運命の相手はお前かよ!?

「ってわけで、写真部に仮入部することになったんだよね」
「全然分からん。どういうわけ?」

 木の枝にぶら下がったままの同級生に告白まがいのことをするという前代未聞のお昼休みを経て、放課後。おれは部活に向かう前の渉に世間話として一部を報告することにした。

『その代わりに被写体になってもらおう』

 という八重橋の言葉はつまり「写真部である自分がコンテストに出るための被写体になって欲しい」という意味だった。言葉足らずにもほどがあるだろうと思ったが、おれも肝心なところで言葉を濁してしまったので、おあいこにしてやろう。

「ていうか写真部なんてあったんだな。あんなにカメラ持ってて写真部じゃねーって言われる方がびっくりするけど」
「先輩が卒業して廃部になる予定だったんだけど、八重橋君が幽霊部員をかき集めてなんとか存続してるんだって」
「へえ。にしてもお前が部活に入るなんてなー。どこにも入らないって言ってたのに」
「んー……まあ、心境の変化ってやつだよ。興味もあったし」

 嘘ではない。だが渉にこれまでのことを包み隠さず話せるかといえば、それはノーだ。必要な嘘を会話に混ぜることは普段からしているけれど、渉や八重橋のような実直な人を相手にすると、自分の小賢しさが浮き彫りになるようで、明らかな嘘をつくことに躊躇いが生じる。だからといって素直になるリスクも背負えないのだけど。

 仮入部することはすらすらと言えた。だが「八重橋と付き合った」という事実は話すべきだろうか。

 八重橋と赤い糸が繋がっていたことに愕然としたのは事実だが、性別を理由に逃せるチャンスでもなかった。運命の人が2人も3人も現れるとは限らないし、そんなに現れられても困るし。

 とはいっても、これ以上目立ちたくないというのが本音でもある。渉に隠し事をするのは気が引けるが、タイミングを見て伝えればいい。別に今すぐ報告する必要もない。

 と、渉が握っているスマートフォンが震える。

「もしもし? 悪いこれから部活。急ぎの用事? あ、そう……はいはい。じゃあな」
「オリちゃん?」
「そ、間違えて通話ボタン押したってよ。多分メッセージを見返してたんじゃねーかな。相変わらず可愛いぜ」
「仲良しだねぇ」
「まーな。ほら、この間撮った写真もお揃いで待ち受けにしようとか言ってんだぜ。いや恥ずかしいだろって言ったんだけど聞かねーんだよなー」

 口調の割には口角が上がるのを阻止できないようで、渉はわざとらしく坊主頭を掻いて照れ隠しをしていた。

 もしかしたら、タイミングとしては今か? この空気であれば、おれも実は付き合って……と言ってもさほど言及されずに済むのではないか?
 しかしこの淡白な関係を告白するには、渉が纏っている空気は甘すぎる。このタイミングで八重橋との関係を話せば、おれも同じか、それ以上の糖度を求められるかもしれない。そう思うとますます話すタイミングを失ってしまった。

「ま、それを言うならお前と同じか」

 じゃあオレ行くわ、と渉はエナメルバッグを担いで、教室を出ていく。残されたおれはスマートフォンの電源ボタンを押して、簡単なメッセージを作成する。

『友達の手伝いで写真部に仮入部することになったから、帰り少し遅くなるね。晩ご飯は心配しなくても平気だよ』

 メッセージアプリを閉じると、いくつか並んだアイコンの背景に待受画面が映る。それは旅先で他の観光客に撮ってもらったおれと母親の写真だった。
 その旅行は残念ながら終日天気が優れず、待ち受けの写真も曇天であった。だが母親のお気に入りの旅先であったことと、自分の映りがいいからということで、この写真をお揃いで待ち受けにするようにと言われたのだった。渉はそのエピソードを覚えていたらしい。

 おれの腕に自分の腕を絡ませている母親の笑顔は弾けんばかりで、確かに良い顔をして映っていると思う。おれも笑ってはいたけど、この時どういう気持ちで写真に映ったのかは覚えていなかった。