貴方が飲まないオレンジジュース

皆の努力の成果が出たのか、はたまたハプニング続きの私に神様が同情してくれでもしたのか私たちのクラスは投票の結果一位を獲得することができた。

優勝特典は三年生が営む屋台で売っているものなら何でもひとつ食べられる引き換え券。常に金欠な女子高生の身としてはとてもありがたい。

これで明日唐揚げ食べよう。

一日目は劇であまりちゃんと周れなかったから二日目が楽しみ。あゆちゃんを含めた家庭科部で仲のいい五人でお揃いのネームボードも作っている。

髪型はどうしよう。やっぱりウェーブ巻きとかかなぁ。

「矢田さん」

と、後ろから突然声をかけられた。

振り返るとお互い監督になった関係で最近ちょくちょく話す隣のクラスの男子が立っていた。

「悪い。……今、ちょっといい?」

緊張した雰囲気。真っ直ぐな視線。

予感がした。

あぁ、私は「それ」をよく知っている。

「告白でもされた?」

痛いところをつかれたと思った。

なんで知ってんだろ。よりにもよって、彼が。

文化祭の一日目はもう終了したのに、教室の外の廊下からは遠くでまだ賑やかな笑い声がした。余韻がまだ冷めず、友達同士で喋ってでもいるのだろう。

放課後にまで借りていた備品の状態チェックを担任から指示されたこちら側からすれば羨ましい話だ。

雑に脇に寄せられただけの工具等を確認しながらもこちらに向けられた柳くんの視線からは僅かな好奇心が感じられる。

一瞬だけ、嫉妬から聞いているのではないかという希望的観測を立てかけた私が馬鹿みたい。

「えー、なんで?」
「んー男の勘的な」
「……なんだそりゃ」

嘘。たまたま見かけてさ。体育館倉庫の裏、二人でいただろ。俺その日バレー部の備品整理当番で。

「返事は?」
「……断ろうとしたら、いくらでも待つからとりあえず考えてみて欲しいって言われた」
「なんか、良い人そう」
「まぁ、よく知らないけど悪い子ではないよ」

あまりにも分かりやすい他人事な感想に心がささくれ立つのを感じる。彼にとって私が告白されたことが世間話のひとつでしかないことをまざまざと見せつけられてるような気がして。

「……そういう、そっちはさ結局どういう意味だったの」

あゆちゃんへの好きの矛盾ってなに。

「……あー、」

前髪をかきあげて俯く彼のその顔を覗き込む。

今度こそ、全てを知りたかったから。

あぁ、その眼。その表情。

笑顔未満のその哀しい顔が彩る感情は最果てのもの。

彼のいる処は、きっと地獄なのだ。

「……あの子のさ好きなところと、付き合えないなって思う部分が一緒なんだよな」

昔、虫籠の中でアゲハ蝶の幼虫を育てたことがあった。

俺、失敗したんだ。

幼虫たちが羽化しても、俺は蝶々を虫籠から出すことが出来なかった。知らなかったんだ。あの綺麗な羽が、あんなにも脆いことに俺は気づけなかった。けれど気づいたとしても、手放せたかどうかは分からない。

大事だと思ったから、手放せなかったのに
手放せなかったから、みんな死んだ。

どう足掻いたって、俺の大事にするやり方はこうなってしまう。

もし仮に、彼女と付き合えたとして。そしたら俺は勝手に不安になって、そのままの彼女を受け入れられないということも分かっている。けれど、変わってしまえばそれはもう俺が好きになった彼女じゃないから、

だから俺の片思いは両思いになることはない。

だから、もう、辞めたいのに。

見つめ続けたって、思い詰めるばかりで、苦しいだけ。
しんどいだけ。それなのに。

「なんでなんだろ。なんで、消えないんだろ」

蝶々はその羽を日に透かして飛んでいる時が一番綺麗。

その自由さに惹かれて恋に落ちた。
だから俺は、一生あの子を手に取れない。

「……本当に、恋愛って難しいね」

あーぁ。かなわない、なぁ。

かなわなくて、叶わなくて、敵わない。