祝日と振り替え休日があけて、やっと学校が再開した。
あれだけ怒られた家出――もとい、逃避行の夜から、早くも一週間が経とうとしている。オレはといえば、なんだか無性に碧唯に会いたかった。
「茜理のバカ」
開口一番。紺色のブレザーと、えんじ色のネクタイをつけた冬服仕様の碧唯はなんと、オレを罵倒しやがった。
「なんでだよ!」
「おかげで散々な連休だった!」
どかっと腰をかけ、カバンからいつも通りの割引飯を――……。
「え、弁当?」
と思ったら、取り出したのは、小ぶりなランチボックスだった。フタにはきっと対象年齢5歳向けくらいのキャラクターが書かれていたのだろうが、かすれてしまって見る影もない。年季の入ったそれを抱えながら、碧唯はムスッとしたまま頷いた。
「施設の人が持たせてくれたんだ。コンビニ飯よりは栄養があるからって」
「なんだ、てっきり怒られたもんだと」
「怒られたよ」
語気の荒い碧唯は、ますます不機嫌そうに頬を膨らます。弁当の中身は、世にも美味そうなハムカツサンドだ。
「……でも、それより心配された」
あの晩、いつまで経っても帰ってこない碧唯を、施設の人は夜通し探していた。施設の人が学校へ連絡して、担任の先生を巻き込んで捜索した結果、屋上で眠る碧唯を発見したらしい。
「あー……それで、弁当?」
話を聞く限り、碧唯はあまり自分の意思を表には出さない。そんな「いい子」の碧唯が、急に家出まがいのことをしたものだから、大人たちはひどくびっくりしたのだろう。
「バイト減らせだの、学校休めだの、うるさいのなんの」
くつくつ。溢れないように、口の中に笑いを閉じ込める。
「それでも行くって言ったら、サンドイッチ持たされてさ」
くくく。それはもう、必死にこらえる。
「って、なに笑ってんだよ!」
碧唯に凄まれたオレは、ついぞ堪えられなくなって吹き出した。
「あっはは! やったじゃん、作戦成功だ!」
「は、はぁ……!?」
「だってそうだろ? オレたち、オトナたちをビビらせたんだ」
「茜理も?」
おう! オレは嬉しさを隠すこともなく、あの朝のことを話した。
父さんはオレの展示を見て、いたく感激していた。まとめ方がうまい、だの。いい着目点だ、だの。ひとりで作った時、心のどこかで欲していた反応そのままで、オレの心が軽くなったことは言うまでもない。
比留間の喫煙については、父さんも訝しげに眉をひそめてた。だから、比留間は交換条件を出した。学校へ報告しない代わりに、オレの朝帰り事件も内緒に。父さんも大ごとにしたくなかったのか、これですんなりと話がまとまった。
ちなみに、どうして比留間がオレを発見したかというと……比留間は、保健室で寝落ちして学校に泊まることが少なくないそうだ。文化祭の夜もそうで、朝日を浴びに屋上へ向かったのだとか。ついでだから、勝手に学校に泊まったことも、内緒にしてやると決めたのだった。
未だに笑いは収まらない。緊張と、弛緩。あの日の不安が、今、こうして笑いに昇華されている。
「……っふ」
次第に、碧唯も吹き出した。つられ笑いでも、笑いは笑いだ。オトナたちに一矢報いたオレたちは、勝利を分かち合う。
「たしかに……ふふ、ゼイタクだ」
「だな。今更心配して、ハムカツサンドだぜ?」
「茜理の父さんこそ、今更心配かよ」
愉快そうに、碧唯が笑う。
「オトナってバカだな……」
自然にこぼれた碧唯の言葉が、オレたちの作戦の成功を知らせた。
「……な? だから、オレたちまだ子どもでいいよな」
見開かれた目が、オレンジ色に照らされている。
「子どもで……いい、んだ」
なにかに気づいたのか、碧唯は思慮深く、それでいてどこかわくわくした表情で腕を組む。その表情がどこか目を惹いて、オレの心は人知れず凪いでいった。
あれだけ怒られた家出――もとい、逃避行の夜から、早くも一週間が経とうとしている。オレはといえば、なんだか無性に碧唯に会いたかった。
「茜理のバカ」
開口一番。紺色のブレザーと、えんじ色のネクタイをつけた冬服仕様の碧唯はなんと、オレを罵倒しやがった。
「なんでだよ!」
「おかげで散々な連休だった!」
どかっと腰をかけ、カバンからいつも通りの割引飯を――……。
「え、弁当?」
と思ったら、取り出したのは、小ぶりなランチボックスだった。フタにはきっと対象年齢5歳向けくらいのキャラクターが書かれていたのだろうが、かすれてしまって見る影もない。年季の入ったそれを抱えながら、碧唯はムスッとしたまま頷いた。
「施設の人が持たせてくれたんだ。コンビニ飯よりは栄養があるからって」
「なんだ、てっきり怒られたもんだと」
「怒られたよ」
語気の荒い碧唯は、ますます不機嫌そうに頬を膨らます。弁当の中身は、世にも美味そうなハムカツサンドだ。
「……でも、それより心配された」
あの晩、いつまで経っても帰ってこない碧唯を、施設の人は夜通し探していた。施設の人が学校へ連絡して、担任の先生を巻き込んで捜索した結果、屋上で眠る碧唯を発見したらしい。
「あー……それで、弁当?」
話を聞く限り、碧唯はあまり自分の意思を表には出さない。そんな「いい子」の碧唯が、急に家出まがいのことをしたものだから、大人たちはひどくびっくりしたのだろう。
「バイト減らせだの、学校休めだの、うるさいのなんの」
くつくつ。溢れないように、口の中に笑いを閉じ込める。
「それでも行くって言ったら、サンドイッチ持たされてさ」
くくく。それはもう、必死にこらえる。
「って、なに笑ってんだよ!」
碧唯に凄まれたオレは、ついぞ堪えられなくなって吹き出した。
「あっはは! やったじゃん、作戦成功だ!」
「は、はぁ……!?」
「だってそうだろ? オレたち、オトナたちをビビらせたんだ」
「茜理も?」
おう! オレは嬉しさを隠すこともなく、あの朝のことを話した。
父さんはオレの展示を見て、いたく感激していた。まとめ方がうまい、だの。いい着目点だ、だの。ひとりで作った時、心のどこかで欲していた反応そのままで、オレの心が軽くなったことは言うまでもない。
比留間の喫煙については、父さんも訝しげに眉をひそめてた。だから、比留間は交換条件を出した。学校へ報告しない代わりに、オレの朝帰り事件も内緒に。父さんも大ごとにしたくなかったのか、これですんなりと話がまとまった。
ちなみに、どうして比留間がオレを発見したかというと……比留間は、保健室で寝落ちして学校に泊まることが少なくないそうだ。文化祭の夜もそうで、朝日を浴びに屋上へ向かったのだとか。ついでだから、勝手に学校に泊まったことも、内緒にしてやると決めたのだった。
未だに笑いは収まらない。緊張と、弛緩。あの日の不安が、今、こうして笑いに昇華されている。
「……っふ」
次第に、碧唯も吹き出した。つられ笑いでも、笑いは笑いだ。オトナたちに一矢報いたオレたちは、勝利を分かち合う。
「たしかに……ふふ、ゼイタクだ」
「だな。今更心配して、ハムカツサンドだぜ?」
「茜理の父さんこそ、今更心配かよ」
愉快そうに、碧唯が笑う。
「オトナってバカだな……」
自然にこぼれた碧唯の言葉が、オレたちの作戦の成功を知らせた。
「……な? だから、オレたちまだ子どもでいいよな」
見開かれた目が、オレンジ色に照らされている。
「子どもで……いい、んだ」
なにかに気づいたのか、碧唯は思慮深く、それでいてどこかわくわくした表情で腕を組む。その表情がどこか目を惹いて、オレの心は人知れず凪いでいった。
