すてたい王子とためたい王子

「あともう一息だな」
「倫くん、ありがとう」
 夢斗が涙目になっている。
「あとは、この辺の箱をこっちに移動して……」
 18箱を部屋の入口付近に移動するべく、夢斗はせっせと働いている。
 汗だくになりながら、箱を動かしている夢斗を見ていたら、俺も手伝ってやろう、という気持ちが芽生えた。
 俺が箱を持ち上げて移動させようとしたところ、夢斗も同じことを考えていたらしい。
 互いに背中を向けたまま同時に箱を持ち上げ、背中同士がぶつかった。
 俺はバランスを崩し、持っている箱ごと前のめりに倒れた。
「あっ!」
「いたたた」
 夢斗も俺の背後で倒れたらしい。
「ごめん、倫くん」
 夢斗の声が近くで聞こえる。
 視界がぼやけている。
 手探りで顔にかかっているはずのメガネを確認するも、ない!
 メガネがない!
 膝をついて手探りでメガネを探す。
 俺はド近眼なので、30センチメートル以上遠くの物が見えない。
「俺のメガネがない。さっきぶつかった時、外れたようだ。探してくれ」
 夢斗に応援を頼む。
「わかった。今そっちに行く!」
 夢斗が俺の付近をうろうろしながらメガネを探す。
 その瞬間、嫌な音が小さく響いた。

 パリッ!

「おい、さっき変な音がしたぞ。まさか……」
「ごめんーーー」
 夢斗はブリッジが割れているメガネを掌にのせて渡した。
「お前―――!!」
「倫くん、ごめん。弁償するから!!この通り!」
「当たり前だ!」
 壊れたメガネを掛けてみるが、安定しない。
 直るまでスペアのメガネを掛けるしかないようだ。
 夢斗には裸眼の俺の姿が珍しく映ったようだ。
 夢斗が突然しゃがみ込み、俺の顔を両手で押さえた。
「倫くん、超絶美形だったんだ!」
 夢斗の目がキラキラと輝いている。
 不気味さを感じる。
 俺は夢斗の手を振りほどき、「やめろ!」と言った。
「ご、ごめん……」
「いきなり人の顔触るな」
「あまりにビックリして」
「……はぁ。俺は目立つのが嫌いなんだよ」
「だからメガネ……?」
「そう」
「ごめん」
 夢斗が顔の前で手を合わせ、申し訳なさそうにしている。
「もういい。あとは自分で片付けろ」
 目が見えない。ストレスだ。
 夢斗と関わるとロクなことがない。
 俺は夢斗の部屋を出ていった。