夢斗が来て1週間が経つが、彼はまだソファで寝ている。
先日、廊下の物を片付ける方針が決まって以来、夢斗が片付けている様子は見られなかった。
ソファで気持ちよさそうに寝ている夢斗の顔を見たら、憎しみが……。
無性に邪魔したくなった。
「おい、いつまでソファで寝るつもりだ?」
いらだつ声で夢斗を起こすが、起きない。
強硬手段だ。
夢斗の体を揺さぶると、眉間にしわを寄せ、不快そうな表情になった。
「ん―――。なに?なに?地震?!」
夢斗は慌ててソファから立ち上がった。
「バ―――カ」
「いい加減、片付けろ。そして、自分の部屋で寝ろ」と言い捨てた。
そんな俺に夢斗の声が背後から聞こえてきた。
「夜は誰も使ってないからいいじゃない。てへ」
俺が振りむくと、わざとらしく頭を傾け、頭を小突いている。
イラッ。
どこまでもイラつかせるヤツだ。
翌日、日曜日。
俺はコーヒーを飲みながらソファでくつろぎたかった。
しかし、くつろげない。
夢斗が今日もソファで寝ているからだ。
夢斗の足先に少しある空間に俺は無理やり座った。
なぜ、元々住んでいた俺がヤツに気を使わないとならんのだ?
今まで(とはいえ、ここ1週間くらいのことなのだが)溜まっていた不満が爆発した。
おかしい。
ヤツと同居を始めて、イライラすることが増えた。
スポーツ用品を手放すと決めた時にも感じたが、自分と全く価値観の違う人間との共同生活。
自分の常識が通用しない人間を相手にするのは結構なストレスなのだと分かってきた。
あとからきた人間が悠々自適に生活し、元から住んでいる俺が肩身の狭い思いをしている。
もっと気を使えよ!!
そう、夢斗には他人に対して気を使う様子が見られないのだ。
どう考えても理不尽だろ?!
そうだ!
俺はいい提案を思いついた。
善は急げだ。
俺は眠っている夢斗を叩き起こした。
眠い目をこすりながら、夢斗は起きた。
「なに?倫くん」
「単刀直入に言う。ソファは共有物、いや、俺が置いたものだ。俺は今日もソファを使えないから困っている」
夢斗はあくびをしながら言った。
「でも、片付かないんだよ……」
「手を付けてないだけだろうが!」
夢斗のペースに任せていたら、いつまでたってもこの状態が続くのだろう。
一部屋与えているのに、倉庫となっている。
夢斗からは家賃7万円をもらうことになっているが、共有部分までもが彼のスペースとなっている。
納得がいかない。
俺は満足に共有スペースを使えていないのに、夢斗と同じ賃料なのはおかしい。
「片付け、苦手でさ」
夢斗はあくびをしながら言った。
「俺は毎朝ソファを使いたいのに、お前が寝ているから使えないんだ。今だって、ほら」
ソファの上には夢斗の掛布団が置かれており、ソファと言うよりもベッドになっている。
「あぁ。ごめん、ごめん」
夢斗は布団を丸めて端に寄せ、笑顔で言った。
「これでスペースできたよ。倫くんどうぞ」
「そういうことではない!」
要領を得ない会話は、俺をいらだたせ、こめかみの筋肉がピクピクしだした。
「だったら、同居人としてルールを作らせてもらう」
「えっ!ルール??」
「そうだ、ダイニングで話そう」
「う、うん……」
俺と夢斗はダイニングテーブルで向き合った。
夢斗の頭は寝癖がついたままで、起きたばかりの格好だ。その姿がさらにイラつかせた。
「ここ数日、頭痛が止まらない。Gが出たことに始まり、お前が毎朝ソファを占領している。俺の生活が乱れてきている。お互いのためにもルールがあったほうが生活しやすいと思うんだ」
「ルール?」
「そうだ、俺なりに考えつくものがいくつかあるから、そのルールに従って欲しい」
「う、うん。わかった」
俺はA4用紙にここ数日の不満をぶつけた。
数分後、途中までルールを書いたA4用紙を夢斗に読んでもらう。
夢斗は眉間にしわを寄せたり、口をへの字にしたりと、不満のある様子だった。
「これで全部?」
「今はざっと7個まで書いたが続きがある。8項目目は『食べたもの、使ったものはその日のうちに片付けをする』、9項目目は『物を買うときは自室に入りきる量にする』、10項目目は……」
「ま、まだあるの?ちょ、ちょっと待って」
「なんだ?」
「ぼくからも一ついい?」
あれだけ自由に生活していて、口答えする気か?
しかし、このままでは俺の考えを押し付けることになってしまう。
ヤツの考えを聞くだけ聞こう。
「うむ。なにかあるか?」
「1項目目の共有スペースに置いてある私物は即捨てる、っていうの。これ取り消してもらっていい?」
「なぜだ?」
「ぼくまだ片付いてないし、廊下に一時的に物を置くって事もあると思うんだよね。それにうっかりって事もあるじゃない?倫くんだって、可能性はあると思うんだけどなぁ?」
夢斗の額にじんわり汗がにじんでいる。
俺も可能性と言われると自信がなくなる。
痛いところを突かれた。
「はぁ。わかった。共有スペースに物を置くのは禁止。ただし、置いてある私物を捨てる時は本人の許可を取る。これでどうだ?」
「OK―!」
俺の顔の前に夢斗が親指を立てる。
このようにして、俺と夢斗の共同生活のルールが出来あがった。
【共同生活ルール 10箇条】
1.共有スペース(※)に物を置かない。
2.共有スペース(※)に置いてある私物は本人の許可を得てから捨てる。
3.私物は自室内に収めること。
4.他人の部屋に勝手に入らない。
5.共有スペースを私物化しない。ソファで勝手に寝るな。
6.トイレ掃除、風呂掃除、リビング、キッチンは折半で掃除。
7.帰りが遅くなる時は連絡を入れる。
8.友人を招待する時は事前に知らせる。
9.食べたもの、使ったものはその日のうちに片付けをする。
10.物を買うときは自室に入りきる量にする。
※共有スペースとは自室以外の場所をいう
「ねえ、因みにこのルールはいつから適用されるの?」
「即日、いや即時だ」
夢斗の顔が青ざめる。
「じゃあ、もうソファで寝るのもダメ?」
「駄目だ」
「寝るところないよー」
「今すぐベッドの上のダンボールを片付けろ!そうすれば寝られるだろ」
「ひいーーーー。倫くんのいじわるーーー」
「俺はずっと我慢してたんだ!登校前にソファでコーヒーをゆっくり飲んでくつろぎたくても、お前がいるからそれもできなかった。明日からは大丈夫そうだな」
「うっ」
「とにかく今すぐ片付けろ!」
「はいーーー」
夢斗は自分の部屋へ戻っていった。
これで俺の日常は取り戻せそうだ。
それにしても、ヤツは一人で片付けられるのだろうか?
夢斗の部屋の前まで行き、ドアをノックした。
「おい、大丈夫か?」
「ちょっと、無理かもぉ」
「開けるぞ」
ドアを開けると、部屋は山積みのダンボール箱で埋まっていた。
「箱に何が入っているかわからなくて」
山積みの箱の奥で、夢斗が居心地悪そうにもごもごと話している。
「箱に何を詰めたのか書いてないのか?!」
「詰めるのに一生懸命でそこまで気が回らなかったよ」
あぁ。
どこまでアホなんだ。
片付けない理由の一つはこれだったのだと、今更ながら納得する。
「今からそっちに行って手伝う!またソファに寝られたら迷惑だからな!」
「倫くん、ありがとう」
薄汚いダンボールにぶつからないように、隙間を通って夢斗にたどり着いた。
「とにかく、ベッドの上の箱を一箱開けてみろ」
「う、うん」
開けた箱に入っていたものは……。
スプレー缶、ドライヤー、ヨガマット、ダンベル、筋トレ用品と、ジャンルに関係なく「ひとまず詰めました」といった物が入っていた。
「二度目だが……。これらは使うのか?そして、使えるのか?」
「……」
「使わないんだな。だったら処分しろ。ドライヤーは俺のを使え」
「また買取に?」
スプレー缶は空。ダンベルには錆。筋トレ用品も部品がなかったりと不完全品だった。ヨガマットも薄汚れている。
価値なし。
「こんなに状態が悪かったら売れないだろう」
「じゃあ、捨てるしかないか」
「残念だが、そうするしかないだろう。でも一箱減ったぞ」
「うっ」
「この調子で二箱目も開けてみよう」
「わかったよ……」
夢斗はしぶしぶ二箱、三箱と開封した。
どれもこれも使える物はなく、処分することになった。
ベッドの上のダンボール箱5箱はなくなり、夢斗は晴れてベッドで眠れる状態になった。
スポーツ用品を手放すと決めた時は、数時間かかったが、今回はすんなり終わった。
一度、処分するとハードルが低くなるのかもしれない。
「それにしても、何でこんなに使えないものまで取っておくんだ?」
俺はあきれ顔で言った。
「持ってきた物は全部ぼくの歴史なの!なくなっちゃったらぼくの歴史が消えちゃうじゃん」
夢斗は涙を目に浮かべて訴えた。
「理解できん。一般人に歴史?必要ないだろ」
「でも、ぼくは安心するんだよ。物に囲まれているとぼくの居場所があるみたいでさ。物がぼくに『使って!』ってぼくを必要としてくれる気がしてさ」
「おい。おかしくないか?物を使うのは人間で、人間に使われるのが物だろ。人間あっての物だろ?お前のその考えはどこから来るんだ?」
「あれ?ぼくの考えてることって、おかしい……」
「おかしい。あれだけ物に囲まれてるから、訳わかんなくなってるんじゃないのか?」
「……そうかも」
「とにかく、お前の歴史は消えない。たとえ物がなくなったとしても、記憶には残っている」
俺は吐き捨て、夢斗を一人残し部屋を出た。
ダンボール箱、残75箱。
先日、廊下の物を片付ける方針が決まって以来、夢斗が片付けている様子は見られなかった。
ソファで気持ちよさそうに寝ている夢斗の顔を見たら、憎しみが……。
無性に邪魔したくなった。
「おい、いつまでソファで寝るつもりだ?」
いらだつ声で夢斗を起こすが、起きない。
強硬手段だ。
夢斗の体を揺さぶると、眉間にしわを寄せ、不快そうな表情になった。
「ん―――。なに?なに?地震?!」
夢斗は慌ててソファから立ち上がった。
「バ―――カ」
「いい加減、片付けろ。そして、自分の部屋で寝ろ」と言い捨てた。
そんな俺に夢斗の声が背後から聞こえてきた。
「夜は誰も使ってないからいいじゃない。てへ」
俺が振りむくと、わざとらしく頭を傾け、頭を小突いている。
イラッ。
どこまでもイラつかせるヤツだ。
翌日、日曜日。
俺はコーヒーを飲みながらソファでくつろぎたかった。
しかし、くつろげない。
夢斗が今日もソファで寝ているからだ。
夢斗の足先に少しある空間に俺は無理やり座った。
なぜ、元々住んでいた俺がヤツに気を使わないとならんのだ?
今まで(とはいえ、ここ1週間くらいのことなのだが)溜まっていた不満が爆発した。
おかしい。
ヤツと同居を始めて、イライラすることが増えた。
スポーツ用品を手放すと決めた時にも感じたが、自分と全く価値観の違う人間との共同生活。
自分の常識が通用しない人間を相手にするのは結構なストレスなのだと分かってきた。
あとからきた人間が悠々自適に生活し、元から住んでいる俺が肩身の狭い思いをしている。
もっと気を使えよ!!
そう、夢斗には他人に対して気を使う様子が見られないのだ。
どう考えても理不尽だろ?!
そうだ!
俺はいい提案を思いついた。
善は急げだ。
俺は眠っている夢斗を叩き起こした。
眠い目をこすりながら、夢斗は起きた。
「なに?倫くん」
「単刀直入に言う。ソファは共有物、いや、俺が置いたものだ。俺は今日もソファを使えないから困っている」
夢斗はあくびをしながら言った。
「でも、片付かないんだよ……」
「手を付けてないだけだろうが!」
夢斗のペースに任せていたら、いつまでたってもこの状態が続くのだろう。
一部屋与えているのに、倉庫となっている。
夢斗からは家賃7万円をもらうことになっているが、共有部分までもが彼のスペースとなっている。
納得がいかない。
俺は満足に共有スペースを使えていないのに、夢斗と同じ賃料なのはおかしい。
「片付け、苦手でさ」
夢斗はあくびをしながら言った。
「俺は毎朝ソファを使いたいのに、お前が寝ているから使えないんだ。今だって、ほら」
ソファの上には夢斗の掛布団が置かれており、ソファと言うよりもベッドになっている。
「あぁ。ごめん、ごめん」
夢斗は布団を丸めて端に寄せ、笑顔で言った。
「これでスペースできたよ。倫くんどうぞ」
「そういうことではない!」
要領を得ない会話は、俺をいらだたせ、こめかみの筋肉がピクピクしだした。
「だったら、同居人としてルールを作らせてもらう」
「えっ!ルール??」
「そうだ、ダイニングで話そう」
「う、うん……」
俺と夢斗はダイニングテーブルで向き合った。
夢斗の頭は寝癖がついたままで、起きたばかりの格好だ。その姿がさらにイラつかせた。
「ここ数日、頭痛が止まらない。Gが出たことに始まり、お前が毎朝ソファを占領している。俺の生活が乱れてきている。お互いのためにもルールがあったほうが生活しやすいと思うんだ」
「ルール?」
「そうだ、俺なりに考えつくものがいくつかあるから、そのルールに従って欲しい」
「う、うん。わかった」
俺はA4用紙にここ数日の不満をぶつけた。
数分後、途中までルールを書いたA4用紙を夢斗に読んでもらう。
夢斗は眉間にしわを寄せたり、口をへの字にしたりと、不満のある様子だった。
「これで全部?」
「今はざっと7個まで書いたが続きがある。8項目目は『食べたもの、使ったものはその日のうちに片付けをする』、9項目目は『物を買うときは自室に入りきる量にする』、10項目目は……」
「ま、まだあるの?ちょ、ちょっと待って」
「なんだ?」
「ぼくからも一ついい?」
あれだけ自由に生活していて、口答えする気か?
しかし、このままでは俺の考えを押し付けることになってしまう。
ヤツの考えを聞くだけ聞こう。
「うむ。なにかあるか?」
「1項目目の共有スペースに置いてある私物は即捨てる、っていうの。これ取り消してもらっていい?」
「なぜだ?」
「ぼくまだ片付いてないし、廊下に一時的に物を置くって事もあると思うんだよね。それにうっかりって事もあるじゃない?倫くんだって、可能性はあると思うんだけどなぁ?」
夢斗の額にじんわり汗がにじんでいる。
俺も可能性と言われると自信がなくなる。
痛いところを突かれた。
「はぁ。わかった。共有スペースに物を置くのは禁止。ただし、置いてある私物を捨てる時は本人の許可を取る。これでどうだ?」
「OK―!」
俺の顔の前に夢斗が親指を立てる。
このようにして、俺と夢斗の共同生活のルールが出来あがった。
【共同生活ルール 10箇条】
1.共有スペース(※)に物を置かない。
2.共有スペース(※)に置いてある私物は本人の許可を得てから捨てる。
3.私物は自室内に収めること。
4.他人の部屋に勝手に入らない。
5.共有スペースを私物化しない。ソファで勝手に寝るな。
6.トイレ掃除、風呂掃除、リビング、キッチンは折半で掃除。
7.帰りが遅くなる時は連絡を入れる。
8.友人を招待する時は事前に知らせる。
9.食べたもの、使ったものはその日のうちに片付けをする。
10.物を買うときは自室に入りきる量にする。
※共有スペースとは自室以外の場所をいう
「ねえ、因みにこのルールはいつから適用されるの?」
「即日、いや即時だ」
夢斗の顔が青ざめる。
「じゃあ、もうソファで寝るのもダメ?」
「駄目だ」
「寝るところないよー」
「今すぐベッドの上のダンボールを片付けろ!そうすれば寝られるだろ」
「ひいーーーー。倫くんのいじわるーーー」
「俺はずっと我慢してたんだ!登校前にソファでコーヒーをゆっくり飲んでくつろぎたくても、お前がいるからそれもできなかった。明日からは大丈夫そうだな」
「うっ」
「とにかく今すぐ片付けろ!」
「はいーーー」
夢斗は自分の部屋へ戻っていった。
これで俺の日常は取り戻せそうだ。
それにしても、ヤツは一人で片付けられるのだろうか?
夢斗の部屋の前まで行き、ドアをノックした。
「おい、大丈夫か?」
「ちょっと、無理かもぉ」
「開けるぞ」
ドアを開けると、部屋は山積みのダンボール箱で埋まっていた。
「箱に何が入っているかわからなくて」
山積みの箱の奥で、夢斗が居心地悪そうにもごもごと話している。
「箱に何を詰めたのか書いてないのか?!」
「詰めるのに一生懸命でそこまで気が回らなかったよ」
あぁ。
どこまでアホなんだ。
片付けない理由の一つはこれだったのだと、今更ながら納得する。
「今からそっちに行って手伝う!またソファに寝られたら迷惑だからな!」
「倫くん、ありがとう」
薄汚いダンボールにぶつからないように、隙間を通って夢斗にたどり着いた。
「とにかく、ベッドの上の箱を一箱開けてみろ」
「う、うん」
開けた箱に入っていたものは……。
スプレー缶、ドライヤー、ヨガマット、ダンベル、筋トレ用品と、ジャンルに関係なく「ひとまず詰めました」といった物が入っていた。
「二度目だが……。これらは使うのか?そして、使えるのか?」
「……」
「使わないんだな。だったら処分しろ。ドライヤーは俺のを使え」
「また買取に?」
スプレー缶は空。ダンベルには錆。筋トレ用品も部品がなかったりと不完全品だった。ヨガマットも薄汚れている。
価値なし。
「こんなに状態が悪かったら売れないだろう」
「じゃあ、捨てるしかないか」
「残念だが、そうするしかないだろう。でも一箱減ったぞ」
「うっ」
「この調子で二箱目も開けてみよう」
「わかったよ……」
夢斗はしぶしぶ二箱、三箱と開封した。
どれもこれも使える物はなく、処分することになった。
ベッドの上のダンボール箱5箱はなくなり、夢斗は晴れてベッドで眠れる状態になった。
スポーツ用品を手放すと決めた時は、数時間かかったが、今回はすんなり終わった。
一度、処分するとハードルが低くなるのかもしれない。
「それにしても、何でこんなに使えないものまで取っておくんだ?」
俺はあきれ顔で言った。
「持ってきた物は全部ぼくの歴史なの!なくなっちゃったらぼくの歴史が消えちゃうじゃん」
夢斗は涙を目に浮かべて訴えた。
「理解できん。一般人に歴史?必要ないだろ」
「でも、ぼくは安心するんだよ。物に囲まれているとぼくの居場所があるみたいでさ。物がぼくに『使って!』ってぼくを必要としてくれる気がしてさ」
「おい。おかしくないか?物を使うのは人間で、人間に使われるのが物だろ。人間あっての物だろ?お前のその考えはどこから来るんだ?」
「あれ?ぼくの考えてることって、おかしい……」
「おかしい。あれだけ物に囲まれてるから、訳わかんなくなってるんじゃないのか?」
「……そうかも」
「とにかく、お前の歴史は消えない。たとえ物がなくなったとしても、記憶には残っている」
俺は吐き捨て、夢斗を一人残し部屋を出た。
ダンボール箱、残75箱。

