翌日になり、さっそくオレと涼真は放課後の教室に残ることにした。
昨晩のスナック菓子とコーラをこれでもかと腹に収めたオレたちは、気がつけば眠ってしまっていた。
真夜中に目覚めた涼真がオレを起こしてきたけど、オレたちは机に散らかったお菓子たちを片づけることを諦めてそれぞれのベッドに潜り込んだ。
引退したての体というのは、どれだけ夜更かししても習慣を覚えているらしく、きっちり朝5時に目覚めた。
もう朝練に行かなくても良いと頭ではわかっているのに、体はそうではないらしい。
おかげで昨日の引退パーティの残骸を手早く片付けて、証拠隠滅を図ることができた。
食べ切らなかった分のお菓子たちは、一部を除いて再び二段ベッドの下に隠した。
また今度食べる。
グミを涼真の、チョコをオレの通学カバンに放り込み、今日のミッションを確認する。
「グミ、よし。オレのチョコよし。あとは」
「放課後になったら、俺の教室に集合」
「うっし。そんでお菓子はバレへんように、特にオレのは溶けへんように気をつける」
「お、おう」
オレと涼真は拳をゴツンとぶつけ合って気合いを入れた。
多分やけど、こいつ、涼真はちょっと緊張してる。
昨日まで山盛りになるくらいのお菓子をちまちま部屋に運び込んでたくせに、今日学校にグミ持って行くのは緊張するとは。
普段はクールで何に対しても動じなさそうなのに、くせ時々こういう謎の可愛い一面を見せてくる。
なんというか、涼真に向かってこんな事を思うのは変かもしれないけど、誰にも見つけられなければ良いなって思う。
オレだけが知ったら良いなって。
登校してからは、順調に時間が過ぎた。
涼真とは別クラスだが、LINEで状況報告をし合っていたからお互いのお菓子が無事なことは確認できていた。
学校に持ってきてはいけないものを持ってきているという小さくて大きい秘密を隠して過ごす時間は、スパイ映画の主役になったみたいでワクワクする。
涼真とオレだけの秘密のミッション。
まあ、他のクラスの人はお菓子くらい普通に持ってきてると思うけど、体育会系の部活だけが集められたオレや涼真のクラスでは嗜好品というもの禁止されている。
とにかく厳禁で、現役とか引退とか関係なくこの鬼ルールは課される。
もしも鬼ルールを破ってしまったら、体育教官室行きを執行されるから、絶対に避けたい。
小一時間ほど説教という刑に処される。
だから、とにかく今日は通学カバンのポケットに入れたチョコレートという劇薬の存在を何度も何度も休み時間ごとに確認した。
やっと長かった一日が終わり、待ちに待った放課後がやってきた。
今日はここからが本番。
チャイムが鳴り、担任のエビセンが終わりの挨拶をして、出ていく。
引退した奴らも多いから、みんな前よりはゆっくりと帰り支度をしてる。
オレはその中でも更にゆっくり帰る準備をする。
別に特別な帰り支度なんてものはない。
筆箱入れて、体操服入れたら終わり。
それを今日は時間をかけて行う。
無意味に筆箱の中身を確認しながら涼真からのLINEを待って、ゆっくりと時間を潰す。
教室の人数が三分の一くらいになった頃、ようやく涼真から『終わった』と連絡があった。
よし、今からや。
「おー、大河。なんかご機嫌だな」
教室を出て行こうとしたら、同じサッカー部の吉田が声をかけてきた。タイミング悪い。
「へ?そんなことないで?」
お菓子がバレたかと、びっくりし過ぎて、肩がビクゥって跳ねてもうた。
「いや、今鼻歌歌って呑気な顔してただろ。まさか、彼女……?」
「できてない。まずそんな呑気な顔なんかしてない」
「してたって」
「え、うそ?ほんま?」
「うん」
そんな顔に出てたんかな。
みんなにバレてへんよな、今日の計画。
オレは頬をぱちぱちっと数回叩いて、気を引き締め直す。
「オレ、急いでるから行くわ!じゃあな、吉田。お前こそ彼女作れよ」
オレがポンポンっと吉田の肩を叩くと、吉田は「あ゙?」と可愛くない鳴き声を発していた。
でもオレは、そんな吉田に一方的に手を振って、涼真のもとに向かった。
「りょーま!!」
涼真のクラスに着き、教室の窓から外を覗いていた涼真に声をかける。
教室なんてどこも同じ造りであるはずなのに、クラスが違うってだけで部屋の雰囲気が全然違う。
なんでなんかな。
「おう、大河」
涼真が手を挙げ、さわやかに笑った。
「ん?どした?大河」
涼真が首を傾げる。
「なんもないっ」
胸がほんのちょっと、ほんとにちょっとだけやけど、ドキって鳴る音がして焦った。
まあ、多分こいつの無駄に爽やかなスマイルのせいや。大丈夫、問題ない。
「あー、お前の席そこなん?」
オレは涼真が腰掛けてる机の所に向かった。
窓際の席の一番後だった。
「そう。元々は一つ前だったんだけど、後ろの奴が俺で黒板が見えないって言って場所を交換した」
「ははっ、そらそうやろうな。お前でっかいもん。そんなんが真ん前におったら黒板なんか見えんやろ」
「そうかなー?まあ俺は後の席がいいから良いんだけどさ」
「なんでよ」
「机がちっさくて足を外に出すから」
涼真が椅子に座り直し、いつもの授業スタイルを披露してくれる。
「あっはっはは」
吹き出して笑ってしまった。
「机……お前、机浮いてるやん。なにそのスタイル」
涼真が足をまともに中に入れると、机が両膝の上に乗って一センチほど床から浮いている。
机が膝の上で必死にバランスを取ってグラグラしてる。
全然体の大きさと机のサイズが合ってない。
小一の机に小六が座ってるみたいや。
足、長すぎやろ。
バケモンか。
「だから後の席で良いんだよ」
「いや、おまっ。お前、オカンに感謝しろよ」
「なんで急にお母さん?」
「そんなでっかい体に産んでくれて、や」
あとはこんなめっちゃおもろいネタを提供できることについてや。
絶対誰に言うても笑ってもらえるやん、こんなん。
「いや、俺、この一年ずっとだからな?今年、背高い人多いらしくて机不足らしい。188センチの俺にとって190センチの壁は高い」
涼真が困ったようにため息をついた。
「だから見て、大河。俺の編み出した座り方」
涼真は体を完全に真っ直ぐに向けたい時用だと言って、机の両端の外に向かって足をガバッと開脚させた。
「ほら、こうしたら前向ける」
なっがい足を机の両端に放り出し、見事なドヤ顔を決めている。
「…………お前、あほやな」
子どもか。
アホすぎて涙出るかと思った。
いつするねん、そんな幅を取る体勢。
毎日してんのかな。
でも教室の後ろで足を大開脚してるデカい男おったら普通に怖いやろ。
「は?俺はこれしかないんだけど」
真剣に言い返してくる涼真を見ると、さらに腹の底から笑いが込み上げてきた。
「じゃあ大河は今どの辺りに座ってんの?」
「オレ?オレはー、ここ!」
教室の後ろにある涼真の席から前方へ歩き、教卓の前の席に座った。
「ばっ、おまっ……」
今度は涼真が笑っている。
「絶対うるさいからだろ。そんな前の席。前も同じ所座ってたじゃん」
「そうなんよな〜、何回席替えしても、ここか、この隣になるくじを引くねんなあ……」
涼真が言うように、オレはずっと教卓の前辺りに座り続けている。
くじ引きであるはずなのに、ずっとこの前の席になってしまう。
毎回、席替えはくじ運の悪さを嘆いて終わる。
「いやあ、エビセン。やってるなこれは。仕組まれてるって、大河」
「くじやのに?」
「くじなのに」
もしそうだとしたら、オレは残りの数か月も前の席しか座られへんってこと?
絶望過ぎやん。
「でも先生からしたら、大河は前にいてほしいだろうな。騒がしいし」
「うるさくしてないで、オレ。授業中起きてるもん。起きて先生に話しかけて聞いてるもん、ちゃんと」
「いや、だからだろ。静かなタイミングがないから前に座らされるんだろ」
「え?そんなこと言うなら、それこそ涼真こそ後ろにおると、絶対悪いことするやん」
「しないって」
「するやろ。ちょっと待ってみ。オレ、先生やったるから」
オレは座っていた席から立ち上がり、黒板の前に立った。
実際に先生側から教室を見回してみると、涼真の存在は目立つだろうなと思った。
教室に誰もいないこともあると思うけど、涼真の喋らなければクールな佇まいは後ろの席だろうと、端の席だろうと自然に見てしまう気がする。
「ん゙ん゙っ。鮎川くん」
わざとらしく咳払いをして涼真を呼んでみる。
「今スマホ、いじってませんでしたか?」
「は?」
「は、じゃないですよ。わたくしは先生ですよ?」
先生になりきって涼真を注意をする。
「触ってないす。足掻いてただけっす」
「んっ、ふふ。なんだよ足掻いてるって」
予想外の回答に先生役を忘れて笑ってしまった。
「太ももの付け根、蚊に刺されてすげー痒いんすよ。もうそれはそれはズボンに手を入れて掻きたいくらい。先生、すません。足掻くの許してください」
「言い訳あほすぎやろ」
それからオレはさらに「先生は許しませんからねっ」と厳しい口調で告げてから爆笑した。
だらだらと涼真と喋っていると、教室の外からは吹奏楽部の演奏や野球部の打球音、サッカー部の掛け声といろんな音が聞こえてくる。
どの部活も本格的に練習をし始めたって感じだ。
「そろそろお菓子、食う?」
オレは再び涼真の席へ向かう。
教室の窓を開けていると、時々風がビュウっと吹いてカーテンを揺らす。
「教科書、ここに置こう」
涼真は机の横半分に教科書をドサっと積んだ。
廊下側からの目隠しのつもりだ。
そして、こそこそとグミの袋を開け、チョコの小箱も開ける。
ぺりぺりっと小箱が開く音を聞くだけで緊張と楽しみが入り混じる。
高難易度のスパイミッションを遂行してる気分や。
「いただきますっ」
オレはフライング気味にチョコを口に放り込んだ。
甘い。
甘くて、とろんと溶ける背徳的な味。
「ん〜、うまぁ」
「ははっ、うまいな」
涼真と目を合わせて感想を言い合う。
グラウンドからサッカー部や野球部が練習する声が聞こえてくる。
丁度バックミュージックみたいや。
「ちょっと……にやけてまうなあ」
オレは涼真に向かって笑いかけた。
「そうだな。変な感じだな」
涼真も笑う。
放課後の教室は、朝練後の教室とは違ってちょっと寂しい雰囲気がある。
冬を感じさせるような濃い橙色の夕日が教室に差し込んでいるし、廊下や他の教室の話し声は徐々に聞こえなくなっていく。
朝では絶対に見られない光景。
初めて経験する教室にお菓子という劇薬。
非日常的すぎる。
「なんかちょっとそわそわするなあ。放課後」
放課後がこんなにも非日常的だとは引退するまで知らなかった。
「わかる。なんか学祭付近で付き合う人が増えるのもわかる気がするな」
「たしかに!なんていうんかな、こう……誰かにギュッてしたくなるような」
「人肌恋しいってやつだろ」
「そうっ、それ!涼真天才!あっ……」
禁断のお菓子を摂取して高揚しているせいだろうか、面白い遊びが浮かんできた。
「もしさ、放課後に告白するんやったらこんな感じかな」
「告白……?」
涼真は呆れた顔をしてグミを口に入れた。
「ん゙ん゙っ。涼真、オレ、お前のこと好きや。付き合ってくれへん?」
本日二回目の咳払いをして言った。
涼真の目をまっすぐに見て言った。
こんなんは照れて目を逸らしたら負けやから。
できるだけリアリティが出るように真剣にする。
「……大河」
ほら、涼真びっくりしてる。
目ぱちくりさせて、言葉失ってる。
成功や。
「大河。ありがとう。俺も大河のこと好き。ずっと前から好き。俺もお前と付き合いたい」
「へ?はあ!!!?」
「はい、大河の負け〜」
まけ?びっくりして声裏返ってもうた。
一瞬、本気で返ってきたんかと思って心臓もドキぃってデカい音がした。
それぐらいびびった。
「そ、そんなんずるいやろ。急に言い返すとかっ」
涼真は、べえーっと舌を出して余裕こいてる。こういうスカしたとこあるんやった、こいつ。くそ、やられた。
「チョロいなあ、大河」
「そんなことないわ!」
「じゃ、反対にしてみる?」
「やる。仕返ししたるからな」
オレは涼真の悪ノリに乗ってしまった。
「はい、じゃあ。いきます」
「お、おう。こい」
余裕そうな涼真の顔に体が勝手に身構えてしまう。
またドキっとさせられたらどうしよって思ってるんや。
動物の本能や、これは。
「大河。あのさ、大河は今好きな人いてる?」
「へ?おらんけど?」
「良かった」
演技か、本気かわからんホッとした表情。もう始まってるんよな?
「1年の最初の週にさ、俺が熱出した時のこと覚えてる?」
「覚えてるで。入学式の次の日やろ」
入学式の翌日の朝、涼真は高熱を出した。
それはもう見事な寝込みようで、可哀想やったのを覚えてる。
「あの時さ、入学したて、入寮したてで、慣れないベッドっていう状況で。寝てる時、結構心細くてさ。体は重だるいし、頭もボーッとするし、頼れる相手も近くにいないしで不安まみれになってて。でもその時、大河は元気だったのに二日も学校を休んで、ずっと俺の側にいてくれたんだよね。朝も昼も夜も、部屋にご飯運んできてくれて、一緒に食べてさ」
「あぁ、食べたなあ、一緒に」
寮監には別々で食事をした方がいいって何回も言われたのに、オレは涼真を放っておけなかった。
「それで結局、俺が治ったと思ったら大河が熱だしてさ。大変だったよな」
「ほんまに!普通にオレ頑丈やし大丈夫やろって思ってたら、きっちり風邪移ったな。ははっ」
そのおかげで、涼真の看病に二日、さらに風邪が移って二日の計四日間もオレは学校を休んだ。
だから、オレが登校した瞬間、サッカー部以外のクラスのみんなは驚いていた。
「俺、その時に他人のために大切な入学一週目をすっ飛ばす奴っているんだってびっくりした。一瞬、ばかなのかなって思った」
涼真が照れくさそうに笑う。
三年間ずっと一緒にいて、こんな表情初めて見た。
「それと同時に、さりげない優しさが嬉しくて、思いっきり抱きしめてえって思ったよ」
「は、え、抱きしめ……え?」
「うん、そう。最初はただの愛くるしい馬鹿だと思ってたのになあ……。いつからこんな好きになってたんだろうな。なあ大河……もし俺に抱きしめられたら嫌、か」
涼真の目に捉えられる。
端正な顔の涼真から見つめられると小恥ずかしくなってきて耐えられそうにない。
「あ……えっと。嫌、ではないと思うけど」
「じゃあ試しでいいからさ、俺と付き合ってよ」
涼真は困ったように眉毛を下げて微笑んだ。
「え、……えっと」
「ほら、これあげるから」
涼真は相変わらず微笑んだままチョコを手に取り、オレの口に栓をするようにチョコを押し付けてきた。
「ふぇ……えと……」
どうしよう。
顔に力が入らへんくてニヤケてまう。
口の中が甘い。
のに、それ以上に涼真が甘い。
なにこれ、涼真ってこんなこと遊びで言うタイプやったかな。
うわ、絶対に顔、熱くなってる。
涼真の顔を直視できそうにない。
「はい。照れたから大河の負け。またしても負け。残念」
涼真がカラリとした声で言った。
「まけ……?」
ハッとした。
涼真の言葉も表情も、あまりにもリアルだったから本気かと錯覚した。
負けだと言われた瞬間、勢いよく現実に戻された。
「お、お前!!ずるいやろそれは。今の本気かと思ってもうたやろ!!」
「でもお前が急に始めたんだろうが、これ」
「そうっ、やけどさあ」
高一の頃の話出してくるとかズルい。
一瞬、信じそうになった。
「なあ。一年の時の話、あれは嘘か?」
「それは本当。嘘じゃないよ。本気で嬉しかったし」
「そっかあ……そっかそっか」
オレが看病したの喜んでもらえてたんか。
それならオレも嬉しい。
涼真の看病をした翌日にしっかりと風邪を引いたオレは、治ってから監督にこってり怒られた。
部活生なのに風邪を引いた奴の側にいる奴がいるかって。
スポーツマンとしての自覚が足りてないって体育教官室で怒られた。
それがオレの体育教官室デビューでもあった。
だから体育教官室を出た時には、あかんことやったんかなって落ち込んだ。
けど、涼真にとっては嬉しかった出来事やったんやって知れて正直めちゃくちゃ嬉しい。
知らんかった。
「何にやけてんだよ」
「いや、だって。うれしい」
オレが涼真の顔を見て笑うと、涼真は恥ずかしそうに笑って「……そうかよ」と窓の外に視線を逸らした。
涼真とは喧嘩もしたし、あほなこともした。
だけど、こんな嬉しかった話みたいなふわふわした会話はしたことなかった。
これが、放課後の教室パワーか。
人を変な気分にさせて、変なことを口走らせ、開放的にさせる。
「おーい」
オレたちの放課後に緊張が走った。
毎日聞いている低く野太い声が廊下から響いてきた。
エビセンだ。
「あ、わわっ」
慌ててグミとチョコを教科書側に寄せる。
バレたら終わりだ。
まずい。
「鮎川と小湊。もうすぐ下校時刻だからそろそろ窓閉めて帰れよ」
教室のドアからひょいと姿を現したのは予想通りエビセンだった。
「ひゃいっ」
声が裏返った。
明らかに怪しい挙動になってしまった。
このままエビセンが教室の中に踏み込んできたら終わりだ。
「なんだその間の抜けた返事は」
エビセンがオレをじぃっと見て、目を細めている。
まずい、何か疑われている。
「あ、こいつ、下にいる可愛い女の子眺めてたんすよ」
涼真だ。
「なんだそれ。小湊。お前は引退した途端に腑抜けてたらダメだぞ。わかってるのか?」
「わかってます!めちゃくちゃわかってます!」
オレはぶんぶんと首が千切れそうになるくらい頷いた。
エビセンはオレの必死の頷きを見て「本当にわかってんだろうな」と疑いながら教室から去って行った。
間一髪だった。
危うくオレたちのやりたいことリストを一つ目から潰してしまう所だった。
「あっぶね。耐えた」
涼真がふんっと鼻から息を吐いた。
「ほんま焦った」
「またエビセンが戻ってくる前に、お菓子全部食うとこ」
涼真がグミを数個、口に放り込む。
「てか、お前。さっきオレにしたみたいなこと、他の人にしたらあかんで」
「どれ?」
「こっ、告白みたいなやつや!抱きしめたいーとか言うてたやろ!他の人には絶対すんなよ!!」
「しないって。当たり前に」
「ならええけど!!」
オレは不思議と涼真の返事にホッとした。
『引退したらやりたいことリスト』、放課後の教室、ドキドキしてもうたけど攻略完了。
昨晩のスナック菓子とコーラをこれでもかと腹に収めたオレたちは、気がつけば眠ってしまっていた。
真夜中に目覚めた涼真がオレを起こしてきたけど、オレたちは机に散らかったお菓子たちを片づけることを諦めてそれぞれのベッドに潜り込んだ。
引退したての体というのは、どれだけ夜更かししても習慣を覚えているらしく、きっちり朝5時に目覚めた。
もう朝練に行かなくても良いと頭ではわかっているのに、体はそうではないらしい。
おかげで昨日の引退パーティの残骸を手早く片付けて、証拠隠滅を図ることができた。
食べ切らなかった分のお菓子たちは、一部を除いて再び二段ベッドの下に隠した。
また今度食べる。
グミを涼真の、チョコをオレの通学カバンに放り込み、今日のミッションを確認する。
「グミ、よし。オレのチョコよし。あとは」
「放課後になったら、俺の教室に集合」
「うっし。そんでお菓子はバレへんように、特にオレのは溶けへんように気をつける」
「お、おう」
オレと涼真は拳をゴツンとぶつけ合って気合いを入れた。
多分やけど、こいつ、涼真はちょっと緊張してる。
昨日まで山盛りになるくらいのお菓子をちまちま部屋に運び込んでたくせに、今日学校にグミ持って行くのは緊張するとは。
普段はクールで何に対しても動じなさそうなのに、くせ時々こういう謎の可愛い一面を見せてくる。
なんというか、涼真に向かってこんな事を思うのは変かもしれないけど、誰にも見つけられなければ良いなって思う。
オレだけが知ったら良いなって。
登校してからは、順調に時間が過ぎた。
涼真とは別クラスだが、LINEで状況報告をし合っていたからお互いのお菓子が無事なことは確認できていた。
学校に持ってきてはいけないものを持ってきているという小さくて大きい秘密を隠して過ごす時間は、スパイ映画の主役になったみたいでワクワクする。
涼真とオレだけの秘密のミッション。
まあ、他のクラスの人はお菓子くらい普通に持ってきてると思うけど、体育会系の部活だけが集められたオレや涼真のクラスでは嗜好品というもの禁止されている。
とにかく厳禁で、現役とか引退とか関係なくこの鬼ルールは課される。
もしも鬼ルールを破ってしまったら、体育教官室行きを執行されるから、絶対に避けたい。
小一時間ほど説教という刑に処される。
だから、とにかく今日は通学カバンのポケットに入れたチョコレートという劇薬の存在を何度も何度も休み時間ごとに確認した。
やっと長かった一日が終わり、待ちに待った放課後がやってきた。
今日はここからが本番。
チャイムが鳴り、担任のエビセンが終わりの挨拶をして、出ていく。
引退した奴らも多いから、みんな前よりはゆっくりと帰り支度をしてる。
オレはその中でも更にゆっくり帰る準備をする。
別に特別な帰り支度なんてものはない。
筆箱入れて、体操服入れたら終わり。
それを今日は時間をかけて行う。
無意味に筆箱の中身を確認しながら涼真からのLINEを待って、ゆっくりと時間を潰す。
教室の人数が三分の一くらいになった頃、ようやく涼真から『終わった』と連絡があった。
よし、今からや。
「おー、大河。なんかご機嫌だな」
教室を出て行こうとしたら、同じサッカー部の吉田が声をかけてきた。タイミング悪い。
「へ?そんなことないで?」
お菓子がバレたかと、びっくりし過ぎて、肩がビクゥって跳ねてもうた。
「いや、今鼻歌歌って呑気な顔してただろ。まさか、彼女……?」
「できてない。まずそんな呑気な顔なんかしてない」
「してたって」
「え、うそ?ほんま?」
「うん」
そんな顔に出てたんかな。
みんなにバレてへんよな、今日の計画。
オレは頬をぱちぱちっと数回叩いて、気を引き締め直す。
「オレ、急いでるから行くわ!じゃあな、吉田。お前こそ彼女作れよ」
オレがポンポンっと吉田の肩を叩くと、吉田は「あ゙?」と可愛くない鳴き声を発していた。
でもオレは、そんな吉田に一方的に手を振って、涼真のもとに向かった。
「りょーま!!」
涼真のクラスに着き、教室の窓から外を覗いていた涼真に声をかける。
教室なんてどこも同じ造りであるはずなのに、クラスが違うってだけで部屋の雰囲気が全然違う。
なんでなんかな。
「おう、大河」
涼真が手を挙げ、さわやかに笑った。
「ん?どした?大河」
涼真が首を傾げる。
「なんもないっ」
胸がほんのちょっと、ほんとにちょっとだけやけど、ドキって鳴る音がして焦った。
まあ、多分こいつの無駄に爽やかなスマイルのせいや。大丈夫、問題ない。
「あー、お前の席そこなん?」
オレは涼真が腰掛けてる机の所に向かった。
窓際の席の一番後だった。
「そう。元々は一つ前だったんだけど、後ろの奴が俺で黒板が見えないって言って場所を交換した」
「ははっ、そらそうやろうな。お前でっかいもん。そんなんが真ん前におったら黒板なんか見えんやろ」
「そうかなー?まあ俺は後の席がいいから良いんだけどさ」
「なんでよ」
「机がちっさくて足を外に出すから」
涼真が椅子に座り直し、いつもの授業スタイルを披露してくれる。
「あっはっはは」
吹き出して笑ってしまった。
「机……お前、机浮いてるやん。なにそのスタイル」
涼真が足をまともに中に入れると、机が両膝の上に乗って一センチほど床から浮いている。
机が膝の上で必死にバランスを取ってグラグラしてる。
全然体の大きさと机のサイズが合ってない。
小一の机に小六が座ってるみたいや。
足、長すぎやろ。
バケモンか。
「だから後の席で良いんだよ」
「いや、おまっ。お前、オカンに感謝しろよ」
「なんで急にお母さん?」
「そんなでっかい体に産んでくれて、や」
あとはこんなめっちゃおもろいネタを提供できることについてや。
絶対誰に言うても笑ってもらえるやん、こんなん。
「いや、俺、この一年ずっとだからな?今年、背高い人多いらしくて机不足らしい。188センチの俺にとって190センチの壁は高い」
涼真が困ったようにため息をついた。
「だから見て、大河。俺の編み出した座り方」
涼真は体を完全に真っ直ぐに向けたい時用だと言って、机の両端の外に向かって足をガバッと開脚させた。
「ほら、こうしたら前向ける」
なっがい足を机の両端に放り出し、見事なドヤ顔を決めている。
「…………お前、あほやな」
子どもか。
アホすぎて涙出るかと思った。
いつするねん、そんな幅を取る体勢。
毎日してんのかな。
でも教室の後ろで足を大開脚してるデカい男おったら普通に怖いやろ。
「は?俺はこれしかないんだけど」
真剣に言い返してくる涼真を見ると、さらに腹の底から笑いが込み上げてきた。
「じゃあ大河は今どの辺りに座ってんの?」
「オレ?オレはー、ここ!」
教室の後ろにある涼真の席から前方へ歩き、教卓の前の席に座った。
「ばっ、おまっ……」
今度は涼真が笑っている。
「絶対うるさいからだろ。そんな前の席。前も同じ所座ってたじゃん」
「そうなんよな〜、何回席替えしても、ここか、この隣になるくじを引くねんなあ……」
涼真が言うように、オレはずっと教卓の前辺りに座り続けている。
くじ引きであるはずなのに、ずっとこの前の席になってしまう。
毎回、席替えはくじ運の悪さを嘆いて終わる。
「いやあ、エビセン。やってるなこれは。仕組まれてるって、大河」
「くじやのに?」
「くじなのに」
もしそうだとしたら、オレは残りの数か月も前の席しか座られへんってこと?
絶望過ぎやん。
「でも先生からしたら、大河は前にいてほしいだろうな。騒がしいし」
「うるさくしてないで、オレ。授業中起きてるもん。起きて先生に話しかけて聞いてるもん、ちゃんと」
「いや、だからだろ。静かなタイミングがないから前に座らされるんだろ」
「え?そんなこと言うなら、それこそ涼真こそ後ろにおると、絶対悪いことするやん」
「しないって」
「するやろ。ちょっと待ってみ。オレ、先生やったるから」
オレは座っていた席から立ち上がり、黒板の前に立った。
実際に先生側から教室を見回してみると、涼真の存在は目立つだろうなと思った。
教室に誰もいないこともあると思うけど、涼真の喋らなければクールな佇まいは後ろの席だろうと、端の席だろうと自然に見てしまう気がする。
「ん゙ん゙っ。鮎川くん」
わざとらしく咳払いをして涼真を呼んでみる。
「今スマホ、いじってませんでしたか?」
「は?」
「は、じゃないですよ。わたくしは先生ですよ?」
先生になりきって涼真を注意をする。
「触ってないす。足掻いてただけっす」
「んっ、ふふ。なんだよ足掻いてるって」
予想外の回答に先生役を忘れて笑ってしまった。
「太ももの付け根、蚊に刺されてすげー痒いんすよ。もうそれはそれはズボンに手を入れて掻きたいくらい。先生、すません。足掻くの許してください」
「言い訳あほすぎやろ」
それからオレはさらに「先生は許しませんからねっ」と厳しい口調で告げてから爆笑した。
だらだらと涼真と喋っていると、教室の外からは吹奏楽部の演奏や野球部の打球音、サッカー部の掛け声といろんな音が聞こえてくる。
どの部活も本格的に練習をし始めたって感じだ。
「そろそろお菓子、食う?」
オレは再び涼真の席へ向かう。
教室の窓を開けていると、時々風がビュウっと吹いてカーテンを揺らす。
「教科書、ここに置こう」
涼真は机の横半分に教科書をドサっと積んだ。
廊下側からの目隠しのつもりだ。
そして、こそこそとグミの袋を開け、チョコの小箱も開ける。
ぺりぺりっと小箱が開く音を聞くだけで緊張と楽しみが入り混じる。
高難易度のスパイミッションを遂行してる気分や。
「いただきますっ」
オレはフライング気味にチョコを口に放り込んだ。
甘い。
甘くて、とろんと溶ける背徳的な味。
「ん〜、うまぁ」
「ははっ、うまいな」
涼真と目を合わせて感想を言い合う。
グラウンドからサッカー部や野球部が練習する声が聞こえてくる。
丁度バックミュージックみたいや。
「ちょっと……にやけてまうなあ」
オレは涼真に向かって笑いかけた。
「そうだな。変な感じだな」
涼真も笑う。
放課後の教室は、朝練後の教室とは違ってちょっと寂しい雰囲気がある。
冬を感じさせるような濃い橙色の夕日が教室に差し込んでいるし、廊下や他の教室の話し声は徐々に聞こえなくなっていく。
朝では絶対に見られない光景。
初めて経験する教室にお菓子という劇薬。
非日常的すぎる。
「なんかちょっとそわそわするなあ。放課後」
放課後がこんなにも非日常的だとは引退するまで知らなかった。
「わかる。なんか学祭付近で付き合う人が増えるのもわかる気がするな」
「たしかに!なんていうんかな、こう……誰かにギュッてしたくなるような」
「人肌恋しいってやつだろ」
「そうっ、それ!涼真天才!あっ……」
禁断のお菓子を摂取して高揚しているせいだろうか、面白い遊びが浮かんできた。
「もしさ、放課後に告白するんやったらこんな感じかな」
「告白……?」
涼真は呆れた顔をしてグミを口に入れた。
「ん゙ん゙っ。涼真、オレ、お前のこと好きや。付き合ってくれへん?」
本日二回目の咳払いをして言った。
涼真の目をまっすぐに見て言った。
こんなんは照れて目を逸らしたら負けやから。
できるだけリアリティが出るように真剣にする。
「……大河」
ほら、涼真びっくりしてる。
目ぱちくりさせて、言葉失ってる。
成功や。
「大河。ありがとう。俺も大河のこと好き。ずっと前から好き。俺もお前と付き合いたい」
「へ?はあ!!!?」
「はい、大河の負け〜」
まけ?びっくりして声裏返ってもうた。
一瞬、本気で返ってきたんかと思って心臓もドキぃってデカい音がした。
それぐらいびびった。
「そ、そんなんずるいやろ。急に言い返すとかっ」
涼真は、べえーっと舌を出して余裕こいてる。こういうスカしたとこあるんやった、こいつ。くそ、やられた。
「チョロいなあ、大河」
「そんなことないわ!」
「じゃ、反対にしてみる?」
「やる。仕返ししたるからな」
オレは涼真の悪ノリに乗ってしまった。
「はい、じゃあ。いきます」
「お、おう。こい」
余裕そうな涼真の顔に体が勝手に身構えてしまう。
またドキっとさせられたらどうしよって思ってるんや。
動物の本能や、これは。
「大河。あのさ、大河は今好きな人いてる?」
「へ?おらんけど?」
「良かった」
演技か、本気かわからんホッとした表情。もう始まってるんよな?
「1年の最初の週にさ、俺が熱出した時のこと覚えてる?」
「覚えてるで。入学式の次の日やろ」
入学式の翌日の朝、涼真は高熱を出した。
それはもう見事な寝込みようで、可哀想やったのを覚えてる。
「あの時さ、入学したて、入寮したてで、慣れないベッドっていう状況で。寝てる時、結構心細くてさ。体は重だるいし、頭もボーッとするし、頼れる相手も近くにいないしで不安まみれになってて。でもその時、大河は元気だったのに二日も学校を休んで、ずっと俺の側にいてくれたんだよね。朝も昼も夜も、部屋にご飯運んできてくれて、一緒に食べてさ」
「あぁ、食べたなあ、一緒に」
寮監には別々で食事をした方がいいって何回も言われたのに、オレは涼真を放っておけなかった。
「それで結局、俺が治ったと思ったら大河が熱だしてさ。大変だったよな」
「ほんまに!普通にオレ頑丈やし大丈夫やろって思ってたら、きっちり風邪移ったな。ははっ」
そのおかげで、涼真の看病に二日、さらに風邪が移って二日の計四日間もオレは学校を休んだ。
だから、オレが登校した瞬間、サッカー部以外のクラスのみんなは驚いていた。
「俺、その時に他人のために大切な入学一週目をすっ飛ばす奴っているんだってびっくりした。一瞬、ばかなのかなって思った」
涼真が照れくさそうに笑う。
三年間ずっと一緒にいて、こんな表情初めて見た。
「それと同時に、さりげない優しさが嬉しくて、思いっきり抱きしめてえって思ったよ」
「は、え、抱きしめ……え?」
「うん、そう。最初はただの愛くるしい馬鹿だと思ってたのになあ……。いつからこんな好きになってたんだろうな。なあ大河……もし俺に抱きしめられたら嫌、か」
涼真の目に捉えられる。
端正な顔の涼真から見つめられると小恥ずかしくなってきて耐えられそうにない。
「あ……えっと。嫌、ではないと思うけど」
「じゃあ試しでいいからさ、俺と付き合ってよ」
涼真は困ったように眉毛を下げて微笑んだ。
「え、……えっと」
「ほら、これあげるから」
涼真は相変わらず微笑んだままチョコを手に取り、オレの口に栓をするようにチョコを押し付けてきた。
「ふぇ……えと……」
どうしよう。
顔に力が入らへんくてニヤケてまう。
口の中が甘い。
のに、それ以上に涼真が甘い。
なにこれ、涼真ってこんなこと遊びで言うタイプやったかな。
うわ、絶対に顔、熱くなってる。
涼真の顔を直視できそうにない。
「はい。照れたから大河の負け。またしても負け。残念」
涼真がカラリとした声で言った。
「まけ……?」
ハッとした。
涼真の言葉も表情も、あまりにもリアルだったから本気かと錯覚した。
負けだと言われた瞬間、勢いよく現実に戻された。
「お、お前!!ずるいやろそれは。今の本気かと思ってもうたやろ!!」
「でもお前が急に始めたんだろうが、これ」
「そうっ、やけどさあ」
高一の頃の話出してくるとかズルい。
一瞬、信じそうになった。
「なあ。一年の時の話、あれは嘘か?」
「それは本当。嘘じゃないよ。本気で嬉しかったし」
「そっかあ……そっかそっか」
オレが看病したの喜んでもらえてたんか。
それならオレも嬉しい。
涼真の看病をした翌日にしっかりと風邪を引いたオレは、治ってから監督にこってり怒られた。
部活生なのに風邪を引いた奴の側にいる奴がいるかって。
スポーツマンとしての自覚が足りてないって体育教官室で怒られた。
それがオレの体育教官室デビューでもあった。
だから体育教官室を出た時には、あかんことやったんかなって落ち込んだ。
けど、涼真にとっては嬉しかった出来事やったんやって知れて正直めちゃくちゃ嬉しい。
知らんかった。
「何にやけてんだよ」
「いや、だって。うれしい」
オレが涼真の顔を見て笑うと、涼真は恥ずかしそうに笑って「……そうかよ」と窓の外に視線を逸らした。
涼真とは喧嘩もしたし、あほなこともした。
だけど、こんな嬉しかった話みたいなふわふわした会話はしたことなかった。
これが、放課後の教室パワーか。
人を変な気分にさせて、変なことを口走らせ、開放的にさせる。
「おーい」
オレたちの放課後に緊張が走った。
毎日聞いている低く野太い声が廊下から響いてきた。
エビセンだ。
「あ、わわっ」
慌ててグミとチョコを教科書側に寄せる。
バレたら終わりだ。
まずい。
「鮎川と小湊。もうすぐ下校時刻だからそろそろ窓閉めて帰れよ」
教室のドアからひょいと姿を現したのは予想通りエビセンだった。
「ひゃいっ」
声が裏返った。
明らかに怪しい挙動になってしまった。
このままエビセンが教室の中に踏み込んできたら終わりだ。
「なんだその間の抜けた返事は」
エビセンがオレをじぃっと見て、目を細めている。
まずい、何か疑われている。
「あ、こいつ、下にいる可愛い女の子眺めてたんすよ」
涼真だ。
「なんだそれ。小湊。お前は引退した途端に腑抜けてたらダメだぞ。わかってるのか?」
「わかってます!めちゃくちゃわかってます!」
オレはぶんぶんと首が千切れそうになるくらい頷いた。
エビセンはオレの必死の頷きを見て「本当にわかってんだろうな」と疑いながら教室から去って行った。
間一髪だった。
危うくオレたちのやりたいことリストを一つ目から潰してしまう所だった。
「あっぶね。耐えた」
涼真がふんっと鼻から息を吐いた。
「ほんま焦った」
「またエビセンが戻ってくる前に、お菓子全部食うとこ」
涼真がグミを数個、口に放り込む。
「てか、お前。さっきオレにしたみたいなこと、他の人にしたらあかんで」
「どれ?」
「こっ、告白みたいなやつや!抱きしめたいーとか言うてたやろ!他の人には絶対すんなよ!!」
「しないって。当たり前に」
「ならええけど!!」
オレは不思議と涼真の返事にホッとした。
『引退したらやりたいことリスト』、放課後の教室、ドキドキしてもうたけど攻略完了。



