『惚れ薬』が効きすぎるなんて、令和の時代にアリですか⁉

②
 その昼休み。
 青木と渡辺と僕は、固まっている。僕等の視線の先には、優しい笑みを浮かべた大男がいるから。
 そこにいるのは、もちろん鵜飼だ。

「えっと。これは、どういう状況?」
 青木の震える声。渡辺がコクコクと頷いて同意を示す。
 二人の視線が僕に向かった。
 ――いや、僕だって分からないんだ! 
 そう伝えたくて僕も必死に首を横に振った。

「青木、渡辺。今日から俺も一緒に食べていい?」
 鵜飼が笑顔を二人に向けた。その眩しさに青木と渡辺が下を向く。
「ハイ、ドウゾ」
 青木の声が棒読みになっている!
 めちゃめちゃ怯えている様子の二人に申し訳なさが込み上げた。

 けれど、鵜飼がモテ男子だから昼を一緒に食べないというのも差別的だ。そんなのは良くない。

 教室の後ろの方では、いつも鵜飼と昼食を一緒にしているグループが、チラチラこちらに視線を飛ばしている。

 皆の不快感が僕にドスドスと突き刺さる。
 僕のひ弱な心が縮こまる!
 注目を浴びたくないのに!

 ――何で、こんなことに!!

 鵜飼は皆の注目に動じていない。その度胸を分けてほしいと心の底から願った。

「えっと、青木と渡辺は、趣味の話とかあるし、鵜飼は僕と二人で食べよっか。青木も渡辺もそれでいい?」
 きっとこれが最善策だ。けれど、平凡普通の友人グループとの別れが残念で仕方ない!
そんな僕の気持ちを知らずに、僕の提案に二人がコクコクと頷く。

 ――ああ、サイコーの居場所だったのに……。

 鵜飼が悪いわけじゃないけれど、こればかりは悔しくて仕方ない。
 僕だって本当は陽キャが苦手なのだ。

 くっつけていた机を離して、青木たちとテーブルを別にした。
 ――さよなら、僕の平凡ライフ……。

 心で別れを告げて、鵜飼に向き合う。

「鵜飼、いいのかよ。あっちのグループも気にしてるけど」
 僕は、もともと鵜飼が一緒に食べていたグループを目線で示した。
「あ、そっちは大丈夫。ちゃんと伝えてきた。あいつらは応援してくれている。多分、エールでも送ってるつもりかな。それより、花崎のほうがゴメン。入れてもらえると思ったんだけどな」

 鵜飼が申し訳なさそうに青木たちをチラっと見る。その様子にため息が漏れる。
 気にするくらいなら僕たちのグループに入ってこなければいいのに。

「急に僕らのグループに来るなんて、どうしたんだよ」
 テーブルに弁当を広げる。

「ああ。昨日、願いが叶うやつをやってもらったし。ちょっと頑張ってみようかと」
「は?」
「花崎と仲良くしたいからさ」
 朝も同じことを言っていた。

 もしかして、マジで惚れ薬が効いている?

「鵜飼! いいか、それは、勘違いだ!」
 思わず大声が出ていた。周りの人が僕に注目する。
 ――うわ、恥ずかし!
 僕は背を丸めて声を小さくした。

「鵜飼、目を覚ませ。そもそも僕と仲良くするメリットなんてないだろ?」
「あるよ。俺には、ちゃんとある」
 即答されて驚いた。鵜飼は落ち着いた様子で僕を見つめている。

 茶色の瞳に妙な迫力を感じて、ゴクリと唾を飲み込んだ。
 どんなメリットだよ、とは聞けなかった。

「弁当、食おう」
 穏やかに微笑んで鵜飼いが弁当を広げた。
 僕もそれに従い、カポっと弁当の蓋を開ける。

 唐揚げと出汁巻卵が詰まっている弁当に嬉しくなる。
 鵜飼が弁当を食べ始めたのを確認して、僕もパクっと口に入れる。

「花崎って、何で部活に入ってないんだ?」
 僕は口に入っている唐揚げをゴクンと飲み込んだ。
「家が遠いから」
 一言で答えて白米を口に放り込む。
「通学は電車?」
「まぁな」
「どれくらい時間かかる?」
 だんだんイライラしてくる。なぜ僕のことを聞くのだろう。
「鵜飼には関係ないだろ」
 つい強い口調で言い放っていた。ハッとする。
 嫌な思いをさせただろうか。

 だけど鵜飼はそんなことは気にせず、焼き肉をパクリと口に運ぶ。もぐもぐと咀嚼するのを見守った。

「バレーボールの部活見てってくれたら嬉しいから。通学に時間かかるなら、部活に付き合わせるわけにいかないだろ?」
 鵜飼はニッコリ笑う。

 なんだか肩透かしを食らって、僕も笑った。

 僕の事を詮索されたのではない。鵜飼はそんな奴じゃない。変に考えるな。
 そう自分に言い聞かせる。

「電車で一時間かかる。朝が早いから、無理しないように部活入っていないだけ。別に午後六時過ぎでも帰れないことはないよ」
 自分のことを探られたわけじゃないと思えば返答も素直にできる。

 それに入学時から部活に入るつもりがなかったから、どこの見学も行っていない。バレーボール部を見るのは知らない世界を知る楽しみがある。

 鵜飼の入っている男子バレーボール部は県大会で優勝するほどの強豪だ。
 鵜飼自信も県選抜選手に入るくらいだし。練習は迫力がありそうだ。

 そう思いながら出汁巻卵を口に運ぶ。
 もぐもぐと咀嚼すると、視線を感じて、目線を上げた。すると、鵜飼と目が合う。
 ――ん? 僕を、見ている?
 口をモゴモゴ動かしながら、鵜飼の視線の意味が分からず首を傾げた。

「そっか。それなら良かった。つか、可愛ぃな」
 おいおい、最後に可愛い、と言わなかったか?
 ゴクンと出汁巻卵を飲み込む。

 なぜだろう。僕には、鵜飼の瞳にハートが見える、気がする。
 熱の込もった視線に、心臓がドキリとする。

 ――ちょっと、これは、ヤバい展開じゃないのか⁉

「はは、あの、鵜飼。弁当、食った方が良いんじゃね?」
「あ、うん。つい見惚れた。あはは」

 いやいや、なんだその照れ笑いは!
 鵜飼の変化について行けない。

 僕は一体どうしたらいいんだよ!