自宅に戻ると、静まり返ったリビングが待っていた。
「ルームメイトの人は?出かけちゃってる??」
姉貴がリビングをぐるりと見渡した。
「例の件でショックうけて部屋にいると思うから呼んでくる」
「ラジャー」
姉貴が敬礼した。
ん?
同じようなシチュエーションを最近経験したような……。
いつだっけ?
夢斗の部屋のドアをノックしたが、反応がない。
「おい、部屋から出てこれないか?昨日のお詫びがしたいんだけど……」
夢斗がドアをうっすら開け、顔をのぞかせた。
「よかった。出てこれるか?」
「……」
無言。
まだ怒っているか……。
そこに呼んでもいないのに絢萌が俺を押し飛ばし、笑顔で夢斗の前に立った。
「倫ちゃんから聞いたよ。夢斗くんだよね?」
「えっ?!えっ?!えぇ――――――!!AYAME!!」
夢斗は目を丸くして、声を張り上げた。
目の前に自分の推しがいるんだから、驚くのは当然か。
「この姿じゃAYAMEに申し訳ないから、着替える!ちょっと待ってて」
夢斗は慌ててドアを閉めた。
「ありがと、姉貴」
「かわいい弟が困ってるんだもん、当然よ」
絢萌がリビングに戻る後姿は煌々と光っていた。
持つべきは姉貴、いや有名人だな。
リビングで絢萌とお茶を飲んでいると、夢斗が現れた。
白地のTシャツにAYAMEの顔がBIGサイズで印刷されてる。
恐らく、個人的に作ったものなのだろう。
夢斗はもじもじと顔を赤らめながら俺たちの前に現れた。
絢萌も目を丸くして、持っていたマグカップを落としそうになったところを俺がキャッチした。
「う、嬉しい!!」
絢萌の目に涙があふれ、手を口に当てて感動している。
「握手会の時に着ようと思って作ったんですけど。今、本人を目の前にしたら着なくちゃ!と思って」
「うん、うん」
絢萌と夢斗の世界が出来上がったと思ったのも、つかの間。
「あれ?でも、なんでAYAMEがここにいるの?」
夢斗は夢から覚めたようだ。
「俺の姉貴なんだよ。お前のAYAMEとやらは」
目が点になっている夢斗。
俺と絢萌の顔を交互に見比べている。
「うわぁ―――!」
やっと今の状況が分かったようだ。
メガネを掛けていない俺は絢萌の男版といってもいいほど、絢萌に似ている。
「AYAME……AYAMEが俺の前に?!」
絢萌は夢斗の手を取ると両手で包み込んで、心配そうな表情を見せた。
「夢斗くん、倫ちゃんから聞いてるよ。昨日、大変なことがあったって」
「そうなんです。非売品のAYAMEのアクスタが壊れて……」
「私が来たからには大丈夫」
絢萌が俺に視線を合わせると無言の指示を出す。
俺はうなずくと、絢萌のカバンからピンクの包装紙にリボンを巻いたものを取り出し、絢萌に手渡した。
絢萌から夢斗にプレゼントが渡される。
「これ。夢斗くん、開けてみて」
にこりと女神のような笑顔を見せる絢萌。
無言でうなずく夢斗。
夢斗はリボンを外し、包装紙を外した。登場した白い箱を開けると、そこには俺が壊したものと同じアクスタが入っていた。
「えっ?!いいの?」
夢斗はAYAMEの目を見つめる。
「もちろん。関係者用に取ってあったものなの。倫ちゃんから事情を聞いて、持ってきたの」
AYAMEと夢斗が見つめ合っている。
すごいな……。
推す者と推される者の世界が俺の前で繰り広げられている。
まるでドラマを見ているようだ。
AYAMEは夢斗の着ているTシャツにサインをし、握手をすると帰っていった。
夢斗はいまだ夢心地で、話しかけても反応がない。
自宅でまさかの推しと会ったんだから当たり前か……。
俺にとっての日常も他人にとっては非日常。
夢斗を一人、リビングに残し、俺は部屋でくつろぐことにした。

