夢斗と生活を始めて半年がたった。
土曜の朝7時。
珍しく夢斗は起きてこなかった。
昨夜も遅くまで部屋で何やら作業をしていたので、まだ寝ているのだろう。
夢斗の分の朝食はラップをかけてテーブルに置いておく。
キッチンで食器を洗っていると、夢斗の部屋から叫び声が聞こえた。
「できた―――!!」
何事かと思い、食器を洗う手を止め、夢斗の部屋に駆け付けた。
ノックをすると、「どうぞ!」と部屋の中から声がする。
「開けるぞ」
夢斗の部屋に入る。
引っ越してきたときは80箱のダンボール箱が占領していた空間に、もうその姿はない。
ダンボールのない部屋は感動的だ。
両手を大きく広げて深呼吸したいくらいだ。
夢斗は万歳して、「見て!完成したんだ!!」と喜んでいる。
完成?
部屋は片付いているのに、その他に何が……?
夢斗はクローゼットの方を指して、「見て、見て」と言わんばかりに俺の感想を求めている。まるで飼い主にご褒美をねだる犬のようだ。
夢斗の瞳にキラキラと輝く星が見えた……気がする。
「この角度から見て!」
夢斗の指示に従い、ベストポジションに立った。
クローゼットを目の当たりにして、言葉を失った。
なにより、クローゼットの上段が眩しい。
比喩で言っているのではない。
実際に眩しいのだ。
こ、こんな斬新なクローゼットの使い方を俺は見たことがない。
AYAMEにサインをもらったTシャツ、AYAMEのポスター、ブロマイド、うちわ、といったAYAMEの平面グッズがクローゼットの壁一面に飾られている。
壁に取り付けたライトが壁一面を覆っているAYAMEを照らしている。
中板の奥にはアクスタが50体ほど置かれ、その隙間に紫色のペンライトが光を放っている。
中板の手前にはデスクランプが置かれ、その周囲だけぽっかりと空間が空いていた。
「これは、すごいな……」
呆気にとられている俺に、夢斗は説明を始めた。
「ここが勉強スペース。AYAMEに見られていると思うと頑張れるから」
デスクランプの前に物が置かれていない理由が明かされた。
「それで、下段に必要な物を収納することにしたんだ。服はかなり減ったから、ハンガーにかけて壁につるすことにしたんだ」
ベッドの反対側に、ハンガーレールが取り付けられていたので、それを活用したらしい。
夢斗の成長が凄まじい。
そんなアイデアを自ら考えつき、ここまで片付けられるようになるとは……。
しかも、見事に収まっている。整っている……ようにも見える。
特にクローゼットの上段は俺の感性とは合わないが、うまく収まっている。
夢斗の推しにかける情熱が部屋全体からビシビシ伝わってきた。
しかも、その推しは俺の姉貴だ。
姉貴もこの部屋を見たら、さぞかし喜ぶだろう。
「このクローゼットの写真を撮ってもいいか?」
「えっ?!」
「姉貴に見せたら喜ぶと思って」
「AYAME!」
夢斗の表情が一気に明るくなった。
「それでね、ここにAYAMEの等身大のパネルを置いたんだ」
ハンガーレールの下にAYAMEがいた。
上機嫌な夢斗。
「目が覚めたら、目の前にAYAMEがいる。最高だよ!」
ここまで計算してレイアウトを決めたということか!
ファンがここまでしていることを姉貴に伝えたい。
そして、何より夢斗がここまで物の取捨選択ができるようになったことが嬉しかった。
その夜、俺は姉貴に電話をかけ、夢斗の部屋について興奮気味に話した。
「運よく明日は予定が入っていないから、行ってもいい?」
姉貴の声が弾んでいる。
夢斗も翌日はバイトのシフトが入っていないようだ。
サプライズとして、夢斗には何も言わずに翌日を迎えた。
翌日、10時にチャイムが鳴った。
「おい、お前、出てくれ」
相変わらずソファでスマホをいじっている夢斗に言った。
「はぁい」
玄関を開ける音がする。
それと同時に夢斗が叫んだ。
「AYAME!」
「夢斗くん、朝から元気いいね―。はい、これお土産」
夢斗はAYAMEが持ってきたケーキの箱を持ったまま固まってしまった。
AYAMEは夢斗を玄関に置き去りにして、リビングに移動した。
AYAMEと夢斗はソファに座り、俺は床にクッションを敷いて座った。
「相変わらず綺麗にしてるよね」
AYAMEは部屋を見渡し、俺の淹れたコーヒーを啜った。
夢斗は緊張でガチガチに固まっている。
ファンとは言え、実際に実物が隣にいると、どうしていいかわからなくなるのだろうか。
「まあ、この状態を保つことが俺の仕事でもあるから」
毎朝、朝食後にロボット掃除機を稼働させるために、床に物を置かないようにしている。
何度注意しても、夢斗は床に何でも放置する。バスタオル、服、下着……。
朝起きると一番にする作業は、それらを拾い集めて脱衣所に持っていくことだ。
姉貴のおかげで慣れていたとはいえ、以前の俺なら腹を立てていたはずだ。
それが今では、さほど苦にならなくなっていた。
「倫くんにはお世話になりっぱなしです」
夢斗が顔を赤くしている。
「私も同じようなもんだから、恥ずかしがる必要はないよー。倫ちゃん、やってくれるでしょ?」
「はい。もう、それはそれは綺麗に……」
「得意な方がやればいいんだよ」
AYAMEの優しさに夢斗が感動したようだ。
「AYAME……、優しい……」
俺はそんな甘っちょろいこと、言わないしな。
AYAMEと会話を楽しむ夢斗を見ていたら、少し胸がざわついた。
一休みした後、AYAMEは夢斗によるルームツアーに参加した。
クローゼットから等身大パネルまで、夢斗の解説が入る豪華なツアーだ。
クローゼットを見た瞬間、AYAMEは目にうっすら涙を浮かべた。
「ファンの子がここまでしてくれるなんて。次はセンターとれるように頑張る!」
AYAMEにとってもいい刺激になったようだ。
夢斗といい、AYAMEといい、お互いがお互いの支えになっている。
夢斗のAYAME神殿は見る者に何かしらの感動を呼び込んだ。
AYAMEが帰った後、夢斗と一緒にソファでくつろいでいると、夢斗が横たわり、俺の膝の上に頭をのせた。
フワッと夢斗の柑橘の香りが舞った。
心臓が大きく跳ね上がった。
「お、おい」
「ごめん……。疲れちゃって。こうしてもいい?」
夢斗が膝の上から俺の目を見つめる。
断る理由はない。
「倫くん、いつもありがとね」
夢斗が言った。
「礼を言われるほど、何もしてない」
「家の片付けとか、AYAMEとか、倫くんのおかげだよ」
「お前だって、あの大量のダンボールを頑張って片付けただろ」
「ははは、まあ、そうだね」
「それに、お前がいて暇じゃなくて助かる」
思わず本音がポロっと出てしまった。
場の雰囲気に流され過ぎじゃないか?俺。
寝息が聞こえる。
夢斗の顔を覗き込むと、無防備な顔で眠っていた。
相変わらずだな、ヤツは。
土曜の朝7時。
珍しく夢斗は起きてこなかった。
昨夜も遅くまで部屋で何やら作業をしていたので、まだ寝ているのだろう。
夢斗の分の朝食はラップをかけてテーブルに置いておく。
キッチンで食器を洗っていると、夢斗の部屋から叫び声が聞こえた。
「できた―――!!」
何事かと思い、食器を洗う手を止め、夢斗の部屋に駆け付けた。
ノックをすると、「どうぞ!」と部屋の中から声がする。
「開けるぞ」
夢斗の部屋に入る。
引っ越してきたときは80箱のダンボール箱が占領していた空間に、もうその姿はない。
ダンボールのない部屋は感動的だ。
両手を大きく広げて深呼吸したいくらいだ。
夢斗は万歳して、「見て!完成したんだ!!」と喜んでいる。
完成?
部屋は片付いているのに、その他に何が……?
夢斗はクローゼットの方を指して、「見て、見て」と言わんばかりに俺の感想を求めている。まるで飼い主にご褒美をねだる犬のようだ。
夢斗の瞳にキラキラと輝く星が見えた……気がする。
「この角度から見て!」
夢斗の指示に従い、ベストポジションに立った。
クローゼットを目の当たりにして、言葉を失った。
なにより、クローゼットの上段が眩しい。
比喩で言っているのではない。
実際に眩しいのだ。
こ、こんな斬新なクローゼットの使い方を俺は見たことがない。
AYAMEにサインをもらったTシャツ、AYAMEのポスター、ブロマイド、うちわ、といったAYAMEの平面グッズがクローゼットの壁一面に飾られている。
壁に取り付けたライトが壁一面を覆っているAYAMEを照らしている。
中板の奥にはアクスタが50体ほど置かれ、その隙間に紫色のペンライトが光を放っている。
中板の手前にはデスクランプが置かれ、その周囲だけぽっかりと空間が空いていた。
「これは、すごいな……」
呆気にとられている俺に、夢斗は説明を始めた。
「ここが勉強スペース。AYAMEに見られていると思うと頑張れるから」
デスクランプの前に物が置かれていない理由が明かされた。
「それで、下段に必要な物を収納することにしたんだ。服はかなり減ったから、ハンガーにかけて壁につるすことにしたんだ」
ベッドの反対側に、ハンガーレールが取り付けられていたので、それを活用したらしい。
夢斗の成長が凄まじい。
そんなアイデアを自ら考えつき、ここまで片付けられるようになるとは……。
しかも、見事に収まっている。整っている……ようにも見える。
特にクローゼットの上段は俺の感性とは合わないが、うまく収まっている。
夢斗の推しにかける情熱が部屋全体からビシビシ伝わってきた。
しかも、その推しは俺の姉貴だ。
姉貴もこの部屋を見たら、さぞかし喜ぶだろう。
「このクローゼットの写真を撮ってもいいか?」
「えっ?!」
「姉貴に見せたら喜ぶと思って」
「AYAME!」
夢斗の表情が一気に明るくなった。
「それでね、ここにAYAMEの等身大のパネルを置いたんだ」
ハンガーレールの下にAYAMEがいた。
上機嫌な夢斗。
「目が覚めたら、目の前にAYAMEがいる。最高だよ!」
ここまで計算してレイアウトを決めたということか!
ファンがここまでしていることを姉貴に伝えたい。
そして、何より夢斗がここまで物の取捨選択ができるようになったことが嬉しかった。
その夜、俺は姉貴に電話をかけ、夢斗の部屋について興奮気味に話した。
「運よく明日は予定が入っていないから、行ってもいい?」
姉貴の声が弾んでいる。
夢斗も翌日はバイトのシフトが入っていないようだ。
サプライズとして、夢斗には何も言わずに翌日を迎えた。
翌日、10時にチャイムが鳴った。
「おい、お前、出てくれ」
相変わらずソファでスマホをいじっている夢斗に言った。
「はぁい」
玄関を開ける音がする。
それと同時に夢斗が叫んだ。
「AYAME!」
「夢斗くん、朝から元気いいね―。はい、これお土産」
夢斗はAYAMEが持ってきたケーキの箱を持ったまま固まってしまった。
AYAMEは夢斗を玄関に置き去りにして、リビングに移動した。
AYAMEと夢斗はソファに座り、俺は床にクッションを敷いて座った。
「相変わらず綺麗にしてるよね」
AYAMEは部屋を見渡し、俺の淹れたコーヒーを啜った。
夢斗は緊張でガチガチに固まっている。
ファンとは言え、実際に実物が隣にいると、どうしていいかわからなくなるのだろうか。
「まあ、この状態を保つことが俺の仕事でもあるから」
毎朝、朝食後にロボット掃除機を稼働させるために、床に物を置かないようにしている。
何度注意しても、夢斗は床に何でも放置する。バスタオル、服、下着……。
朝起きると一番にする作業は、それらを拾い集めて脱衣所に持っていくことだ。
姉貴のおかげで慣れていたとはいえ、以前の俺なら腹を立てていたはずだ。
それが今では、さほど苦にならなくなっていた。
「倫くんにはお世話になりっぱなしです」
夢斗が顔を赤くしている。
「私も同じようなもんだから、恥ずかしがる必要はないよー。倫ちゃん、やってくれるでしょ?」
「はい。もう、それはそれは綺麗に……」
「得意な方がやればいいんだよ」
AYAMEの優しさに夢斗が感動したようだ。
「AYAME……、優しい……」
俺はそんな甘っちょろいこと、言わないしな。
AYAMEと会話を楽しむ夢斗を見ていたら、少し胸がざわついた。
一休みした後、AYAMEは夢斗によるルームツアーに参加した。
クローゼットから等身大パネルまで、夢斗の解説が入る豪華なツアーだ。
クローゼットを見た瞬間、AYAMEは目にうっすら涙を浮かべた。
「ファンの子がここまでしてくれるなんて。次はセンターとれるように頑張る!」
AYAMEにとってもいい刺激になったようだ。
夢斗といい、AYAMEといい、お互いがお互いの支えになっている。
夢斗のAYAME神殿は見る者に何かしらの感動を呼び込んだ。
AYAMEが帰った後、夢斗と一緒にソファでくつろいでいると、夢斗が横たわり、俺の膝の上に頭をのせた。
フワッと夢斗の柑橘の香りが舞った。
心臓が大きく跳ね上がった。
「お、おい」
「ごめん……。疲れちゃって。こうしてもいい?」
夢斗が膝の上から俺の目を見つめる。
断る理由はない。
「倫くん、いつもありがとね」
夢斗が言った。
「礼を言われるほど、何もしてない」
「家の片付けとか、AYAMEとか、倫くんのおかげだよ」
「お前だって、あの大量のダンボールを頑張って片付けただろ」
「ははは、まあ、そうだね」
「それに、お前がいて暇じゃなくて助かる」
思わず本音がポロっと出てしまった。
場の雰囲気に流され過ぎじゃないか?俺。
寝息が聞こえる。
夢斗の顔を覗き込むと、無防備な顔で眠っていた。
相変わらずだな、ヤツは。

