6.遠のく足
いつも通り、コーヒーの缶を開ける。
カコンと小気味のいい音がして、缶の入り口から、茶色い液体がゆらゆらと揺れるのが見えた。
「秀一さん、コーヒー好きっすよね」
「好きっていうか、眠気覚まし」
「効果あるんですか?」
「申し訳程度には」
陽斗が、ふふっと笑った。
あの日から、秀一と陽斗は、よく話している。
秀一がコンビニに来るのは大抵親が寝静まったあとだし、陽斗が遅い時間までいるのもそれほど頻度が高いわけではない。
だから、毎日とまでは言わないが、まぁそれなりに高い頻度だった。
陽斗は秀一を見るとそっと体をずらして空間を開けてくれるし、秀一もそこに滑り込むことに抵抗がなかった。
「ていうか、陽斗くんてオシャレだよね。服、いつもどこで買ってるの?」
「どこって、いろいろですけど、秀一さんはどこで買うんですか?」
「決まったブランドでしか買わないなぁ」
自分から振ったくせに、ファッションに疎い秀一は、その話を上手に広げることもできずに、缶の入り口から茶色い液体を眺めた。
「じゃあ、今度一緒に買い物とか、行きます?」
「え?」
「お店、おすすめしますよ」
「え、ほんと?!」
食いついてから、あ、と思う。
秀一は休みの日を大抵、勉強して過ごしている。
突然秀一の行動が変わったことについて、親が何か言わないとは、思えなかった。
秀一の顔が曇ったのを察したのか、陽斗はバリカーの上で、気まずそうに体勢を変えた。
「あ、図書館に集合しましょう!」
「......それは、どういう?」
「秀一さん、バイクないですよね。図書館に集合して、そっから行きませんか?俺、迎えにいくんで」
彼は、思いついたように言った。
冷えたアイスティーがバリカーにぶつかった拍子に、秀一の手に小さな水滴が飛ぶ。
手についたそれがキラキラと光って見えて、秀一は思わず、返事をしていた。
「いいの?いいなら、行きたい!」
「もちろんです」
陽斗は、イタズラっぽく笑った。
ガチャン、と乱暴な音がして目をやると、今きたらしい十吾が、バイクのスタンドを乱雑に蹴り下ろしたところだった。
「おぉ、きたのか!」
「うん」
十吾は、ヘルメットのシールドをあげて、陽斗に返事をした。
「じゃあ、行こっか」
陽斗がいつものように席を立つ。
「......いや、いい」
そう言って、十吾はなぜか、秀一のことを見た。
ひどく、冷徹な目だった。
元々切れ長な目が、研ぎたての包丁のような鋭利さで突き刺さる。
なんだか、居心地が悪かった。
「いいって、どこいくの、この後」
「わかんない、けど、いい」
十吾は今あげたはずのシールドを下ろして、手際よく(正確には足際よく、か?)スタンドを蹴り上げた。
シールドに隠れる直前の彼の目に、寂しさを垣間見たような気がして腰を上げたけれど、十吾はそんな秀一に気がつくことなく、アクセルを捻った。
「あ、」
ただ立ち上がっただけになった秀一は、思わず、陽斗と目を合わせた。
「なんだあいつ」
「......さぁ」
次あったら話しかけてみよう、と思った。
けれど。
その日からしばらく、十吾の姿を見ることは、なかった。
いつも通り、コーヒーの缶を開ける。
カコンと小気味のいい音がして、缶の入り口から、茶色い液体がゆらゆらと揺れるのが見えた。
「秀一さん、コーヒー好きっすよね」
「好きっていうか、眠気覚まし」
「効果あるんですか?」
「申し訳程度には」
陽斗が、ふふっと笑った。
あの日から、秀一と陽斗は、よく話している。
秀一がコンビニに来るのは大抵親が寝静まったあとだし、陽斗が遅い時間までいるのもそれほど頻度が高いわけではない。
だから、毎日とまでは言わないが、まぁそれなりに高い頻度だった。
陽斗は秀一を見るとそっと体をずらして空間を開けてくれるし、秀一もそこに滑り込むことに抵抗がなかった。
「ていうか、陽斗くんてオシャレだよね。服、いつもどこで買ってるの?」
「どこって、いろいろですけど、秀一さんはどこで買うんですか?」
「決まったブランドでしか買わないなぁ」
自分から振ったくせに、ファッションに疎い秀一は、その話を上手に広げることもできずに、缶の入り口から茶色い液体を眺めた。
「じゃあ、今度一緒に買い物とか、行きます?」
「え?」
「お店、おすすめしますよ」
「え、ほんと?!」
食いついてから、あ、と思う。
秀一は休みの日を大抵、勉強して過ごしている。
突然秀一の行動が変わったことについて、親が何か言わないとは、思えなかった。
秀一の顔が曇ったのを察したのか、陽斗はバリカーの上で、気まずそうに体勢を変えた。
「あ、図書館に集合しましょう!」
「......それは、どういう?」
「秀一さん、バイクないですよね。図書館に集合して、そっから行きませんか?俺、迎えにいくんで」
彼は、思いついたように言った。
冷えたアイスティーがバリカーにぶつかった拍子に、秀一の手に小さな水滴が飛ぶ。
手についたそれがキラキラと光って見えて、秀一は思わず、返事をしていた。
「いいの?いいなら、行きたい!」
「もちろんです」
陽斗は、イタズラっぽく笑った。
ガチャン、と乱暴な音がして目をやると、今きたらしい十吾が、バイクのスタンドを乱雑に蹴り下ろしたところだった。
「おぉ、きたのか!」
「うん」
十吾は、ヘルメットのシールドをあげて、陽斗に返事をした。
「じゃあ、行こっか」
陽斗がいつものように席を立つ。
「......いや、いい」
そう言って、十吾はなぜか、秀一のことを見た。
ひどく、冷徹な目だった。
元々切れ長な目が、研ぎたての包丁のような鋭利さで突き刺さる。
なんだか、居心地が悪かった。
「いいって、どこいくの、この後」
「わかんない、けど、いい」
十吾は今あげたはずのシールドを下ろして、手際よく(正確には足際よく、か?)スタンドを蹴り上げた。
シールドに隠れる直前の彼の目に、寂しさを垣間見たような気がして腰を上げたけれど、十吾はそんな秀一に気がつくことなく、アクセルを捻った。
「あ、」
ただ立ち上がっただけになった秀一は、思わず、陽斗と目を合わせた。
「なんだあいつ」
「......さぁ」
次あったら話しかけてみよう、と思った。
けれど。
その日からしばらく、十吾の姿を見ることは、なかった。
