すてたい王子とためたい王子

「夕食でも作るか」
 静まり返ったキッチンに立つ。
 当たり前だった日常に、居心地の悪さを感じた。
 最近は俺が何かつぶやくと、夢斗が「なに?なに?」と駆けつけて、ちぐはぐな会話がはじまる。
 夢斗……。
 思わぬところで同居人を思い出し、迷いが生まれた。
 ヤツの分も作るべきなのか?と。
 食事について話し合っていなかったことに気づく。
 ヤツの分を作ったとしても、ありがた迷惑、という可能性もある。
 今回は自分の分だけにしよう。
 俺は冷蔵庫にある食材を確認し、卵、ハム、長ねぎでチャーハンを作った。
 
「いただきます」
 チャーハンを前に手を合わせる。
 スプーンで掬って一口入れては咀嚼する。
「美味い」
 言ってはみたが、声が虚しく響くだけだった。
 一人で食べる食事ってこんな感じだったかな。
 レシピ通りに味付けをしているのに、味気ない。
 さっきまでは腹が空いていたはずなのに、いざ食事を前にすると喉を通らなかった。
 夢斗が来てから、食事の時は目の前に夢斗がいた。
 たかだか1週間かそこらの話なのに……。
「はぁ」
 結局、半分ほど食べたところでスプーンを置いた。
 
 風呂から上がり、ソファでくつろぎながらスマホでニュースを見ていると、玄関が開く音がした。
 夢斗が帰ったのだろう。
 また騒がしくなるな。
 俺はスマホを眺めたまま、ヤツがリビングに来るのを待った。
 しかし、10分経っても夢斗は姿を見せなかった。
 少し心配になり、玄関に駆け付けた。

 目に入ったのは……。