最近はずっと一人きりだったバス停までの道を、今日は2人で並んで歩く。
バス通学のため、最寄のバス停まで20分ほど毎日歩いている。学校のある場所は、路線バスが走る国道から2キロ近く距離が離れている。そのため、部活帰りの薄暗い道を1人で歩くと、何となく早足になってしまう。でも、今日は逆にゆっくりと進む。横を歩いている薫は自転車通学であるため、隣で黒いママチャリを押して歩いている。
「部活、こんな時間までやってるんだ。弱いのに」
校門から少し離れた場所で薫が口を開いた。
「最後の大会が近いからなあ。もう引退したら一生バスケしないかも知れないし、みんなマジになってるよ。それと、勘違いしてるみたいだけど、弱いんじゃなくて、負けてやってるんだよ」
「ふうん」
こうして直接言葉を交わすのは初めてだけど、朝までずっと話しをしていたためか、全く違和感なく会話が続いていく。薫が彼女だという実感はないけれど、それでも、2人きりの空間が穏やかであることが奇跡のように感じた。
「動画サイトにね、好きな曲を集めたチャンネルを作っているんだ。勝手に動画を集めているだけだから、誰も登録している人はいないし、誰にも教えてないんだけどね」
薫が立ち止まり、下から顔を覗き込んでくる。
「特別に、チャンネル名を教えてあげようか?」
それ、反則だろ。
「ほう、そうか、そうか。どうしてもって言うなら、チャンネル名を聞いてやってもいいぞ」
「はあ?教えないし」
薫がわざとらしく、怒った素振りで視線を逸らした。その様子を見て、思わず表情を崩してしまう。
バスに乗る直前になり、小悪魔的な笑みを浮かべた薫が、ようやくアカウントとチャンネルの名前を教えてくれた。中途半端に席が埋まっている路線バスに乗車し、自転車のハンドルを握っている薫に手を振る。発車したバスの乗車時間は40分程度。いつもは軽く寝ているか、何となく外を眺めているが、今日は薫がお気に入りの曲を集めたチャンネルにアクセスする。耳に突っ込んだイヤホンから流れてくる曲は、予想通り1980年代の洋楽だった。
>帰ったら教えてね。
SNS経由でメッセージが届き、それを見て思わず顔が緩む。思えば、最近は周囲に彼女ができて、誰も相手にしていくれない時間が増えていた。メッセージが届くだけでも、気に掛けてもらえているようで少し嬉しい。
バスに揺られること40分。最寄のバス停で下車する。バス停から自宅までの距離は3百メートルほどしかない。ちょっと早足で歩くと、3分以内に到着することが可能だ。今日は小学生のとき以来、その道のりを全力で走って玄関に飛び込んだ。
>ただいま。無事に帰宅したよ。
>おかえり。アタシはポッキー食べながらメッセージ待ってた。
玄関でクツを脱ぎ、洗面台に向かっている途中で折り返されるメッセージ。男同士の連絡なんて既読スルーは当たり前で、返事が翌日なんてことも普通にある。女友達がいないことはないけれど、優先順位が低いのか、平気で2時間は待たされる。最悪の場合、そのまま忘れ去られる。
一応、学校で顔を洗ってはいるものの、帰宅後もザバザバと水を浴びる。ベタベタすると気持ち悪いし、吹き出物ができると面倒臭いからだ。ついでに制服のシャツと靴下を洗濯カゴに投げ込み2階の自室へと向かう。
「あと30分くらいで晩ご飯だから、先に風呂入りなさい」
「ほーい」
ダイニングから響く母親の声に返事をし、階段を上がって2階の自室に入るとリュックを机の横に置いて床に腰を下ろした。薫に返事をしていないことに気付きスマホの画面を覗き込むと、未読のメッセージが5件表示されている。タップしようとした瞬間、追加のメッセージが届いた。
>ごめん、ごめん。顔を洗ったりしてたんだ。
>ホントに?いきなり返事がなくなったら不安になるじゃん。
>マジ、ごめん。今から風呂入って、晩飯だから10時くらいになったら大丈夫だよ思う。
>うん、分かった。じゃあ、10時にねー
新鮮な気分だ。
男同士のメッセージなんて「明日の朝練ナシね」とか「テスト範囲教えてくれ」とか、90パーセント以上が事務連絡で2往復もすれば終了する。何となく会話の続けるなんてことはない。特に頼み、頼まれることもない。伝達事項も他の誰かに伝える必要もないメッセージとか、お互いの気持ちを交換するやり取りだけだとか、無意味だと思っていたことの大切さを思い知らされた。
今日中にしなければならないことを終え、22時に自室のベッドに寝転ぶ。
スマホを片手に薫に向けてメッセージを入力していると、先にメッセージの着信をしらせるアナウンスが表示された。
>ベッドの上に寝転んでるよ。ちなみに、こんな感じ。
送られてきたメッセージに、上下ピンクのスウェット姿の薫がピースサインで笑っている画像が添付されていた。完全にスッピンの薫は少し幼く見えるが、そのあどけなさの破壊力が半端ない。
余りの可愛さに悶絶していると、リアクションがないことに焦ったのか薫から連続でメッセージが届いた。
>もしかして、スッピンがヤバイ?
>・・・ダメ?
>消して、それ、今すぐ消して!!お願い!!
>ブサイクでごめん。死にたい・・・今すぐ死ぬ。
闇落ちしていく薫の様子に、今度はこちらが焦る。
>あ、ごめん、違うんだ。その反対だよ。あまりに可愛くて意識を失ってただけ。マジで!!
>ホントに?
>ガチで。
>それなら良かったー
その後、くだらないメッセージのやり取りを、寝落ちするまで続けた。
バス通学のため、最寄のバス停まで20分ほど毎日歩いている。学校のある場所は、路線バスが走る国道から2キロ近く距離が離れている。そのため、部活帰りの薄暗い道を1人で歩くと、何となく早足になってしまう。でも、今日は逆にゆっくりと進む。横を歩いている薫は自転車通学であるため、隣で黒いママチャリを押して歩いている。
「部活、こんな時間までやってるんだ。弱いのに」
校門から少し離れた場所で薫が口を開いた。
「最後の大会が近いからなあ。もう引退したら一生バスケしないかも知れないし、みんなマジになってるよ。それと、勘違いしてるみたいだけど、弱いんじゃなくて、負けてやってるんだよ」
「ふうん」
こうして直接言葉を交わすのは初めてだけど、朝までずっと話しをしていたためか、全く違和感なく会話が続いていく。薫が彼女だという実感はないけれど、それでも、2人きりの空間が穏やかであることが奇跡のように感じた。
「動画サイトにね、好きな曲を集めたチャンネルを作っているんだ。勝手に動画を集めているだけだから、誰も登録している人はいないし、誰にも教えてないんだけどね」
薫が立ち止まり、下から顔を覗き込んでくる。
「特別に、チャンネル名を教えてあげようか?」
それ、反則だろ。
「ほう、そうか、そうか。どうしてもって言うなら、チャンネル名を聞いてやってもいいぞ」
「はあ?教えないし」
薫がわざとらしく、怒った素振りで視線を逸らした。その様子を見て、思わず表情を崩してしまう。
バスに乗る直前になり、小悪魔的な笑みを浮かべた薫が、ようやくアカウントとチャンネルの名前を教えてくれた。中途半端に席が埋まっている路線バスに乗車し、自転車のハンドルを握っている薫に手を振る。発車したバスの乗車時間は40分程度。いつもは軽く寝ているか、何となく外を眺めているが、今日は薫がお気に入りの曲を集めたチャンネルにアクセスする。耳に突っ込んだイヤホンから流れてくる曲は、予想通り1980年代の洋楽だった。
>帰ったら教えてね。
SNS経由でメッセージが届き、それを見て思わず顔が緩む。思えば、最近は周囲に彼女ができて、誰も相手にしていくれない時間が増えていた。メッセージが届くだけでも、気に掛けてもらえているようで少し嬉しい。
バスに揺られること40分。最寄のバス停で下車する。バス停から自宅までの距離は3百メートルほどしかない。ちょっと早足で歩くと、3分以内に到着することが可能だ。今日は小学生のとき以来、その道のりを全力で走って玄関に飛び込んだ。
>ただいま。無事に帰宅したよ。
>おかえり。アタシはポッキー食べながらメッセージ待ってた。
玄関でクツを脱ぎ、洗面台に向かっている途中で折り返されるメッセージ。男同士の連絡なんて既読スルーは当たり前で、返事が翌日なんてことも普通にある。女友達がいないことはないけれど、優先順位が低いのか、平気で2時間は待たされる。最悪の場合、そのまま忘れ去られる。
一応、学校で顔を洗ってはいるものの、帰宅後もザバザバと水を浴びる。ベタベタすると気持ち悪いし、吹き出物ができると面倒臭いからだ。ついでに制服のシャツと靴下を洗濯カゴに投げ込み2階の自室へと向かう。
「あと30分くらいで晩ご飯だから、先に風呂入りなさい」
「ほーい」
ダイニングから響く母親の声に返事をし、階段を上がって2階の自室に入るとリュックを机の横に置いて床に腰を下ろした。薫に返事をしていないことに気付きスマホの画面を覗き込むと、未読のメッセージが5件表示されている。タップしようとした瞬間、追加のメッセージが届いた。
>ごめん、ごめん。顔を洗ったりしてたんだ。
>ホントに?いきなり返事がなくなったら不安になるじゃん。
>マジ、ごめん。今から風呂入って、晩飯だから10時くらいになったら大丈夫だよ思う。
>うん、分かった。じゃあ、10時にねー
新鮮な気分だ。
男同士のメッセージなんて「明日の朝練ナシね」とか「テスト範囲教えてくれ」とか、90パーセント以上が事務連絡で2往復もすれば終了する。何となく会話の続けるなんてことはない。特に頼み、頼まれることもない。伝達事項も他の誰かに伝える必要もないメッセージとか、お互いの気持ちを交換するやり取りだけだとか、無意味だと思っていたことの大切さを思い知らされた。
今日中にしなければならないことを終え、22時に自室のベッドに寝転ぶ。
スマホを片手に薫に向けてメッセージを入力していると、先にメッセージの着信をしらせるアナウンスが表示された。
>ベッドの上に寝転んでるよ。ちなみに、こんな感じ。
送られてきたメッセージに、上下ピンクのスウェット姿の薫がピースサインで笑っている画像が添付されていた。完全にスッピンの薫は少し幼く見えるが、そのあどけなさの破壊力が半端ない。
余りの可愛さに悶絶していると、リアクションがないことに焦ったのか薫から連続でメッセージが届いた。
>もしかして、スッピンがヤバイ?
>・・・ダメ?
>消して、それ、今すぐ消して!!お願い!!
>ブサイクでごめん。死にたい・・・今すぐ死ぬ。
闇落ちしていく薫の様子に、今度はこちらが焦る。
>あ、ごめん、違うんだ。その反対だよ。あまりに可愛くて意識を失ってただけ。マジで!!
>ホントに?
>ガチで。
>それなら良かったー
その後、くだらないメッセージのやり取りを、寝落ちするまで続けた。



