すてたい王子とためたい王子


 夢斗によると、倫くんは自分なりの価値観がしっかり確立されている感じだ。
 とにかく物がない部屋。
 床には何もなく、無駄のない部屋だそうだ。
 なんでも合理的に考える倫くんらしい。

 ちなみに、倫くんに聞いた話によると、彼のお姉さんも夢斗のように汚部屋の持ち主だったようだ。
 倫くんも相当ストレスが溜まっていたようで、お姉さんの話になると、早口で不満をまくしたてた。
 ダイニングテーブルには食べ終わった皿が残ったまま、リビングやソファには脱いだ服が散らばっていた。
 大学から戻ると、それらを片付けるのが倫くんの仕事だった。

 そんなお姉さんの生活から、倫くんは学んだらしい。
 物があるから掃除がしにくい。
 物があるから探し物が見つからない。
 物があるから空気が悪い。
 しかも、お姉さんは物を大切に扱っている様子がない。
 お姉さんは何かというと倫くんを呼び出し、毎回同じようなやり取りをしていたそうだ。
「私のピンクのキャミソール知らない?」
 ―――俺が知るわけないだろう!
「こないだ買ったグロスが見つからない!使いたいのに!!」
 ―――買ったことも知らないわ。俺に言うな!
「カラコン、先日買ったと思ったのにない。また買うか」
 ―――今月入って何回目だ?何個買えば済むんだよ!

「俺はあんな部屋には住みたくない」
 お姉さんとの生活が終わってホッとしたのもつかの間、今度は夢斗が大量の荷物を持って引っ越してきた。
 倫くんにしてみれば、まさにデジャヴだろう。

 倫くんはお姉さんにはできなかった、整理整頓を夢斗に求めたというわけだ。
 もともと倫くんが同居人を募集した部屋だ。夢斗としても、倫くんの決めたルールには逆らいにくいだろう。
 夢斗は大丈夫なんだろうか?
 そういえば、メガネが壊れる少し前のことだ。
 倫くんとの生活にも慣れてきたであろう先日、夢斗に様子を聞いてみた。
 倫くんは徹底している、と夢斗が言った。
「このままだと、ぼくの大切なものまで捨てられちゃうかも」と、泣きながら俺にすがってきた。
 俺は思わず夢斗の汚部屋を思い浮かべた。
 ほとんど捨てる物なんじゃ……。
 倫くんが険しい顔をして理詰めで夢斗に迫っている様子が浮かぶ。
 夢斗、ちょっとかわいそうかも。

 その後、別の日に倫くんと学食で会った時、改めて夢斗の様子を聞いてみた。
 倫くんはうんざりして、口を閉ざした。
「倫くん、大変なんだね。多分、倫くんの言っていることは正しいと思う。でも、その正しさを夢斗に押し付けないようにね」
 俺はやんわり倫くんに言った。
「俺、押し付けてるか?」
 倫くんは無自覚だったようだ。
 俺は微笑みながら「夢斗にも言い分はあると思うよ。聞いてあげてよ」と言った。