すてたい王子とためたい王子


 しばらくすると、ドアをノックする音が聞こえた。
「倫くん、今、いいかな?」
 夢斗の落ち着いた声がした。
 ドアを開け、「どうした?」と、夢斗に向き合う。
「ぼく、AYAMEのためにも部屋を片付けたい!」
 いつもになく気合が入っている夢斗がいた。
 しかも、自ら“片付けたい”と言っている。
「えっ?何、その急展開?」
「いつAYAMEが来てもいいように、自分の部屋を片付けようと思う」
 あれほど嫌がっていたのに……。
 AYAMEが一人の人間を変えた。
「倫くん、今、時間ある?」
 夕方4時。
 散々だった発表を反省し、今から明日の準備にとりかかろうと思っていたのだが。
 しかし、今この瞬間を逃して、夢斗の気持ちが変わってしまったら。
 鉄は熱いうちに打て、というじゃないか。
「よし、やろう」
 俺たちは夢斗の部屋に移動した。

「ちなみに、推しの箱は『重要』と書かれた5箱なのか?」
「そうだよ」
「そしたら、その5箱以外はお前にとってどうでもいい荷物とも言えるな?」
「そうだね」
 念のため、念押し。
「その5箱以外を一気に片付ければ、お前にとって重要なものだけ残るってことになるな」
「倫くん、頭いい!!」
 続けて夢斗が言った。
「ぼく、AYAMEグッズを飾るスペースを作りたい」
「お前……。とうとうそこまで成長したか……」
 推しが一人の人間をここまで変えた。
 夢斗から“スペース”という言葉を聞く日が来るとは思いもしなかった。
 人が変わる瞬間というのは、こんなにも尊いモノなんだな。
 俺の心も洗われた気がした。

 俺と夢斗は24箱を一気に開け、必要な物だけを取り出した。
 興味があるかもしれないので、不用品は何だったのか羅列してみる。
 推し以外のCDやカセットテープが10箱。
 高校時代に着ていたジャージと共にゲーセンのクレーンゲームで取ったぬいぐるみが5箱。
 変色したバスタオル、汚れの落ちていないシーツ、どこかでもらった化粧品のサンプル等々、5箱。全て処分。
 化粧品のサンプルは経年劣化したのだろう、中身が漏れ一緒に入っていたバスタオルやシーツを汚していた。
 これらは全部、売るなり、捨てるなりで処分した。
 そして、また洋服。今度は冬服のようで、コート、ジャケット、セーター等厚手の物が入った箱が4箱。着る物と予備を選定し、2箱分まで減らしてクローゼットに収納した。
 大がかりな片付けは、これが最後になるだろう。
 二人で夜までかかって片付けた。

 残るは推しグッズの入った5箱。
 ここまでくれば、夢斗も一人で片付けられるだろう。
 
 推しのために部屋を綺麗にする。
 これも立派な推し事なのではないか?
 俺は夢斗から一つの学びを得た。

 ダンボール箱、残5箱。