―――――彼女にしたいほど好きなのか?
と、問われれば、「違う」と即答するだろう。一目惚れした訳ではないし、そもそも言葉を交わしたことすらないのだ。確かに、目立つ存在ではあるし、容姿的には自分の中ではトップクラスだ。だけど、それだけの理由で彼女にしたいとは思わない。それに、理由は分からないが留年しているのだ。まともなはずがない。だから、連絡先が分かったからといっても、告白なんてするはずがない。
ただ、最近、周囲が煩わしい。
同じ中学校出身で、同じ部活の友達に、最近彼女ができた。いつも登下校が一緒だったのに、今は一人ぼっちになってしまっている。進学した高校が違う一番の親友からも、つい先日彼女ができたと報告があった。よく一緒に遊んでいたのに、遊び相手がいなくなってしまった。別に、寂しいとか、羨ましいとか思っている訳ではない。だけど、なんか取り残された感が否めない。
それでも、「彼女が欲しいのか?」と、問われれば、頷くことはない。ただ、適当で、いい加減な関係の彼女なら、いても困らない。そう思う。
だから、雑な告白だった。
確かに、入学式の当日から気にはなっていた。
ずっと、気にはしていたことは認める。
でも、好きだったことはない。
だから、誰から見ても雑な告白だったに違いない。
佐藤から教えてもらったアドレスに、メールを送っただけだ。
>入学式のときに見掛けてから、ずっと好きだった。付き合ってください?
たった一行だけの、電話番号を添えた告白。たぶん、同じ内容で告白をされたら、読んだ直後に削除すると思う。でも、そのメールを送信した10分後に、突然、見知らぬ電話番号からコールされた。こういうことは、これまでも何度かあったから、特に驚くこともなく応答をタップする。不愉快な電話なら即座に断ち切って、ブロックすれば良いだけのことだ。
「はい」
名乗ることはしない。迂闊に名前を口にしてしまうと、ロクなことにならない。
「もしもし」
聞き覚えのない弱々しい女性の声が耳に届く。瞬時に思い当たる人物を思い浮かべるが、該当する人物が見付からない。根本的に、女友達と呼べるレベルの相手はいない。いや、1人だけいるかも知れない。でも、アイツが電話をしてくるなんてことは、まず考えられない。
「誰?」
警戒心全開で、少し強い口調で確認する。これで名乗らないようであれば、それまでのことだ。
手にしたスマホの向こう側にいる相手が、少しだけ躊躇した後で返事をした。
「高梨だけど」
高梨とい名乗られ、必死に知り合いの中で合致する人物を検索する。しかし、そんな名前の人物に心当たりがない。
「さっき、メールくれたよね?」
その言葉でようやく理解した。
初めて耳にする声で間違いはない。
そして、これが何度か長文を書いた挙げ句、結局1行になってしまった告白。あの、雑な告白の返事だということを認識する。そして、わざわざ傷を抉るために、電話をしてきたことが想像できて表情を歪める。普通に考えて、あんなメールの告白でオッケーする人がいるはずがない。メールを返信してくれれば済む話なのに。と不愉快になる。
「ねえ、新田って、名前なんて言うの?」
身構えていたにも関わらず、予想の斜め上を行く問いに不用意に答えてしまう。
「悠真、だけど」
「ふうん、悠真って言うんだ。じゃあ、今から悠真って呼ぶね。アタシのことは、薫って呼んで」
高梨が口にした言葉の意味を理解するまで、それなりの時間を要した。
彼女ができた―――――らしい。
「嬉しくないの?」
少し震える声に、ハッキリとした口調で答える。
「薫、ありがとう」
「うん」
薫が今日一番の穏やかな口調で同意する。
その少し弾んだ声音から、電話の向こう側で満面の笑みを浮かべる薫が見えるようだった。
それから、僕達は離れ離れだった時間を埋めるように、東の空が淡い紺色に変化するまで話し続けた。他愛もない学校での出来事や、友達とのやり取り。女の子の間で流行っていることや、いつも見ているテレビドラマ。今度公開されるホラー映画。そして、1970年から80年代の洋楽が好きだということ。シカゴやボストンの曲を必死に語る薫が愛らしくて、ちょっとだけ笑ってしまった。
7時間近く話しをした後、ウトウトしながらもオススメされた曲を聴いてみた。英語の歌詞なんて分からないけれど、何となくどこが好きなのかは分かる気がした。
その3時間後、今さら寝る訳にもいかず始発のバスで登校していた。
体育館で眠い目を擦りながらシュート練習をしていると、バラバラとバスケ部の同級生や後輩が姿を現せ始める。壁に掛かっている時計に視線を向けると、7時30分を表示していた。最近彼女ができた部長が手を叩いて注目を集める。
「じゃあ、始めるぞ」
いつもと同じように早朝練習が始まる。公立の進学校であるため強くはないが、こうした地味な練習だけは伝統として続いている。
何も変わらない。これまでと同じ時間が、同じスピードで流れていく。何かが変わるような気がしていたけれど、彼女ができたからといって、違う何かが始めるなんてことはない。
転がっていったボールを壁際まで追い掛けて行くと、低い位置にある格子付きの窓から中を覗き込んでいる人影があった。
「おはよう、悠真」
「おはよう、薫」
少しだけ違う朝だった。
と、問われれば、「違う」と即答するだろう。一目惚れした訳ではないし、そもそも言葉を交わしたことすらないのだ。確かに、目立つ存在ではあるし、容姿的には自分の中ではトップクラスだ。だけど、それだけの理由で彼女にしたいとは思わない。それに、理由は分からないが留年しているのだ。まともなはずがない。だから、連絡先が分かったからといっても、告白なんてするはずがない。
ただ、最近、周囲が煩わしい。
同じ中学校出身で、同じ部活の友達に、最近彼女ができた。いつも登下校が一緒だったのに、今は一人ぼっちになってしまっている。進学した高校が違う一番の親友からも、つい先日彼女ができたと報告があった。よく一緒に遊んでいたのに、遊び相手がいなくなってしまった。別に、寂しいとか、羨ましいとか思っている訳ではない。だけど、なんか取り残された感が否めない。
それでも、「彼女が欲しいのか?」と、問われれば、頷くことはない。ただ、適当で、いい加減な関係の彼女なら、いても困らない。そう思う。
だから、雑な告白だった。
確かに、入学式の当日から気にはなっていた。
ずっと、気にはしていたことは認める。
でも、好きだったことはない。
だから、誰から見ても雑な告白だったに違いない。
佐藤から教えてもらったアドレスに、メールを送っただけだ。
>入学式のときに見掛けてから、ずっと好きだった。付き合ってください?
たった一行だけの、電話番号を添えた告白。たぶん、同じ内容で告白をされたら、読んだ直後に削除すると思う。でも、そのメールを送信した10分後に、突然、見知らぬ電話番号からコールされた。こういうことは、これまでも何度かあったから、特に驚くこともなく応答をタップする。不愉快な電話なら即座に断ち切って、ブロックすれば良いだけのことだ。
「はい」
名乗ることはしない。迂闊に名前を口にしてしまうと、ロクなことにならない。
「もしもし」
聞き覚えのない弱々しい女性の声が耳に届く。瞬時に思い当たる人物を思い浮かべるが、該当する人物が見付からない。根本的に、女友達と呼べるレベルの相手はいない。いや、1人だけいるかも知れない。でも、アイツが電話をしてくるなんてことは、まず考えられない。
「誰?」
警戒心全開で、少し強い口調で確認する。これで名乗らないようであれば、それまでのことだ。
手にしたスマホの向こう側にいる相手が、少しだけ躊躇した後で返事をした。
「高梨だけど」
高梨とい名乗られ、必死に知り合いの中で合致する人物を検索する。しかし、そんな名前の人物に心当たりがない。
「さっき、メールくれたよね?」
その言葉でようやく理解した。
初めて耳にする声で間違いはない。
そして、これが何度か長文を書いた挙げ句、結局1行になってしまった告白。あの、雑な告白の返事だということを認識する。そして、わざわざ傷を抉るために、電話をしてきたことが想像できて表情を歪める。普通に考えて、あんなメールの告白でオッケーする人がいるはずがない。メールを返信してくれれば済む話なのに。と不愉快になる。
「ねえ、新田って、名前なんて言うの?」
身構えていたにも関わらず、予想の斜め上を行く問いに不用意に答えてしまう。
「悠真、だけど」
「ふうん、悠真って言うんだ。じゃあ、今から悠真って呼ぶね。アタシのことは、薫って呼んで」
高梨が口にした言葉の意味を理解するまで、それなりの時間を要した。
彼女ができた―――――らしい。
「嬉しくないの?」
少し震える声に、ハッキリとした口調で答える。
「薫、ありがとう」
「うん」
薫が今日一番の穏やかな口調で同意する。
その少し弾んだ声音から、電話の向こう側で満面の笑みを浮かべる薫が見えるようだった。
それから、僕達は離れ離れだった時間を埋めるように、東の空が淡い紺色に変化するまで話し続けた。他愛もない学校での出来事や、友達とのやり取り。女の子の間で流行っていることや、いつも見ているテレビドラマ。今度公開されるホラー映画。そして、1970年から80年代の洋楽が好きだということ。シカゴやボストンの曲を必死に語る薫が愛らしくて、ちょっとだけ笑ってしまった。
7時間近く話しをした後、ウトウトしながらもオススメされた曲を聴いてみた。英語の歌詞なんて分からないけれど、何となくどこが好きなのかは分かる気がした。
その3時間後、今さら寝る訳にもいかず始発のバスで登校していた。
体育館で眠い目を擦りながらシュート練習をしていると、バラバラとバスケ部の同級生や後輩が姿を現せ始める。壁に掛かっている時計に視線を向けると、7時30分を表示していた。最近彼女ができた部長が手を叩いて注目を集める。
「じゃあ、始めるぞ」
いつもと同じように早朝練習が始まる。公立の進学校であるため強くはないが、こうした地味な練習だけは伝統として続いている。
何も変わらない。これまでと同じ時間が、同じスピードで流れていく。何かが変わるような気がしていたけれど、彼女ができたからといって、違う何かが始めるなんてことはない。
転がっていったボールを壁際まで追い掛けて行くと、低い位置にある格子付きの窓から中を覗き込んでいる人影があった。
「おはよう、悠真」
「おはよう、薫」
少しだけ違う朝だった。



