「今回はお手柄だったわね」
部室に戻ってから、部長は言った。
「ようやく晴人くんも『諦め屋』としてやっていく気持ちになったってことかしら?」
「ぜんぜん違います」
俺は即座に否定する。
「そりゃあ天川先輩の退部理由を聞いて、美術部が廃部になるのは仕方ないって思いましたけど……ふたりが大事に思ってることは、諦めずに済みましたから」
美術部が廃部になってしまうこと自体は変わらないが、それをただ受け入れるのと、こうして二人が互いの気持ちを通じ合えたのでは丸っきり違う。
お互いがお互いを大切に思っていること。それを伝えあわなければ、ふたりは織姫と彦星にすらなれなかったのだ。
「むしろ俺は、今回の件で実感しました。大切なことはやっぱり、諦めない方がいいって」
諦めさせるために嘘を言ったり、ただ事実を伝えたりするだけよりもよっぽど依頼人のためになる。部長だって、目の前であのふたりを見ていたんだから少しはそう思ってくれているんじゃないか。
「そう……」
密かに期待はしているけど、部長は力なく相槌をうつだけで、果たしてどう感じているかはわからない。
部室は夕焼けで真っ赤に染まっていて、部長も窓際に立っている。なんだか『約束』をしたときと似ているな、なんて感想がぼんやりと浮かんだ。
諦めないと、生きていけない――。あの時部長はそう言った。あれからまだ二、三か月しか経っていないけど、部長は考えを未だ変えていないのだろうか。あるいは俺の考え方は、変わったのだろうか。
「もうすぐ夏休みね」
静かに、部長が言う。ただの世間話であると同時に、『約束』の期限が近づいてきていると告げているようにも聞こえた。
結局、俺はまだ部長のことを何も知らない。
だから、俺は「はい」と答えることしかできなかった。
翌日。帰り道で偶然夕月と一緒になった。
「いやー、昨日の告白はすごかったねー」
自販機からガコン、と出てきたジュースを拾い上げながら、夕月は言う。
「告白? 誰から誰への?」
「そんなの、美術部のふたりのやつに決まってるじゃん」
「それもそうか……って、なんでお前が知ってるんだ?」
「いやだってあの場所、グラウンドから丸見えだもん。昨日たまたま居残り練習してたから、ぜーんぶ見ちゃった」
なるほど。
「あーあ、私もあんな風にきゅんとくる告白されてみたかったなー」
「心配しなくても、夕月ならそのうち告白してくるやつとかいるだろ」
かわいい部類に入ると思うし、贔屓目に見てもモテるとは思う。言ったら調子に乗るから言わないけど。
「……」
「……夕月?」
「えっ、なに?」
「大丈夫か?」
ジュースを開けもせずに、ぼーっとラベルを見つめているなんて珍しい。いや、それ以上に彼女の表情が、今まで見たことないような苦しく、切なく、そして恋しそうにしていて、それがやけに気になった。
「あっ、うん。大丈夫、大丈夫」
本当に大丈夫だろうか。ちょっと心配になっていると、
「ねえ」
小さくつぶやくように言いながら、一歩二歩、俺から距離を取る。そしてくるりと回ってみせ、こちらを向いた、だけど夕日のせいで、その表情はわからない。
「夕月?」
いつもと違う雰囲気に戸惑っていると。彼女はこう言った。
「私が諦めたいことあるって言ったら、ハルは聞いてくれる?」
部室に戻ってから、部長は言った。
「ようやく晴人くんも『諦め屋』としてやっていく気持ちになったってことかしら?」
「ぜんぜん違います」
俺は即座に否定する。
「そりゃあ天川先輩の退部理由を聞いて、美術部が廃部になるのは仕方ないって思いましたけど……ふたりが大事に思ってることは、諦めずに済みましたから」
美術部が廃部になってしまうこと自体は変わらないが、それをただ受け入れるのと、こうして二人が互いの気持ちを通じ合えたのでは丸っきり違う。
お互いがお互いを大切に思っていること。それを伝えあわなければ、ふたりは織姫と彦星にすらなれなかったのだ。
「むしろ俺は、今回の件で実感しました。大切なことはやっぱり、諦めない方がいいって」
諦めさせるために嘘を言ったり、ただ事実を伝えたりするだけよりもよっぽど依頼人のためになる。部長だって、目の前であのふたりを見ていたんだから少しはそう思ってくれているんじゃないか。
「そう……」
密かに期待はしているけど、部長は力なく相槌をうつだけで、果たしてどう感じているかはわからない。
部室は夕焼けで真っ赤に染まっていて、部長も窓際に立っている。なんだか『約束』をしたときと似ているな、なんて感想がぼんやりと浮かんだ。
諦めないと、生きていけない――。あの時部長はそう言った。あれからまだ二、三か月しか経っていないけど、部長は考えを未だ変えていないのだろうか。あるいは俺の考え方は、変わったのだろうか。
「もうすぐ夏休みね」
静かに、部長が言う。ただの世間話であると同時に、『約束』の期限が近づいてきていると告げているようにも聞こえた。
結局、俺はまだ部長のことを何も知らない。
だから、俺は「はい」と答えることしかできなかった。
翌日。帰り道で偶然夕月と一緒になった。
「いやー、昨日の告白はすごかったねー」
自販機からガコン、と出てきたジュースを拾い上げながら、夕月は言う。
「告白? 誰から誰への?」
「そんなの、美術部のふたりのやつに決まってるじゃん」
「それもそうか……って、なんでお前が知ってるんだ?」
「いやだってあの場所、グラウンドから丸見えだもん。昨日たまたま居残り練習してたから、ぜーんぶ見ちゃった」
なるほど。
「あーあ、私もあんな風にきゅんとくる告白されてみたかったなー」
「心配しなくても、夕月ならそのうち告白してくるやつとかいるだろ」
かわいい部類に入ると思うし、贔屓目に見てもモテるとは思う。言ったら調子に乗るから言わないけど。
「……」
「……夕月?」
「えっ、なに?」
「大丈夫か?」
ジュースを開けもせずに、ぼーっとラベルを見つめているなんて珍しい。いや、それ以上に彼女の表情が、今まで見たことないような苦しく、切なく、そして恋しそうにしていて、それがやけに気になった。
「あっ、うん。大丈夫、大丈夫」
本当に大丈夫だろうか。ちょっと心配になっていると、
「ねえ」
小さくつぶやくように言いながら、一歩二歩、俺から距離を取る。そしてくるりと回ってみせ、こちらを向いた、だけど夕日のせいで、その表情はわからない。
「夕月?」
いつもと違う雰囲気に戸惑っていると。彼女はこう言った。
「私が諦めたいことあるって言ったら、ハルは聞いてくれる?」
