すてたい王子とためたい王子

 俺は夢斗の部屋に移動した。
 はあ、49箱のダンボールは6畳一間にはまだまだ圧迫感がある。
 何が入っているかわからないんだよな……。
 何の気なしに箱を眺めていると「重要」と書かれた箱をいくつか見つけた。
「なんだこれ?」
 箱を開けようと持ち上げたところに、夢斗が駆けつけてきた。
「あーーー。だめ!それは開けないで!」
 俺からダンボール箱を奪い取り、「これは大切なものだから開けないで!」とダンボールを抱きしめた。
 いぶかしげに夢斗を見つめていたら、「倫くんはそっちにある何も書いてない箱をお願いします」というではないか。
 なぜ、俺が指示を受けねばならない。
 しかも夢斗に。
 必死に拒否する夢斗の「大切なもの」とやらに、好奇心を掻き立てられた。
 夢斗は「重要」と書かれた箱に手を付ける気配がない。
 俺は、夢斗に指定された、何も書かれていない箱に手をかけた。
 やけくそになりながら、箱を乱暴に開けた。
 最初に目に入ってきたのは……。
 ダンボール箱いっぱいに入った週刊少年ジャ〇プ。
 数えてみたら、一箱に20冊入っている。
「おい、これは読むのか?」
 発行日を見ると4年前の日付……。
 大量のマンガに懐かしさがこみ上げてくる。
 小学生時代に読んでいたが、いつのまにか読まなくなっていた。
 懐かしさから1冊取り出し、パラパラめくってみる。
 面白い。
 中でも『ア〇のハコ』は続きが気になり、次の号を手に取っていた。
 最初は高校生のスポーツものかと思っていたが、途中で恋愛の比重が高くなってくる。主人公の彼と彼が片思いしている女の先輩と同居することになって……、というストーリーだ。
 同性とはいえ、自分も最近同居を始めたこともあり、“同居”という言葉に思わず反応してしまう。
 朝食を一緒に食べることさえも、特別に感じる主人公。
 俺も夢斗と一緒に朝食を食べているが、特別に感じる時期があったことが思い出せない。
 自然と二人で食べていたな……。
 いつの間にか読むスピードが落ちて、一コマ一コマ入念に読み込んでいた。
 マンガのシーンと自分の日常を比較していた。
 主人公の男子高校生と自分とでは、相手に対しての温度感が全く違う。
 マンガのような感情を夢斗には抱いたことがない。
 まあ、同性なのでこんなものだろう。
 なんと、マンガを1冊読み切った後、次、次、次、と無自覚にマンガのループに入り込んでいたらしい。
 片付けをするはずが、あっという間に20冊(ダンボール一箱分)のマンガを読み切っていた。
 2時間のロス……。
 俺としたことが。
「倫くん」
 夢斗が俺の名前を呼ぶ。
「なんだ?」
「やっと反応してくれた」
 夢斗があっけらかんとした笑顔を見せる。
「倫くん、マンガに没頭しちゃって声かけても反応ないから困ってたんだよ」
 なんてことだ。
 貴重な休日をマンガで潰してしまうとは。
 こんな無駄なことはない。
「倫くん、マンガ好きなんだね」
「いや、好きではない。普段は読まない」
「でも、ぼくの声も聞こえないほど集中してたよ」
「何かの間違いだ」
「ふうん」
 夢斗は俺がマンガに没頭している間、段ボールに入ったマンガを紐でくくっていたらしい。
「これも資源ごみに出すとするよ。ぼくはもう読まないから」
 えっ。
 すると、俺が読んでいたマンガの続きはもう紐で縛られてしまったのか?
「ゴミ置き場に持っていくね」
 夢斗がマンガを運び出そうとしている。
「ま、待ってくれ」
「えっ?!」
 夢斗が振り向く。
 顔が赤くなっているのがわかる。まともに夢斗の顔を見れない。
 マンガへの欲望は俺のプライドを粉々に砕いた。
 降参だ。
「……続きが読みたい……」
 俺は声を振り絞って夢斗に言った。
「えっ?!」
 夢斗は言葉が続かないほど驚いたようだが、その瞬間、笑顔で俺の元に駆け寄ってきた。
「倫くんでもそんなことあるんだ!」
 夢斗が茶化すような声を出し、嫌らしい目つきで俺をなめるように見ている。
「マンガからも学びがあることがわかったから、参考までにだ」
「ふぅん。もう縛っちゃったんだよね。読んでもいいけど、縛り直してゴミ置き場に持っていってくれる?」
「承知した」
「だったらいいよ」
 マンガに夢中になったのは十年ぶり、いや、それ以上かもしれない。
それから一週間、俺は暇さえあればジャンプを読みふけっていた。
全部で20箱。一箱20冊だから、400冊ということになる。
もちろん、興味のない作品は読み飛ばした。それでも、気になる作品の続きを追っているうちに、あっという間に時間が過ぎていった。
 ジャンプ20箱分は、資源ごみに出すことになった。
手つかずのダンボール箱、残29箱。