「助けてください。お願いします」
昼食もそこそこに、陽翔は悲痛な顔で訴えた。
陽翔がこんなことになっているのは再来週に迫った期末テストのせいだ。
陽翔は10月に実施された中間テストの成績がかなり悪かったらしい。
だから、今回のテストも出来が悪ければスタメンから外すと顧問に脅されたそうだ。
「一緒に勉強しよ!お願い」
陽翔は上目遣いで俺をじっと見る。
俺の高校ではテスト2週間前からがテスト週間となっている。
また、テスト1週間前になれば部活が全面的に禁止される。
陽翔はその部活禁止期間の放課後を利用して、一緒に勉強をしようというのだった。
陽翔は赤点こそ取らないものの、成績は下から数えたほうが早い。
対する俺は平均かそれより少し上くらい。
確かに俺の方が成績はいいのだが、いつも苦手教科の数学は赤点ギリギリ。
ただそれを他の教科でそれをカバーしているだけだ。
これといって得意な教科もないし、人に教えるのも苦手なので一緒に勉強したところで大して力にはなれないと思うのだが……
陽翔があまりに切実に頼むので、俺は断ることができなかった。
勉強会当日。
放課後、陽翔との約束通り7組の教室を訪れるとそこに陽翔の姿は無かった。
代わりに窓際の席で机に向かう永井の姿があった。
「あれ、陽翔は?」
俺が声を掛けると、永井は古典の問題集を解く手を止めて答えた。
「日直の仕事しに行った。すぐ戻るって」
「そっか」
今日の勉強会には永井も参加するらしい。
昨日陽翔から連絡が来ていた。
俺は永井の隣の席に腰を下ろして、リュックから数学の問題集とノートを取り出す。
いざ問題集を解こうとノートを広げた時、永井が遠慮がちに声を掛けてきた。
「これ」
そう言って永井は俺に手のひらサイズの小さな封筒を手渡した。
「なにこれ。開けていいの?」
永井が頷いたので、俺は恐る恐る封を破る。
「これ!」
中から出てきたのは、コーン署長のクリアカードだった。
これは、この間発売された『ベジデカ』のウエハースについてくるカード。
コーン署長は確かシークレットだったような……
「貰っていいの?」
「あげる。見かけてたまたま買ったら、それ出たから」
「ほんとにいいの?だって妹さんだって『ベジデカ』好きなんだよね?」
「それ、あいつが好きなキャラじゃないし。それに箱単位で買ってたから、言えばそのキャラくれると思う」
「それはいいって。これで十分。ありがたく頂戴します。じゃあ、何食べたいか考えといて」
「はいはい」
少し前から永井は『ベジデカ』のグッズを気まぐれに買っては、コーン署長が出ると俺にくれるようになった。
だからこうしてグッズを貰った後はお礼もかねて永井とご飯を食べに行く。
そんな流れが俺達の間で定番化しつつあった。
俺、ずいぶん永井と仲良くなったな……
こんなに仲良くなれるなんて、初めて会ったときは思ってもいなかった。
修学旅行のあの日。
俺は永井に自分がエスパーであることを明かしてもいいかもしれないと思った。
でも、今では。
俺もエスパーだって言わないと。
意志は確固たるものに形を変えていた。
だから、このテストが終わったら言う。
期日を決めないと、きっと俺はだらだらと先延ばしにするだろうから。
俺は密かに誓いを立てると、ポケットから携帯を取り出して付いているケースを外した。
そして、むき出しになった携帯の背面に永井がくれたカードを置く。
そして再び携帯にケースを装着する。
『ベジデカ』のグッズを持ち歩く。
こんなこと普段なら絶対にしない。
これは俺の誓いの証だ。
ガラガラと教室のドアが開く音がした。
きっと陽翔が日直の仕事を終えて戻ってきたのだ。パタパタという足音はどんどんこちらに近づいてきている。
俺はコーン署長のカードをもう一度確かめるように見てから携帯をポケットに滑り込ませる。
それと同時に足音がピタリと止んだ。
俺が顔を上げるとそこには陽翔と意外な人物の姿があった。
「陸?なんで?」
自分でも驚くほど間抜けな声が出た。
「さっき小林と職員室で会ってさ、誘ってもらった」
「彼は優秀ですからね。ぜひ参加してもらおうと思いまして」
陽翔が得意げに言えば、陸は困った表情を浮かべた。
「いや、そんなことないって」
「またまた。文武両道の化身が何を言うか。相変わらず全教科90点代キープしてるくせに」
意外な事実だ。
俺は秀才と聞くとどうしても、落ち着いていて知的な人物を想像してしまう。
陸には悪いが、陸は全くそういう風に見えないというか……
「そんなに意外って顔されると、ちょっと傷つくんだけど」
陸はしくしくと自分で効果音を付けた泣きまねをする。
「あのさ……」
俺達の様子を見ていた陽翔が神妙な顔つきで言った。
「修学旅行の時からうっすら思ってたけど、なんか急に仲良くなってない?祐希いつのまにか呼び捨てで呼んでるし」
陽翔は言い終えるとまるで子供のように頬を膨らませた。
陸はそんな陽翔をあおるように俺の肩を抱く。
「もともと仲良しですけどー?」
「なんか腹立つー」
陽翔は恨めしそうに陸を見る。
そうすれば、陸は俺の肩を抱く力を強め、これ見よがしにアピールする。
「そろそろやんない?」
呆れた声で言ったのは永井だった。
確かにふざけている場合ではない。
もうテストまでは1週間を切っている。
俺たちは黙って前後の座席が向かい合うように、机と椅子を移動させる。
俺は陽翔と永井は前田と向かい合うような形で席に着くと、各々勉強に取り掛かった。
「解けた……」
「お、いいじゃん小泉。じゃあ、こっちもその応用で……」
数分前、数学のワークを進めていた陽翔が問題が解けないと言って陸に声をかけた。
陸は俺たちの邪魔にならないように声を潜めて説明を始めたが、それでも俺達以外に教室に人はいないのだから声はかすかに聞こえてくる。
ちょうど俺も数学のワークを進めていたので、その声に耳を澄ませていた。
どうやら。陸が解説している問題は俺が今まさしく頭を悩ませている問題らしい。
話に割り込むのもどうかとは思ったが葛藤の末、俺にも教えてほしい。と伝えると陸は快くまた初めから解説をしてくれた。
それから、便乗するようにして他の分かない問題も陸に教えてもらっていたのだが、これはすごい。
陸は教えるのが抜群に上手く、回答集を見ても訳が分からず理解することを放棄した問題が残らず解けてしまった。
「ありがとう。全部解けた」
「ならよかった」
「俺もこれ教えてー」
俺の質問が終わるのを待っていたのか、陽翔が陸を呼ぶ。
「オッケー。小泉あとは大丈夫そ?」
「大丈夫。ありがと」
陸はにこりと笑うと、すぐさま陽翔の傍に移動する。
そして、真剣な顔で問題の解説を始めていた。
陸のおかげで、今日進めようと思っていた範囲よりも先まで問題集を解いてしまった。
ちょうど、区切りもいい。
俺は目をつぶって大きく伸びをする。
「あ、ごめん」
俺が腕を横に広げすぎたせいで、永井の肩に俺の手が当たってしまった。
「別に。俺も休憩してたから」
「そっか……」
集中を乱したかもしれないと思ったが、大丈夫そうで安心した。
でも……。
俺はあることが気がかりだった。
最終下校時刻の放送で勉強会はお開きになった。
その帰り道、駅に向かう道中で陸が突然真剣な顔で言った。
「やっぱ、永井だよな?」
「そうだけど」
「やっぱ。だよな」
俺と陽翔にはこの会話の意味が全く分からなかったが、聞けば二人は中学の同級生で、同じバスケ部に所属していたそうだ。
「えー、一颯がバスケか……。想像つかない。中学の一颯ってどんなだった?」
陽翔の問いに陸はうーんと唸り、やや考えてからしみじみと言った。
「めちゃくちゃモテてた」
「だろうね。いや、そうじゃなくて。もっとこうなんか、バスケ部の時のエピソードとかさ」
「あー、色々競ってたな。最初は試合の得点数だったけど、テストの点数とか100m走のタイムとかも競うようになって」
永井はいつも冷静沈着。
誰かと競って熱くなる姿なんて全く想像ができない。
きっと陽翔もそう思ったのか、俺たちは2人そろって感嘆の声を漏らした。
「いや、そっちが勝手に勝負してただけでしょ」
「まあ、確かに当時はモテすぎる永井に嫉妬して、負かしたやりたいって躍起になってたのは認める。でも途中から永井も結構ノリノリだったよな?」
「はあ?そんなことないけど」
永井はいかにも不愉快だという声で言うと、眉間に皺を寄せた。
まるで子供同士の喧嘩。
2人のやり取りを見て俺と陽翔は思わず笑ってしまった。
「はー、おっかし。二人ともめっちゃ仲いいじゃん。逆に今まで、なんでそんな初対面みたいな雰囲気だったのか謎」
確かにそれは俺も不思議に思っていた。
さっきのやり取りからすれば、永井と陸はかなり親しかったようだ。
なのに、今までお互いがそっけない態度を取っていたのには何か理由があるとしか思えなかった。
「いや、部活引退してからは関わること減ってさ。で、会っても永井なんかよそよそしいし。それであんま話さなくなったから。昔のノリで話すのもどうかと思って」
陸の口から語られたのはごくありふれた理由だった。
「部活の人間関係なんてそんなもんでしょ」
「一颯ってば冷たー」
「だよな?小泉もそう思わねぇ?」
確かに薄情と言われればそうかもしれないが、俺も永井側の人間だ。
関わりが減った途端に他人行儀な態度を取る。
心当たりは多すぎるほどある。
だから、俺は陸の考えには同調できなくて曖昧な返事をした。
「まあ、あん時は俺も彼女できたばっかで浮かれてたし。ウザがられても当然だったかもな」
陸は冗談のつもりで言ったようだったが、その言葉に永井はビクリと体をこわばらせた。
「え、まじ?やきもち?。なんだ、永井も可愛いとこあんじゃん」
笑いながら陸は永井の肩を小突き、陽翔もやいのやいの野次を飛ばす。
そんな2人をうっとおしそうな目で見ながらも、心から嫌がっているわけではなさそうな永井。
はたから見れば、陸と永井のわだかまりがほどけ、2人の関係修復が叶った喜ばしい光景なのだろうが、俺は笑えなかった。
(ずるい)
手が当たってしまったとき、俺が聞いた永井の心の声だ。
俺はずっとこの言葉が気がかりだった。
永井はあの時、陽翔と陸を見ていた。
だから、教えてほしい問題があるなら言えばいいのに。
なんで、黙ってるんだろう。
せっかくの勉強会なのにもったいない。
俺はそう思っていた。
けれど、今なら分かる。
永井と陸は昔は仲が良かったのに疎遠になった。
疎遠になったのは、相手に恋人ができたからで。
永井が陸を避けるようになった。
だから、永井は問題を教えてほしかったわけじゃない。
陸と陽翔の距離に嫉妬していたんだ。
あの時は、陸と陽翔は2人で1つの問題集を見ていたからかなり距離が近かった。
これらの事柄から導き出される答えは……
永井は陸の事が好きだった。というか今も好き。
そうとしか考えられなかった。
昼食もそこそこに、陽翔は悲痛な顔で訴えた。
陽翔がこんなことになっているのは再来週に迫った期末テストのせいだ。
陽翔は10月に実施された中間テストの成績がかなり悪かったらしい。
だから、今回のテストも出来が悪ければスタメンから外すと顧問に脅されたそうだ。
「一緒に勉強しよ!お願い」
陽翔は上目遣いで俺をじっと見る。
俺の高校ではテスト2週間前からがテスト週間となっている。
また、テスト1週間前になれば部活が全面的に禁止される。
陽翔はその部活禁止期間の放課後を利用して、一緒に勉強をしようというのだった。
陽翔は赤点こそ取らないものの、成績は下から数えたほうが早い。
対する俺は平均かそれより少し上くらい。
確かに俺の方が成績はいいのだが、いつも苦手教科の数学は赤点ギリギリ。
ただそれを他の教科でそれをカバーしているだけだ。
これといって得意な教科もないし、人に教えるのも苦手なので一緒に勉強したところで大して力にはなれないと思うのだが……
陽翔があまりに切実に頼むので、俺は断ることができなかった。
勉強会当日。
放課後、陽翔との約束通り7組の教室を訪れるとそこに陽翔の姿は無かった。
代わりに窓際の席で机に向かう永井の姿があった。
「あれ、陽翔は?」
俺が声を掛けると、永井は古典の問題集を解く手を止めて答えた。
「日直の仕事しに行った。すぐ戻るって」
「そっか」
今日の勉強会には永井も参加するらしい。
昨日陽翔から連絡が来ていた。
俺は永井の隣の席に腰を下ろして、リュックから数学の問題集とノートを取り出す。
いざ問題集を解こうとノートを広げた時、永井が遠慮がちに声を掛けてきた。
「これ」
そう言って永井は俺に手のひらサイズの小さな封筒を手渡した。
「なにこれ。開けていいの?」
永井が頷いたので、俺は恐る恐る封を破る。
「これ!」
中から出てきたのは、コーン署長のクリアカードだった。
これは、この間発売された『ベジデカ』のウエハースについてくるカード。
コーン署長は確かシークレットだったような……
「貰っていいの?」
「あげる。見かけてたまたま買ったら、それ出たから」
「ほんとにいいの?だって妹さんだって『ベジデカ』好きなんだよね?」
「それ、あいつが好きなキャラじゃないし。それに箱単位で買ってたから、言えばそのキャラくれると思う」
「それはいいって。これで十分。ありがたく頂戴します。じゃあ、何食べたいか考えといて」
「はいはい」
少し前から永井は『ベジデカ』のグッズを気まぐれに買っては、コーン署長が出ると俺にくれるようになった。
だからこうしてグッズを貰った後はお礼もかねて永井とご飯を食べに行く。
そんな流れが俺達の間で定番化しつつあった。
俺、ずいぶん永井と仲良くなったな……
こんなに仲良くなれるなんて、初めて会ったときは思ってもいなかった。
修学旅行のあの日。
俺は永井に自分がエスパーであることを明かしてもいいかもしれないと思った。
でも、今では。
俺もエスパーだって言わないと。
意志は確固たるものに形を変えていた。
だから、このテストが終わったら言う。
期日を決めないと、きっと俺はだらだらと先延ばしにするだろうから。
俺は密かに誓いを立てると、ポケットから携帯を取り出して付いているケースを外した。
そして、むき出しになった携帯の背面に永井がくれたカードを置く。
そして再び携帯にケースを装着する。
『ベジデカ』のグッズを持ち歩く。
こんなこと普段なら絶対にしない。
これは俺の誓いの証だ。
ガラガラと教室のドアが開く音がした。
きっと陽翔が日直の仕事を終えて戻ってきたのだ。パタパタという足音はどんどんこちらに近づいてきている。
俺はコーン署長のカードをもう一度確かめるように見てから携帯をポケットに滑り込ませる。
それと同時に足音がピタリと止んだ。
俺が顔を上げるとそこには陽翔と意外な人物の姿があった。
「陸?なんで?」
自分でも驚くほど間抜けな声が出た。
「さっき小林と職員室で会ってさ、誘ってもらった」
「彼は優秀ですからね。ぜひ参加してもらおうと思いまして」
陽翔が得意げに言えば、陸は困った表情を浮かべた。
「いや、そんなことないって」
「またまた。文武両道の化身が何を言うか。相変わらず全教科90点代キープしてるくせに」
意外な事実だ。
俺は秀才と聞くとどうしても、落ち着いていて知的な人物を想像してしまう。
陸には悪いが、陸は全くそういう風に見えないというか……
「そんなに意外って顔されると、ちょっと傷つくんだけど」
陸はしくしくと自分で効果音を付けた泣きまねをする。
「あのさ……」
俺達の様子を見ていた陽翔が神妙な顔つきで言った。
「修学旅行の時からうっすら思ってたけど、なんか急に仲良くなってない?祐希いつのまにか呼び捨てで呼んでるし」
陽翔は言い終えるとまるで子供のように頬を膨らませた。
陸はそんな陽翔をあおるように俺の肩を抱く。
「もともと仲良しですけどー?」
「なんか腹立つー」
陽翔は恨めしそうに陸を見る。
そうすれば、陸は俺の肩を抱く力を強め、これ見よがしにアピールする。
「そろそろやんない?」
呆れた声で言ったのは永井だった。
確かにふざけている場合ではない。
もうテストまでは1週間を切っている。
俺たちは黙って前後の座席が向かい合うように、机と椅子を移動させる。
俺は陽翔と永井は前田と向かい合うような形で席に着くと、各々勉強に取り掛かった。
「解けた……」
「お、いいじゃん小泉。じゃあ、こっちもその応用で……」
数分前、数学のワークを進めていた陽翔が問題が解けないと言って陸に声をかけた。
陸は俺たちの邪魔にならないように声を潜めて説明を始めたが、それでも俺達以外に教室に人はいないのだから声はかすかに聞こえてくる。
ちょうど俺も数学のワークを進めていたので、その声に耳を澄ませていた。
どうやら。陸が解説している問題は俺が今まさしく頭を悩ませている問題らしい。
話に割り込むのもどうかとは思ったが葛藤の末、俺にも教えてほしい。と伝えると陸は快くまた初めから解説をしてくれた。
それから、便乗するようにして他の分かない問題も陸に教えてもらっていたのだが、これはすごい。
陸は教えるのが抜群に上手く、回答集を見ても訳が分からず理解することを放棄した問題が残らず解けてしまった。
「ありがとう。全部解けた」
「ならよかった」
「俺もこれ教えてー」
俺の質問が終わるのを待っていたのか、陽翔が陸を呼ぶ。
「オッケー。小泉あとは大丈夫そ?」
「大丈夫。ありがと」
陸はにこりと笑うと、すぐさま陽翔の傍に移動する。
そして、真剣な顔で問題の解説を始めていた。
陸のおかげで、今日進めようと思っていた範囲よりも先まで問題集を解いてしまった。
ちょうど、区切りもいい。
俺は目をつぶって大きく伸びをする。
「あ、ごめん」
俺が腕を横に広げすぎたせいで、永井の肩に俺の手が当たってしまった。
「別に。俺も休憩してたから」
「そっか……」
集中を乱したかもしれないと思ったが、大丈夫そうで安心した。
でも……。
俺はあることが気がかりだった。
最終下校時刻の放送で勉強会はお開きになった。
その帰り道、駅に向かう道中で陸が突然真剣な顔で言った。
「やっぱ、永井だよな?」
「そうだけど」
「やっぱ。だよな」
俺と陽翔にはこの会話の意味が全く分からなかったが、聞けば二人は中学の同級生で、同じバスケ部に所属していたそうだ。
「えー、一颯がバスケか……。想像つかない。中学の一颯ってどんなだった?」
陽翔の問いに陸はうーんと唸り、やや考えてからしみじみと言った。
「めちゃくちゃモテてた」
「だろうね。いや、そうじゃなくて。もっとこうなんか、バスケ部の時のエピソードとかさ」
「あー、色々競ってたな。最初は試合の得点数だったけど、テストの点数とか100m走のタイムとかも競うようになって」
永井はいつも冷静沈着。
誰かと競って熱くなる姿なんて全く想像ができない。
きっと陽翔もそう思ったのか、俺たちは2人そろって感嘆の声を漏らした。
「いや、そっちが勝手に勝負してただけでしょ」
「まあ、確かに当時はモテすぎる永井に嫉妬して、負かしたやりたいって躍起になってたのは認める。でも途中から永井も結構ノリノリだったよな?」
「はあ?そんなことないけど」
永井はいかにも不愉快だという声で言うと、眉間に皺を寄せた。
まるで子供同士の喧嘩。
2人のやり取りを見て俺と陽翔は思わず笑ってしまった。
「はー、おっかし。二人ともめっちゃ仲いいじゃん。逆に今まで、なんでそんな初対面みたいな雰囲気だったのか謎」
確かにそれは俺も不思議に思っていた。
さっきのやり取りからすれば、永井と陸はかなり親しかったようだ。
なのに、今までお互いがそっけない態度を取っていたのには何か理由があるとしか思えなかった。
「いや、部活引退してからは関わること減ってさ。で、会っても永井なんかよそよそしいし。それであんま話さなくなったから。昔のノリで話すのもどうかと思って」
陸の口から語られたのはごくありふれた理由だった。
「部活の人間関係なんてそんなもんでしょ」
「一颯ってば冷たー」
「だよな?小泉もそう思わねぇ?」
確かに薄情と言われればそうかもしれないが、俺も永井側の人間だ。
関わりが減った途端に他人行儀な態度を取る。
心当たりは多すぎるほどある。
だから、俺は陸の考えには同調できなくて曖昧な返事をした。
「まあ、あん時は俺も彼女できたばっかで浮かれてたし。ウザがられても当然だったかもな」
陸は冗談のつもりで言ったようだったが、その言葉に永井はビクリと体をこわばらせた。
「え、まじ?やきもち?。なんだ、永井も可愛いとこあんじゃん」
笑いながら陸は永井の肩を小突き、陽翔もやいのやいの野次を飛ばす。
そんな2人をうっとおしそうな目で見ながらも、心から嫌がっているわけではなさそうな永井。
はたから見れば、陸と永井のわだかまりがほどけ、2人の関係修復が叶った喜ばしい光景なのだろうが、俺は笑えなかった。
(ずるい)
手が当たってしまったとき、俺が聞いた永井の心の声だ。
俺はずっとこの言葉が気がかりだった。
永井はあの時、陽翔と陸を見ていた。
だから、教えてほしい問題があるなら言えばいいのに。
なんで、黙ってるんだろう。
せっかくの勉強会なのにもったいない。
俺はそう思っていた。
けれど、今なら分かる。
永井と陸は昔は仲が良かったのに疎遠になった。
疎遠になったのは、相手に恋人ができたからで。
永井が陸を避けるようになった。
だから、永井は問題を教えてほしかったわけじゃない。
陸と陽翔の距離に嫉妬していたんだ。
あの時は、陸と陽翔は2人で1つの問題集を見ていたからかなり距離が近かった。
これらの事柄から導き出される答えは……
永井は陸の事が好きだった。というか今も好き。
そうとしか考えられなかった。
