コンビニで買える恋


5.田上陽斗





「あ、」
「あ、」
「どうも」
「どうも」

十吾がいるかもな、と思いながら向かった深夜のコンビニで見つけたのは、十吾の友人の方だった。

「先日は、十吾がお世話になりました」
「あ、いえ」

彼は、人懐っこい顔で笑って見せた。
名前を、田上陽斗(たのうえはると)というらしい。

十吾とは小学校の頃からの幼馴染なのだという。

「十吾は人見知りなので、コンビニで仲良くなった人と話してるの、びっくりしました」
「最初はまぁ、ちょっと怖かったけど、意外によく笑うタイプなんだね」
「仲良くなると、割とそうですね」

陽斗は、少しだけ体を動かして、寄りかかっていた車止めのバリカーの、右側を開けた。

それが自分のために開けられたものだと理解して、秀一もそこに寄りかかる。

よく十吾がしゃがみ込んでいる場所だ。
ここからは、月がよく見えた。

「何がきっかけだったんですか?二人が、仲良くなったのは」
「なにって......」

秀一は、陽斗をチラリと見た。

『酒を買ってくれ』と言われたと知ったら、彼はどんな顔をするだろうか。

秀一よりも遥かに事情を知っていそうな彼なら、そんなこともあると、すんなり受け入れるのだろうか。

それとも、友人を心配して、腹を立てるだろうか。

秀一はしばらく考えてから、自分の行動が彼らの関係に及ぼす影響を恐れて、無難な答えを選んだ。

「僕が落とした学生証、拾ってくれて」
「あぁ」

彼は、すんなりと受け入れた。

やはり十吾は、日頃からそういうことをしそうなタイプなのだろう。

「二人は?クラスが一緒だったの?」

陽斗が差し出したクッキーをつまみながら、秀一も彼に聞き返した。

「いや、」

彼は、特徴的なアーモンドアイを少し伏せて、昔を思い出すように道路の方へ目をやった。

「違うクラスだったんですけど、公園で会うようになって......」
「放課後?」
「はい。最初俺は、友達と約束して数日に一回いくくらいだったんですけど、あいつは、いっつもいたんですよね。一人で」
「一人で......」
「なんていうか、あの頃のあいつ、細くて小さくて。やることもなさそうにぼんやりしてたから、そのうち誘って遊んだりするようになって」
「それが今も続いてる......と」
「まぁ、そんなとこです」

陽斗は頷いて、手元のクッキーを齧った。

割と大きなかけらが落ちたけれど、気づいている様子はない。

もはやクッキーを齧ったことさえ、意識の外にあるみたいだった。

「で、今も高校は違うんですけど、放課後はこうやって過ごしてるって感じです。まぁ、うちは親うるさいんで、毎日とかは無理なんですけど」

彼はいつも寂しそうな幼馴染のことを、心から心配しているようだった。

親に多少怒られても一緒にいるという選択は、きっと、秀一にはできない。

純粋に、すごいと思った。

「だからなんかちょっと、嬉しかったっす」
「なにが?」
「秀一さんと喋ってたの」
「え?」
「俺はいれても、10時までとかなんで。その後十吾が誰かと話したりできてんだなって思ったら、よかったなって」

彼は、花が綻ぶように笑った。
秀一も、よかったな、と思う。

秀一の知らない時間にも、十吾のことを大切に考えてくれる人がいる。

やはりあの時、ビールを買ったりしなくてよかった、と思った。

「あ、秀一さん、クッキー」
「え、」

陽斗が、口にクッキーのかけらがついていることを知らせてくれる。手を伸ばしたけれど、自分ではどこにあるのかよくわからない。

「こっちです、こっち」

あまりにも小さいそれを掴むのは難しくて、結局、秀一は口の周りの大部分を払う。

陽斗はその様を、なんだか嬉しそうに見ていた。

そのこどもを見るような視線がひどく恥ずかしくて、秀一は少し、陽斗を睨んだ。

「おい、」

十吾の声が響いて、陽斗の視線が離れる。

もうないだろうかともう一度頬を払ってから、秀一も十吾の方へ視線を向けた。

「なに話してんの?」
「別に、なんでも。じゃ、秀一さん、また」

陽斗はヒラリと手を振って、自分のバイクに跨った。

十吾が真っ直ぐに秀一を見る。
その目は黒々としていて、いつもより幾分か、強く見えた。

「なに、話してたの?」
「......いや、本当に大した話じゃないよ」
「......あっそ」

十吾は強い目を伏せ、それを隠すみたいに、ヘルメットのシールドを下げた。

ブゥン、軽快な音を立て、2台のバイクが夜の闇に消えていく。

なぜだかなにも買う気が起きなくて、秀一はそのまま帰路についた。