僕のかわいいが一番ッ!

 目を赤く腫らしたまま登校した僕に智弥くんが慌てた。


「ど、どうしたの? 何かあったん?」
「……なんでもない……」


 今日はカーディガンの毛玉がよく目に入る。今の僕に可愛くする理由なんてない。


 (僕のために可愛くいてよ……)


 雫くんの言葉が反芻する。

 そんなこと言われても……

 ふと気を抜けば目からこぼれ落ちそうで、違うことを考えなきゃと頭を巡らせていた。雑貨屋さんで買ったシールまだ開封してなかったな、とか考えてみるけれど、全てあの人のために可愛くなりたかったに戻ってきてしまう。
 気付くと智弥くんに彼の面影を重ねてしまって心が重くなる。

 珍しく誰よりも遅れてやってきた雫くんがドアを勢いよく開けて駆け込んできた。かなり息を切らしている。


「ハァ……ハァ……間に合った」
「え……? 江宮もどうした? 目の下すごいクマだぞ。二人とも昨日何があったんだよ」


 智弥くんの疑問を無視して、雫くんは手に握りしめた何かを僕にグッと押し付けてきた。


「……?」


 押し付けられたものを受け取って手を開くと、そこにはフェルトで出来たペンギンのぬいぐるみがあった。手作り感が溢れるが、とっても上手で雫くんの器用さがよく分かった。


「……ペンギン?」
「そう。ペンギン。可愛いでしょ!」


 その時初めて雫くんの顔を見ると、クマがあって余裕のない表情ながらも微笑んでいた。


「……可愛い」


 ぼそっと呟く。


「でね! まだ完成じゃないんだよ!」


 雫くんは鞄から、いつもこっそり食べていた飴ちゃんを一つ取り出した。僕の手元にあるぬいぐるみを手に取って、隙間にその飴を押し込んだ。


「はい! 完成これが僕の代わり! お守りだよっ!」
「……お守り……」


 自分の手元に戻ってきた可愛らしいペンギンは少しお腹部分が膨らんでいた。僕にペンギンが笑いかけてくれている。心の棘が柔らかくなった。
 キーンコーンカーンコーン


「何があったんだよ……」


 一人だけ置いてけぼりにされた智弥くんは何も分からぬまま前を向いた。
 僕は筆箱の近くにそのペンギンを座らせた。ちょこんとしていて、マスコットらしいまん丸な瞳が可愛らしい。優しく撫でる。


「ふふっ……」


 自然と微笑みが漏れてくる。暗闇の中にいる僕を照らし出す一筋の光のようだった。
 昨日の今日で授業は頭に入ってはこなかったが、ただそのぬいぐるみだけが優しかった。
 智弥くんに時折心配されながら、ようやく一日が終わった。


「ゆうくん、今日の部活お休みする?」


 あぁ、そっか。今日は部活があるんだ。
 完全に頭から抜けてしまっていた。


「ううん。僕行くよ。その方が気が紛れるかもしれないし」
「無理しなくて良いんだからねー」


 雫くんがちょっとだけ背伸びをして、僕の頭をぽんぽんと撫でた。また心の底からの微笑みが漏れる。


「大丈夫だよ。さ、雫くん行こー!」


 ペンギンのぬいぐるみをポケットに隠してから、雫くんの背中を押して部室である家庭科室へと向かった。


 家庭部の先輩たちは僕が目を腫らしているのに気付いてくれた。部活終わりには、僕の前に食べきれないほどのアイシングクッキーが積まれていた。


 どんなに心に傷を負っても学校や日々は変わらずに進んでいく。
 時折襲う苦しみを雫くんから貰ったペンギンのぬいぐるみを見て耐えながら過ごすと、いつの間にか一週間が経っていた。

 まだ心の中で「彼」の穴がぽっかりと空いていたけれど、少しだけ前を向いてもいいかもしれないと思い始めているところだった。


 その日、休み時間に談笑しているとガラガラと大きな音でドアが開いた。

 そこには、久々に現れた早峰くんが仁王立ちで立っていた。なんだか前とは雰囲気が違うように見える。

 パッと見てわかるのは、センター分けをした前髪に可愛いマスコットのピンが付いている。それにだぼっとした黒色のカーディガンを着ていた。

 雫くんが僕の前にガードするようにパッと立った。それを気にせず、彼は後ろのドアからズンズンと教室内に踏み込んでくる。

 彼は雫くんを避けて近づいてきた。勢いよくドンと両手を置き、机が揺れた。彼の表情を見るとちょっとだけ怒っているように見える。


「……前はごめん」


 見た目とは裏腹な言葉に、「え?」とびっくりしてしまった。彼は言葉を続けた。


「……あん時は周りが見えてなくて……本当にごめん」
「……いいよ」
「ありがと」


 安心して緊張が体から剥がれ落ちたかのように落ち着いた表情になっていた。


「だからさ、俺……僕が可愛かったらチャンスある?」


 思わず目を丸くさせてしまう。


「え……? あ、いや、そう言う訳じゃ……」
「そーだよ! 出てってよ! しつこい!」


 急に早峰くんに迫られて動揺している僕に雫くんが助け船を出してくれた。それにも怯まず早峰くんは言葉を続けた。


「可愛い対決してるんでしょ? 俺……僕も入れてよ」
「面白いじゃん。今日俺ん家くる? みんなで勉強会しようと思ってて」


 一部始終を見ていた智弥くんが面白がって参戦してくる。突飛な提案に置いていかれそうになった。


「行く。俺、成績結構良いから教えられるよ」


 間髪入れずに早峰くんが答えた。少し前のめりになっている。


「ちょっとぉ! なんでー?」


 雫くんが慌てて智弥くんに駆け寄って問い詰めている。


「なんか面白そうだし。頭良い人いてくれた方が助かるしな。来部は? 良い?」
「あ……僕は別に……良いよ」


 早峰くんはただまっすぐなだけで悪い人ではないのは、伝わってきていた。


「なんで良いのー!」


 雫くんだけ頭を抱えて喚いていた。


 放課後四人で智弥くんの家で集まった。智弥くんの部屋は想像以上に綺麗にされていた。
 四人でテーブルを真ん中に囲むように、教科書を広げている。


「これ美味いな」


 早峰くんは木の器に入ったチーズのスナック菓子を抱えて独り占めしていた。勉強せずにもぐもぐ食べていた。それを見ながら智弥くんはみんなのお兄ちゃんみたいな笑みを浮かべて頷いている。


「だよなぁ! 俺もそれ好きなんだよ」
「僕も食べたーい!」


 雫くんが器に手を伸ばすと、早峰くんは取る前にひょいと遠いところへ器を移動させた。


「ちょっと! 取れないよっ!」
「取れないようにしてんの」
「もうー!」


 小さな煙が雫くんから出ているように見える。でも、それの相手は早峰くんで、それに二人の腕が触れていた。どう考えても距離が近すぎる。心がチクっとした。

 今のは何……?


「ちょっと! 雫くん……対決にそれは反則!」


 反射的によく分からない理由付けをして雫くんを早峰くんから引き離した。


「ゆうくん……」


 雫くんはぼそっと僕の名前を呟いたあと、口角を少し上げた。
 僕の心はまだふわふわしていた。この気持ちがなんなのか答えが出せそうでまだ出せない。


「はい、おしまい!早峰、ちゃんと江宮に美味すぎるお菓子渡してー」


 お母さんな智弥くんの言葉に渋々従って雫くんに器を渡した。

 その後も似たような小競り合いを何度かして、たまに勉強をしたりして勉強会は無事に終わった。


 家に帰ってから自分のベッドに一旦座った。ギシリとベッドが軋んだ。


「なんだったんだろう……」


 今日の勉強会で僕が感じた感情の理由を知りたかった。
 僕は雫くんが早峰くんに構っているのがなんだかモヤモヤした。でもそれって……


「もしかして、僕、嫉妬した?」


 まさか。可愛い対決の敵である雫くんにそんなの変だ。傷心状態だからそういう風に思っているだけだ。雫くんだって僕のことを好きなわけがない。
 出会ってからの思い出をふと思い出した。

(── 僕だけ見ててよー!)
(──ゆうくん、可愛い……)
(──ねぇ、僕の可愛いを見逃さないで)
(──ゆうくんのかわいいは僕だけのものなんだから!)
(──僕のために可愛くいてよ……)

 雫くんのこれまでの発言が鮮明に思い出されてきて、顔が熱くなるのがわかった。
 雫くんはずっとどんな時も僕の味方でいてくれた。

 鞄からぶら下がっている水色のクマのキーホルダーとペンギンの手作りぬいぐるみが目に入った。
 鞄に近づいて二つを持ち上げる。


「僕ってば、どうしちゃったんだろう」


 雫くんが早峰くんとデートをして、可愛いを振りまいている想像がふと浮かんできた。
 絶対に嫌だ。
 雫くんは僕の横でだけ、可愛くいて欲しい。

 この気持ちが示すのはそういうことなんだろうな。


「もう! 本当にどうしちゃったのー!」


 ベッドに移動してダイブした後、足をジタバタさせる。明日からどんな顔で雫くんと接したらいいのか分からなかった。



「お、おはよっ!」


 登校していつも通り二人で話している智弥くんと雫くんに挨拶をした。挨拶すらちょっと緊張する。


「おはよー!」
「おはよ」


 二人からはいつも通りの返事が返ってくる。僕にだけ変化があって二人は何も変わらない。


「そうだ、ゆうくん! 今週末空いてる? 僕とデートしよー!」
「デ、デート……!」


 これまでのデートとは訳が違う。顔が熱くなって頬に自分の手を当てた。


「……? どうしたの? ゆうくん? 熱でもある?」


 雫くんが近付いてきて僕のおでこに手を当てた。距離が近すぎる。


「なんか熱いんじゃない?」


 心配そうに見つめる瞳は僕の心を突き刺してくる。


「違うってば! だ、だ、大丈夫だから……!」


 僕の違和感に首を傾げながら雫くんは自分の席に戻った。


「あ、でね! 僕とプラネタリウム行こー?」


 ここなんだけどー、とスマホの画面を見せつけられる。そこにはラグジュアリーな雰囲気のプラネタリウムの写真が表示されていた。


「うん! 良いよ!」


 出来る限り平常心を保てるようにいつものように笑ってみる。出来ているかは分からないけれど。


「いってらー」


 他人事のように僕らに手を振っている。今回も可愛い対決の為のデートなはず。


「え? あれ……智弥くんは?」
「あぁ俺は今週末二回目のデートがありまして」
「えっ……!」


 それってつまりは、雫くんと二人きりだ。過去にももちろん同じ状況になったことがあるけれど、今の僕にはただのデートになってしまう。


「え? どうしたん? 何か今日変じゃね?」
「なーんでもないってば!」


 探ってくる智弥くんを無理やり前に向かせると、ちょうどチャイムが鳴った。

 助かった……



 前日からそわそわしっぱなしだった。

 周りが暗くなってから待ち合わせをするのは初めてで少しだけ大人になった気分だった。

 ビルの高層階にあるプラネタリウムに行くため、駅で待ち合わせることになっている。約束の時間まではまだ少しあるが近付くと雫くんが既に待っているのが見えた。

 慌てて雫くんに駆け寄っていく。学校以外でだけ付けているあの香りが鼻を通り抜けた。
 この香りを嗅ぐと心は落ち着くのに鼓動だけが早くなる。


「雫くん! お待たせ! ごめんねっ」
「ううん、大丈夫だよ! 僕も今来たばっかりだから」


 いつものように笑う雫くんに、今日は体が固まるほど緊張していた。


「どうしたの、ゆうくん! 元気ない?」
「ううん……そうじゃなくて……」


 星のようにキラキラする瞳を上目遣いにして僕を見つめている。心がぎゅっと締め付けられる。

 雫くんを見て湧き上がるこの気持ちを言葉にするなら、やっぱりアレしかないんだろう。

 可愛くて、悔しくて、誰にも渡したくなくて、僕だけを見てて欲しくて、どんな時もずっとそばにいてくれた大切な人。これを伝えなければ、雫くんは僕の元から離れてしまうかもしれない。物理的にというよりも心理的なものが。

 僕は雫くんに手を伸ばした。

 無防備に垂らされていた雫くんの手を包むように握った。


「え……?」


 雫くんは目をまん丸にして驚いている。


「僕は……雫くんと手を繋ぎたい」


 言った後に、もう手を繋いでしまっていたと頭の中でわたわたしていた。そんなことを知らず、雫くんはふふっと余裕そうに笑った。


「僕も繋ぎたいってずっと思ってたよ」


 僕の全身は硬直していた。雫くんは既に握っていた手を握り直して、恋人繋ぎに変えた。さっきよりもずっと雫くんを感じる。


「こっちの方が良いでしょ?」


 そう言って小悪魔的に微笑みを浮かべた。僕はコクリと頷いた。

 ラグジュアリーな空間のプラネタリウムは僕たち高校生には色気が強かった。絶妙な音楽に、豪華絢爛な受付。どこの国かもよく分からないところの空の風景を見たり、良い香りが漂ってきたりもした。
 ただ見ているだけの自分たちまで大人な気分になった。かなり背伸びをした場所だった。

 帰りの駅まで手を繋ぎながら歩いていた。何度もこうやって隣を歩いてきたはずなのに、心臓がずっとうるさかった。プラネタリウムの慣れない空間にいたからなのか、それ以外なのかは分からない。


「ね、ゆうくん」
「なぁに?」
「来週、僕のお家でデートしない?」
「えっ……! お家デート?」
「そ! お家デート! こないだ美味しいクッキー買ったんだよー! 一緒に食べよっ!」


 雫くんは太陽のように笑っていた。傷ついていた心が柔らかい布に包まれている感覚がした。温かくて愛おしかった。


「……うん」


 頷くと、雫くんは軽く踊っていた。


「やったー! 紅茶も淹れようっと!」


 はしゃいでいる姿を見て、ふふっと思わず笑みが溢れた。



 雫くんとのお家デートは明日に迫っていた。


「恥ずかしすぎるよー……」


 枕に顔を沈めて叫んだ。
 部屋に置いてあったぬいぐるみとぬいぐるみをゆっくりと近づける。ぬいぐるみ同士が触れ合いそうなギリギリのところで、僕と雫くんに脳内で鮮明に変換されてしまい投げ出したところだった。
 誰とも付き合ったことのない僕は何もかもが初めてであらぬ妄想だけが膨らんでいく。

 雫くんとのお家デート……
 智弥くんの家に行ったことはあるけれど、雫くんのお家にはまだ行ったことがない。クッキーと紅茶なんて……おしゃれな洋館なのかな……

 白い洋館に貴族らしい服を着た雫くんがお出迎えしている映像が浮かんだ。
 頭を振って吹き飛ばした。流石にそんな訳ない、よね?


 当日を迎えた。朝起きてからここに来るまでずっとドキドキしっぱなしだった。
 雫くんのお家に着くと僕の突飛な想像とは異なり、よくある一般家庭らしいお家で、一人そっと胸を撫で下ろした。

 雫くんの部屋へと案内された。部屋は綺麗にされており、可愛らしい小物が散りばめられている。


 クッキーを食べて優雅に過ごしていたはずが、いつの間にかするするとベッドに押し倒されていた。ギシリと音が鳴って僕の心臓を跳ね上げさせる。雫くんが覆い被さるように乗ってきている。

 下から見ると雫くんの髪がさらりと落ちて影になり、僕と雫くんを隠すヴェールになっていた。


「雫くん……」
「ゆうくん可愛い……」


 僕の前髪を優しく撫でる。それだけなのに緊張で体がビクッと動いてしまった。


「ゆうくん、触られて嫌じゃない?」
「……うん」
「ふふ、良かった」


 柔らかく微笑んだ彼はいつもよりも大人びて見えた。

 雫くんがゆっくり近付いてくる。目をぎゅっと瞑ると、唇に柔らかいものが触れた。全身の血がばぁーと巡る感覚がした。燃えるように熱い。
 唇が離れたので、パッと目を開くと真っ赤な顔の雫くんが目の前にいた。

 あまりに可愛くて、雫くんを下からぎゅっと抱き締める。全身が雫くんの温もりを感じ取った。

 二人だけのこの空間が愛おしくて、離したくなかった。


「雫くん……一つになりたい……」


 普通だったら絶対に恥ずかしくて言えないけれど、今のこの空間でだけは言えてしまった。


「本当にいいの?」
「うん」


 誰にも聞かれるはずはないのに二人にだけ聞こえるような音量で呟いた。本当にいいの、と聞いた雫くんの声が耳を撫で、全身がビリビリした。

 雫くんが体を少し起こして、僕のシャツのボタンを一つずつ外していった。




 僕らが完全に付き合った次の日に談笑していると突然智弥くんが真剣な表情をした。


「マジで助かったわ」
「ん? どうしたの?」


 智弥くんが両手を合わせて拝んでいる。まるで僕らが神様みたいだ。


「彼女できた」


 できた、と言いながら手をピースにした。かなり浮かれているらしい。口角から漏れ出る幸せそうなオーラにこちらも笑顔にさせられる。


「おめでとう!」
「ガチでありがとう。二人がデートしてくれたおかげで、緊張せずに本番でデート出来たかも」
「完全に僕らのおかげだねー」


 雫くんに目線を送ると、彼も、だよねー、と答えた。


「二人になんか奢るわ。ファミレスでどう?」
「いいよっ! じゃあ、僕はイチゴパフェにしようかなー」
「あ! 僕も! じゃあ、シャインマスカットパフェにする!」
「ちょっと待って、それ期間限定のすっげぇ高いやつじゃねぇの?」
「え……? でも、奢ってくれるって言ったじゃん! 彼女出来たんでしょ?」


 ちょっと意地悪に智弥くんに上目遣いで聞いてみる。智弥くんは嬉しさとの葛藤で悶絶していた。その様子を僕らで見てくすくす笑った。智弥くんの反応はいつも面白い。


「くぅぅぅーー……分かった。仕方ない。彼女出来たし、もう何でもいいよ!好きなもん食べて!」
「やったー!」


 気前が良くなった智弥くんと一緒にファミレスへと行くことが決まった。


 期間限定のパフェをそれぞれ頼んだ。待ってる間、ぼーっとしていると雫くんが実は!と前置きをして話し始めた。


「僕ら付き合うことになりました!」


 雫くんが僕の腕をきゅっと掴んだ。あざとい。


「えっ冗談じゃなくてマジ?」
「うん! マジだよ!」


 智弥くんは目と口を大きく開けフリーズした。何かをぐるぐる考えていたのか、少し経ってから智弥くんは呟いた。


「え……俺は?」
「え?」


 予想をしていない智弥くんの返答に、雫くんと二人で顔を見合わせて互いに首を傾げた。智弥くんに視線戻すと向こうもキョトン顔をしている。


「え! 二人とも俺のことが好きなんじゃないの?」
「え、好きだよ? でも、それは友達としてだし……」
「なんだぁ。俺めちゃくちゃモテ期来たと思ったのに」


 肩をガクンと落としていた。


「というか、待てよ。そしたら、ここの会計割り勘にしよう。二人も彼氏できてんだから俺と同じ境遇ではあるよな?」
「えー? よく分かんないなぁー」


 声を揃えてとぼけたフリをした。 


「あのなぁー!」


 夕方のファミレスに智弥くんの声が響いた。


 部活が終わって帰り道を歩いていた。智弥くんに報告をした後から、僕たちは手を繋いで帰るようになった。少しの間でも触れていたかった。


「ね、ゆうくん」
「なーに?」


 雫くんの方を見ると、急に頬をチュッとしてきた。突然の出来事に沸騰しそうだった。


「ちょ! 雫くん!」
「可愛い横顔だったから」
「もうー!」


 雫くんの肩をポスポス叩いた。えへへと笑っている。


「雫くん!」
「んー?」


 僕も雫くんの頰にチュッと唇を当てた。その部分を雫くんが手で抑える。


「お返しー!」


 雫くんみたいに悪戯に微笑んだ。雫くんがよくやるこの悪戯な表情が可愛くて好きだ。


「もう! ゆうくん可愛すぎー!」
「雫くんもでしょ!」


 そんなことを話しながら帰るこの道も好きだ。雫くんの鞄に着けたピンクのクマのキーホルダーがゆらゆら揺れているのがふと目に入った。

 僕の鞄に着けている水色のクマのキーホルダーと手作りのペンギンのぬいぐるみに目を移すと同じ動きで揺れていた。

 ふっと笑みが溢れていく。