高校には各クラスに委員長がいる。
俺はもちろんいの一番に立候補した。
委員長……なんと魅惑的な響きなのか! 地位と権力のにおいがプンプン漂ってくるではないか!
まさにこの俺に、王子様にふさわしい!
いずれはこのクラスを地盤とし、二年には生徒会に進出し、会長の座に君臨して明青高校を支配下に置く……。
こうなれば俺は王子様どころかキングだ!
というわけで、一学期に早速立候補したのだが、内申が有利になるからか他にも候補者が三人いた。
で、担任の判断でくじ引きで選ぶことになり、あえなく敗退。
俺、近所の商店街のガラポンでも白い玉しか出たことないもんね……。
しかし!二学期の今回は違う!
そう、投票システムが採用されたのだ!
今回の候補者は三人。俺、鈴木君、勅使河原である。
鈴木君は佐藤君の幼なじみで、こいつもまたいいやつだ。
むう、友と戦うのは心苦しいが、これもさだめじゃ。仕方ない。
しかし、鈴木君と勅使河原が相手なら、投票までに作戦を練らなければ。
鈴木君はサッカー部のホープなんだよな。王子様とは違うベクトルでキャーキャー言われるタイプ。油断できん。
勅使河原は……勅使河原は……。……。うーん、キャラが思い浮かばない。
まあ、顔は俺様には敵わないがそこそこいいかな。授業中は無茶苦茶真面目。
それくらいだ。
しかし、ダークホースの可能性も大いにあり得る。
王子様は油断しないのだ!
というわけで、俺は琢磨に協力を求め、勅使河原の調査をすることにした。
***
その日の放課後、早速琢磨に頼んだところ、
「うん、いいよ。わかった。僕も調べてみるよ」
と快くOKしてくれた。
「僕も……勅使河原君のこと、気になっていたからね」
なんだってー!?
「蓮君、勅使河原君と過去に接点ある?」
は? なんで俺と勅使河原?
「いや、全然」
下町の一般家庭の俺はそのへんの公立中学で、おぼっちゃまの勅使河原は私立のおぼっちゃま中学だった。
接点なんか皆無だ。
「クラスでもそんなに話したことないしなあ」
総合のグループディスカッションで一緒になったくらいだ。
「そうだよね……」
琢磨の薄茶色の目が鋭く光る。
「???」
いやなんで俺と勅使河原との関係をそんな気にすんだ。
はっ!わかった!
「ふっふっふ……琢磨君」
「急にどうしたの」
「なぜキミがそんなに勅使河原と俺との仲を探るのかわかったぞ」
「……っ」
琢磨は目をわずかに見開いた。
「……そうか。蓮君ももう察していたのか。蓮君、僕はこれから勅使河原君がなぜ――」
「僕と勅使河原君が仲良くなったら寂しいんだろう?違うかね?」
「……」
琢磨はまじまじと俺を見つめていたが、やがてくすっと笑って
「うん、そうだよ」
と頷いた。
え、冗談のつもりだったのに。……いやまあ、ちょっとそうだったらいいなと思ったけど。
そこは否定するところじゃないか?
「……本当はね、蓮君には勅使河原君とだけじゃない。鈴木君とも、佐藤君とも、クラスメートの皆とも、先生とも仲良くしてほしくない」
琢磨はそこで言葉を切った。
「僕だけ見てほしい」
机に手を置く俺を真っすぐに見上げる。
「お、おい琢磨……」
「……なんてね」
あ、ああびっくりした。冗談かよ。
ドキドキ、させんなよ。
「まあ、とにかく俺も調べないとな〜」
しかし、勅使河原がどんなやつかだなんて、一体どうやって調べたものか。
……。
やっぱり推理は俺の性に合わない。
ここは一つ、実際仲良くなるのが一番じゃないか!
王子様はフレンドリーであるべきだからな!
「琢磨、今日は送らなくていいから」
「えっ」
「勅使河原誘って帰るわ」
「は!?」
「帰ったの五分くらい前だろ。あいつ、電車通学だから……追いかければ間に合うかも」
「蓮君」
琢磨が焦ったように立ち上がる。
「じゃ、そういうことで!」
俺は学生鞄を引っ掴み、教室をダッシュで飛び出した。
えーと、こういう時なんて言うんだっけ。ことわざがあったような。
飯は急げ? 思い立ったらすぐやれ?
まあ、とにかく行動あるのみ!
「蓮君……!」
背後から琢磨の声が聞こえた気がしたが、チョトツモーシンな俺には届かなかった。
***
最寄り駅は明青の生徒で一杯だった。
えーと、勅使河原は……。身長は俺と同じくらいの真面目系メガネ……いた!
改札前で定期を取り出している。
おっと、声をかける前に――。
俺は髪を撫でつけブレザーの乱れを直した。
王子様たるもの、いつもピシッと!
「やあ、勅使河原君。キミも今帰りかい?」
「……っ」
勅使河原はビクッと背を震わせた。
え、なんでそんなにビビるの?
まさか俺、不良臭放っちゃってる!? で、自覚してないだけ!?
親父もあんなに臭いのに自分の加齢臭に気づいてないし!
しかし、ここで引くわけにはいかない。
不良臭はアルカイックスマイルで打ち消せ! そう!トイレの消臭剤のように!
俺はニッコリと笑った。
「一緒に帰ってもいいかい?」
「あ、ああ……」
隣に並びこっそり横顔をチラ見する。
まあ、フツーの真面目なやつだよな。多分委員長に立候補したのは内申のためだろう。
「ぼ、僕、今から塾なんだ」
「そうなんだ。どこの駅まで?」
「K駅……」
「じゃあ、僕の家の近くの駅だ」
よし!これで十分は話せる時間を確保したぞ!
二人でホームに降り電車が来るまでダラダラ喋る。
「塾は何時まで?」
「十一時まで」
は!? 深夜近くじゃん!
「三上君はどこの塾?」
「ああ、僕は塾には行っていないんだ」
うち、あんまり金ないもんなあ。
「……なら、どこで勉強しているんだい」
「学校で授業をしっかり聞いて、自宅で予習復習だね」
それから琢磨にわからないところを教えてもらう!
「……勉強のコツとかあるの」
「そんなのないよ」
強いてあるというならド根性だな!
不意に勅使河原が黙り込む。
「ねえ……三上君はどうして明青に入ったの」
「やっぱり進学校だからかな。将来のこととか考えると」
それ以前に王子様には進学校がふさわしいからな!
「勅使河原君は?」
「僕は……父さんも明青出身で……」
おお、二代続けてあったまいー家系!すげえな!
「お父さんどんな仕事してるの?」
「裁判官……」
うわ、ガチのエリートじゃん。
そういえば琢磨も将来司法試験目指すって言っていたなあ。
「父さんはさ……首席で明青卒業したんだよ」
「え! そうなんだ。すごいね」
DNAレベルで頭いいやつだ!
「だから、僕も……。なのに……」
勅使河原は目を落とした。
どうしたんだ?
そこでアナウンスの音声が勅使河原の声に重なる。
『えー、まもなく二番線に電車が参ります』
電車が到着し、ドアが音を立てて開く。
俺は早速乗り込もうとして、勅使河原がその場に立ち尽くしたままなのに気づいた。
「勅使河原君、どうしたの」
「……ごめん。僕、学校に忘れ物してきたみたいだ。取りに行くよ」
え、そうなの?
俺が驚く間にドアが閉まり、電車が走り出してしまった。
ガラス戸の向こうの勅使河原がくるりと背を向ける。
残念。もっと話したかったんだけど、結局何もわからなかったな。
まあいい。
俺はウンウンと頷いた。
こうなれば投票にすべてをかける!
今のうちにクラスメートに揉み手して媚び売っとくか。それとも山吹色のお菓子がいいか?
まあ、俺の山吹色のお菓子はうま◯棒なんだけどな!
――そしてそれから一週間後、いよいよ投票に臨むことになったのだ。
俺はもちろんいの一番に立候補した。
委員長……なんと魅惑的な響きなのか! 地位と権力のにおいがプンプン漂ってくるではないか!
まさにこの俺に、王子様にふさわしい!
いずれはこのクラスを地盤とし、二年には生徒会に進出し、会長の座に君臨して明青高校を支配下に置く……。
こうなれば俺は王子様どころかキングだ!
というわけで、一学期に早速立候補したのだが、内申が有利になるからか他にも候補者が三人いた。
で、担任の判断でくじ引きで選ぶことになり、あえなく敗退。
俺、近所の商店街のガラポンでも白い玉しか出たことないもんね……。
しかし!二学期の今回は違う!
そう、投票システムが採用されたのだ!
今回の候補者は三人。俺、鈴木君、勅使河原である。
鈴木君は佐藤君の幼なじみで、こいつもまたいいやつだ。
むう、友と戦うのは心苦しいが、これもさだめじゃ。仕方ない。
しかし、鈴木君と勅使河原が相手なら、投票までに作戦を練らなければ。
鈴木君はサッカー部のホープなんだよな。王子様とは違うベクトルでキャーキャー言われるタイプ。油断できん。
勅使河原は……勅使河原は……。……。うーん、キャラが思い浮かばない。
まあ、顔は俺様には敵わないがそこそこいいかな。授業中は無茶苦茶真面目。
それくらいだ。
しかし、ダークホースの可能性も大いにあり得る。
王子様は油断しないのだ!
というわけで、俺は琢磨に協力を求め、勅使河原の調査をすることにした。
***
その日の放課後、早速琢磨に頼んだところ、
「うん、いいよ。わかった。僕も調べてみるよ」
と快くOKしてくれた。
「僕も……勅使河原君のこと、気になっていたからね」
なんだってー!?
「蓮君、勅使河原君と過去に接点ある?」
は? なんで俺と勅使河原?
「いや、全然」
下町の一般家庭の俺はそのへんの公立中学で、おぼっちゃまの勅使河原は私立のおぼっちゃま中学だった。
接点なんか皆無だ。
「クラスでもそんなに話したことないしなあ」
総合のグループディスカッションで一緒になったくらいだ。
「そうだよね……」
琢磨の薄茶色の目が鋭く光る。
「???」
いやなんで俺と勅使河原との関係をそんな気にすんだ。
はっ!わかった!
「ふっふっふ……琢磨君」
「急にどうしたの」
「なぜキミがそんなに勅使河原と俺との仲を探るのかわかったぞ」
「……っ」
琢磨は目をわずかに見開いた。
「……そうか。蓮君ももう察していたのか。蓮君、僕はこれから勅使河原君がなぜ――」
「僕と勅使河原君が仲良くなったら寂しいんだろう?違うかね?」
「……」
琢磨はまじまじと俺を見つめていたが、やがてくすっと笑って
「うん、そうだよ」
と頷いた。
え、冗談のつもりだったのに。……いやまあ、ちょっとそうだったらいいなと思ったけど。
そこは否定するところじゃないか?
「……本当はね、蓮君には勅使河原君とだけじゃない。鈴木君とも、佐藤君とも、クラスメートの皆とも、先生とも仲良くしてほしくない」
琢磨はそこで言葉を切った。
「僕だけ見てほしい」
机に手を置く俺を真っすぐに見上げる。
「お、おい琢磨……」
「……なんてね」
あ、ああびっくりした。冗談かよ。
ドキドキ、させんなよ。
「まあ、とにかく俺も調べないとな〜」
しかし、勅使河原がどんなやつかだなんて、一体どうやって調べたものか。
……。
やっぱり推理は俺の性に合わない。
ここは一つ、実際仲良くなるのが一番じゃないか!
王子様はフレンドリーであるべきだからな!
「琢磨、今日は送らなくていいから」
「えっ」
「勅使河原誘って帰るわ」
「は!?」
「帰ったの五分くらい前だろ。あいつ、電車通学だから……追いかければ間に合うかも」
「蓮君」
琢磨が焦ったように立ち上がる。
「じゃ、そういうことで!」
俺は学生鞄を引っ掴み、教室をダッシュで飛び出した。
えーと、こういう時なんて言うんだっけ。ことわざがあったような。
飯は急げ? 思い立ったらすぐやれ?
まあ、とにかく行動あるのみ!
「蓮君……!」
背後から琢磨の声が聞こえた気がしたが、チョトツモーシンな俺には届かなかった。
***
最寄り駅は明青の生徒で一杯だった。
えーと、勅使河原は……。身長は俺と同じくらいの真面目系メガネ……いた!
改札前で定期を取り出している。
おっと、声をかける前に――。
俺は髪を撫でつけブレザーの乱れを直した。
王子様たるもの、いつもピシッと!
「やあ、勅使河原君。キミも今帰りかい?」
「……っ」
勅使河原はビクッと背を震わせた。
え、なんでそんなにビビるの?
まさか俺、不良臭放っちゃってる!? で、自覚してないだけ!?
親父もあんなに臭いのに自分の加齢臭に気づいてないし!
しかし、ここで引くわけにはいかない。
不良臭はアルカイックスマイルで打ち消せ! そう!トイレの消臭剤のように!
俺はニッコリと笑った。
「一緒に帰ってもいいかい?」
「あ、ああ……」
隣に並びこっそり横顔をチラ見する。
まあ、フツーの真面目なやつだよな。多分委員長に立候補したのは内申のためだろう。
「ぼ、僕、今から塾なんだ」
「そうなんだ。どこの駅まで?」
「K駅……」
「じゃあ、僕の家の近くの駅だ」
よし!これで十分は話せる時間を確保したぞ!
二人でホームに降り電車が来るまでダラダラ喋る。
「塾は何時まで?」
「十一時まで」
は!? 深夜近くじゃん!
「三上君はどこの塾?」
「ああ、僕は塾には行っていないんだ」
うち、あんまり金ないもんなあ。
「……なら、どこで勉強しているんだい」
「学校で授業をしっかり聞いて、自宅で予習復習だね」
それから琢磨にわからないところを教えてもらう!
「……勉強のコツとかあるの」
「そんなのないよ」
強いてあるというならド根性だな!
不意に勅使河原が黙り込む。
「ねえ……三上君はどうして明青に入ったの」
「やっぱり進学校だからかな。将来のこととか考えると」
それ以前に王子様には進学校がふさわしいからな!
「勅使河原君は?」
「僕は……父さんも明青出身で……」
おお、二代続けてあったまいー家系!すげえな!
「お父さんどんな仕事してるの?」
「裁判官……」
うわ、ガチのエリートじゃん。
そういえば琢磨も将来司法試験目指すって言っていたなあ。
「父さんはさ……首席で明青卒業したんだよ」
「え! そうなんだ。すごいね」
DNAレベルで頭いいやつだ!
「だから、僕も……。なのに……」
勅使河原は目を落とした。
どうしたんだ?
そこでアナウンスの音声が勅使河原の声に重なる。
『えー、まもなく二番線に電車が参ります』
電車が到着し、ドアが音を立てて開く。
俺は早速乗り込もうとして、勅使河原がその場に立ち尽くしたままなのに気づいた。
「勅使河原君、どうしたの」
「……ごめん。僕、学校に忘れ物してきたみたいだ。取りに行くよ」
え、そうなの?
俺が驚く間にドアが閉まり、電車が走り出してしまった。
ガラス戸の向こうの勅使河原がくるりと背を向ける。
残念。もっと話したかったんだけど、結局何もわからなかったな。
まあいい。
俺はウンウンと頷いた。
こうなれば投票にすべてをかける!
今のうちにクラスメートに揉み手して媚び売っとくか。それとも山吹色のお菓子がいいか?
まあ、俺の山吹色のお菓子はうま◯棒なんだけどな!
――そしてそれから一週間後、いよいよ投票に臨むことになったのだ。
