼はごめん!」
 鵜飼はバレー部顧問に用事があると言い、昼食を食べると職員室に向かった。
 僕は青木と渡辺を追いかけて図書室に直行した。
 図書室に入る手前で二人をつかまえることができて僕は胸を撫でおろした。
 図書室に入ってしまったら、しっかり謝ることができないから。

「おお、別に花崎が謝る事じゃないだろ」
「うん。というか、避けたみたいになって、ボクらがゴメンって思ったし」
 渡辺は反省の色を滲ませている。
「いや、二人の平穏な時間を乱して、僕が悪かったよ。でさ、しばらく昼は鵜飼と食べることになりそうだから」
「ああ、オケ。それはいいよ。いつかそうなるかもって思っていたし」
 ――ん?
 青木の言葉が引っかかる。まるでこうなることを察していたような言い草だ。

 もしかしたら青木は昨日のことを知っているのだろうか。
「惚れ薬、のせいってこと?」
 途端に二人が眼を丸くして僕を凝視した。
「うっそだろ! マジであんな本のを試したのか! ぶわっははは!」
「やばい! しかも信じているのかよ! 花崎、乙女すぎだ!」
 堰を切ったように爆笑する二人。考えてみれば、惚れ薬など笑い話のレベルだ。
 何を僕は真剣になっていたのだ。一気に顔が熱くなる。
「そ、そんな笑うな! 二人だって使えって言っていたじゃないか!」
「あんなのギャグだろうが! やべぇ、腹が痛い~!」
 笑い飛ばされて何も言えない。昨日、本当に使ったなどと言い出せない。

 しかも、鵜飼がマジで僕に好意を持ってしまったかも、なんてとても言えない。
 僕はただ顔を赤くして立ち尽くした。
 ただ、これだけは聞いておきたかった。

「なぁ、じゃあ、僕って可愛い分類、かな」
 鵜飼が二度も僕の事を「可愛い」と言った。聞き間違いではなかったはず。
 その真実を二人に確認しておきたかった。

 青木と渡辺はピタリと笑いを止めた。
 ――ああ、言うんじゃなかった! またバカにされる!
 そう思ったけれど。
「うん。可愛いぞ」
 ―――ええ?
 僕は目を瞬かせて青木に顔を向けた。
「まさか、自分で分かってなかったのか? そこらの女子より可愛いだろ。黒い艶髪で小顔だし。二重の猫目も、さ。で、何となく中性的で」

 渡辺の言葉に口をあんぐり開けてしまった。

「えええ⁉ マジで僕は可愛いのか!」
「マジだ。白雪姫的な感じだな」
「リアル白雪だ」
 二人が真面目にウンウンと頷き合っている。
 ――知らなかった……。
 絶望的な現実だ。

 僕は高校生の平均身長に五ミリ足りない程度だけど、男として普通だと思っていた。
 それが可愛い認識されていたなんて。

「オワッタ……」
 真っ白に燃え尽きた感覚で、ふらりと身体が傾いた、が。

「おっと。危なっ」
 大きな身体に抱き留められてドキリとする。もう顔を見なくても分かってしまう。
 ――鵜飼だ。と言うか、職員室に行ったんじゃないのか!
 背中を預けたまま彼を見上げると、その顔が徐々に赤面して目がキョロキョロと泳ぎ出す。

 ――マジか! マジなのかよ!
 鵜飼を見上げたまま、先ほどの青木たちの言葉を思い浮かべる。
 屈辱だが、白雪姫と表現された。もし、鵜飼の目にもそう映っているのなら……。

「僕は坊主頭にしよう」
 究極の男らしさを表現する方法を口にした。

「はぁ⁉」
「ええ?」
「アホか!」

 三人の声が重なった。僕は鵜飼からスッと離れて立った。
 そうだ。黒髪が女性のように見せているのなら、坊主頭にでもすればいいのだ。
 我ながら良い案だと思う。

「床屋に行ってくる」
 クルリと背を向ければ、僕は鵜飼に羽交い絞めにされた。
「行かせない!」
 鵜飼の低い声が直接僕に響く。
「離せ!」
 抵抗するが、鵜飼の力に全てを封じ込まれる。男としてこれは悔しい。

「そうだ! いいぞ、鵜飼!」
「丸刈り反対!」
 青木と渡辺が鵜飼と同調している。
 と言うか、お前らは鵜飼が苦手なんだろうが。何を一蓮托生みたいに連携してんだよ。
 ツッコミどころが満載過ぎる。

 それより羽交い絞めが、苦しい!
「わ、分かったから、床屋に行かない! 鵜飼、ギブ!」
 涙目になって僕は鵜飼の腕をタップした。

 鵜飼は「ごめん」と言いながら腕の力を弱めたけれど、僕はその場に崩れ落ちた。
 ゲホゲホと咳込めば、先ほどまで暴挙に出ていたとは思えないオロオロした態度で、鵜飼が背を撫でてきた。
「つい、力が入っちゃった」「本当に、ゴメン」そんな言葉を沢山聞いた。

 気が付いたら青木と渡辺はその場にいなかった。
 呼吸が落ち着いて鵜飼を見れば、しょぼくれた犬のようになっている。
「鵜飼、もういいって」
「うん。ごめん」
 鵜飼の新たな一面だ。こんな風に落ち込むのは初めて見た。まるで子供だ。

「プハッ」
 こみ上げる笑いを抑えきれない。
「あはは」
「ブハハ!」
 意味が分からずに面白さが溢れて、二人で笑った。よく分からないけれど笑いが止まらない。

 口を開けて大笑いするのは久しぶり。腹の奥がホワっと温かい。
 これは、青木や渡辺と一緒に居るのとは少し違う感覚だ。

 教室に戻る時、またしても鵜飼は僕に接近して歩いた。
 ――腕、触れるし。近いんだよな。でも、まぁ、いっか。
 鵜飼の高い体温が腕に直に伝わってくる。
 ――僕より、熱いな。
 頬を染める鵜飼が嫌じゃない、かも。