「また来たの?」
コンビニのおにぎりをむさぼる男に、オレはまた会った。夕方の屋上。オレンジ色を背に、ふたつのシルエットが並ぶ。
オレは飽き足らず、また屋上を訪れた。一番の理由は、部室に居づらいから。昨日、あれだけ大騒ぎして飛び出したのだ……他の部員にどう思われていることやら。
それから、この男ともう一度言葉を交わすのも悪くないと思ったのだ。
「部活って、そんなにぽんぽん抜け出していいんだ」
嫌味のこもった冷たい言葉が、ぐさりと刺さる。
「……燃え尽きたんだよ」
フェンスに身を預けながら、ぶっきらぼうに言ってやる。
「ふぅん」
バリバリと海苔を噛み千切る音が、場にそぐわない。今日のおにぎりは……10パーセント引きだ。
「別に、タイソーな部活じゃないの。やりたいことをそれぞれがやってるだけ。だから……今日の活動は、ここでする」
「逃げてきたわけだ」
「わ、悪いかよ」
最後のひと口を飲み込んで、男は首を横に振る。茶化されると思ったけど、落ちた視線はどこか憂いを帯びていた。
「おれも逃げてきたクチだから」
「オレ、有明茜理。2年。科学部」
交わす言葉は少ない。なにせ出会って、まだ2日目である。だけど、なんとなくオレたちは同じものを求めている気がする。直感だ。だから、オレから名乗った。
「……星見碧唯。定時の2年。部活は入ってないけど、コンビニでバイトしてる」
ほら、やっぱり。オレが名乗れば、男――碧唯も名乗ると思ったんだ。なんとも清潔な名前だな、と思いながら、会話を繋げる。
「高校生でバイトってできるんだ」
「うん。薄給だけど」
「難しい言葉だな。つまり、給料低いってこと?」
「そう」
なんでバイトしてるの? と、出かかった質問を引っ込める。踏み込みすぎてはいけない。尋ねるほどに、碧唯は遠ざかっていきそうだった。
「定時って、制服違うんだな」
色の違うスラックスを指差す。全日制のオレの学ランは、上下ともに真っ黒なシンプルなデザインだ。面白みに欠ける、と、男子の間ではもっぱら不評だった。
対する定時制の碧惟のスラックスは、落ち着いたネイビーブルー。アイロンで折り目をつけたセンタープレスのデザインが、都会的でおしゃれだ。
「知らなかった。これもおさがりだから、別にこだわってなかった」
ふうん。隣の芝は青く見えるものだからか、そのスラックスはとても魅力的だ。こだわってないくせに着こなしているのは、すらりと細長い下半身のおかげだろう。ムカつく。
そんな会話をしているうちに、6時のチャイムが鳴る。この音が、碧唯にとっては屋上を去る合図のようだ。じゃ、と小さく手をあげて去ろうとする碧唯に、オレは焦って声をかけた。
「なぁ。明日も来ていい?」
碧唯は、ゆっくりとオレを見て、表情すら変えないまま口を開く。
「好きにすれば」
おれのものじゃないし。そう言い残して、碧唯は薄暗い校舎へ消えていった。
「……っし」
とりあえず、拒絶はされなかった。心が浮き立つのは、わずかに存在を承認されたからに違いない。
たった30分足らずの、静かな交流。また碧惟と言葉を交わしたいと思う自分がいた。
コンビニのおにぎりをむさぼる男に、オレはまた会った。夕方の屋上。オレンジ色を背に、ふたつのシルエットが並ぶ。
オレは飽き足らず、また屋上を訪れた。一番の理由は、部室に居づらいから。昨日、あれだけ大騒ぎして飛び出したのだ……他の部員にどう思われていることやら。
それから、この男ともう一度言葉を交わすのも悪くないと思ったのだ。
「部活って、そんなにぽんぽん抜け出していいんだ」
嫌味のこもった冷たい言葉が、ぐさりと刺さる。
「……燃え尽きたんだよ」
フェンスに身を預けながら、ぶっきらぼうに言ってやる。
「ふぅん」
バリバリと海苔を噛み千切る音が、場にそぐわない。今日のおにぎりは……10パーセント引きだ。
「別に、タイソーな部活じゃないの。やりたいことをそれぞれがやってるだけ。だから……今日の活動は、ここでする」
「逃げてきたわけだ」
「わ、悪いかよ」
最後のひと口を飲み込んで、男は首を横に振る。茶化されると思ったけど、落ちた視線はどこか憂いを帯びていた。
「おれも逃げてきたクチだから」
「オレ、有明茜理。2年。科学部」
交わす言葉は少ない。なにせ出会って、まだ2日目である。だけど、なんとなくオレたちは同じものを求めている気がする。直感だ。だから、オレから名乗った。
「……星見碧唯。定時の2年。部活は入ってないけど、コンビニでバイトしてる」
ほら、やっぱり。オレが名乗れば、男――碧唯も名乗ると思ったんだ。なんとも清潔な名前だな、と思いながら、会話を繋げる。
「高校生でバイトってできるんだ」
「うん。薄給だけど」
「難しい言葉だな。つまり、給料低いってこと?」
「そう」
なんでバイトしてるの? と、出かかった質問を引っ込める。踏み込みすぎてはいけない。尋ねるほどに、碧唯は遠ざかっていきそうだった。
「定時って、制服違うんだな」
色の違うスラックスを指差す。全日制のオレの学ランは、上下ともに真っ黒なシンプルなデザインだ。面白みに欠ける、と、男子の間ではもっぱら不評だった。
対する定時制の碧惟のスラックスは、落ち着いたネイビーブルー。アイロンで折り目をつけたセンタープレスのデザインが、都会的でおしゃれだ。
「知らなかった。これもおさがりだから、別にこだわってなかった」
ふうん。隣の芝は青く見えるものだからか、そのスラックスはとても魅力的だ。こだわってないくせに着こなしているのは、すらりと細長い下半身のおかげだろう。ムカつく。
そんな会話をしているうちに、6時のチャイムが鳴る。この音が、碧唯にとっては屋上を去る合図のようだ。じゃ、と小さく手をあげて去ろうとする碧唯に、オレは焦って声をかけた。
「なぁ。明日も来ていい?」
碧唯は、ゆっくりとオレを見て、表情すら変えないまま口を開く。
「好きにすれば」
おれのものじゃないし。そう言い残して、碧唯は薄暗い校舎へ消えていった。
「……っし」
とりあえず、拒絶はされなかった。心が浮き立つのは、わずかに存在を承認されたからに違いない。
たった30分足らずの、静かな交流。また碧惟と言葉を交わしたいと思う自分がいた。
