心が折れたので、二度と元のパーティには戻りません~僻地ではじめるスローライフ

 アッシュウルフたちの攻撃は、止まなかった。
 倒しても、倒しても、ウルフたちは仲間たちの死体を踏み越えて、牙を剥いてくる。

 数人が、重傷となってしまった。
 あっという間に、形勢逆転だ。

 うーん、こんな形で撤退はしたくないな。
 グレンに、何を言われるか、わかったものじゃない。
 というか、劣勢になっているのだから、何らかの手を打ってほしいものだ。

 おれは、池の端に腰を落ち着けている、金色の毛並みのアッシュウルフを見た。
 あれが、群れのリーダーなんだろう。
 金色なので、アッシュウルフではなく、ゴールドウルフ、といったところか。
 周囲のウルフよりもさらに大きく、毛並みも艶やかだった。

 あのウルフを倒せば、混乱するかもしれないが——ここからでは、たどり着くことは無理だろう。
 一度、森に戻って、態勢を整えるべきか?

 と思っていると、雷鳴が聞こえてきた。
 遠くから響いてくる——と思ったら、突然、耳の奥がつーんとなるほどの、大きな音が轟いた。
 落雷の呪文、だろう。
 もちろん、グレンからの支援攻撃だ。

 続けざまに、落雷は二度、三度と落ちる。
 稲妻はアッシュウルフを打ち、地面を抉った。
 岩が割れ、弾ける。
 落雷は、ウルフだけでなく、こちらの側にも落下した。

「うわ! 危ねぇ」
 直撃はしなかったものの、すぐ側に稲妻が落ちて、ひやりとした。
 ウルフを狙った——というよりも、大雑把に呪文を放ったとしか思えない。

 二番隊に命中しても構わない、と指示を出しているのかもしれない。
 ——やってられないね。

 思ったが、落雷の攻撃が止んだようなので、おれたちは反撃をはじめた。
 既にウルフたちは、ほとんどが地面に倒れ伏している。
 電撃で麻痺しているだけなのか、即死なのかは、今は調べる余裕がない。
 おれたちは、剣を構えて、進撃した。

 金色のウルフが、顎を開いて、睨みつけている。
 これを倒せば、アッシュウルフの討伐は完了となるのだが、その先はまだあるのだ。
 とりあえず、今はこの危機に集中しなければ。

「ヤー! プレズ・アルタ・フラグスヴィンガト!」
「ヤー! ヤー、ヤー!」
「ラウド・エスティ・アル・ヴィ。フラグスヴィンガト!」

 聞きなじみのある言葉が、響き渡った。
「三番隊、これより参戦する!」
 その声を聞いた時——どうして、と思った。

「隊長?」
「あ……あぁ」
 今はまだ、アッシュウルフとの戦いが続いている。
 気を緩めることは禁物だ。

 轟音が響いた。
 今度は落雷の音ではなく、銃撃の音だ。
 左手の斜面から、騎馬の兵たちが駆け下りてきている。
 馬の速度を緩めずに、きちんと隊列を組んだまま、ライフルを構えている。
 ライフルは、このメディシアン大陸の技術では、まだ開発されていないのだが、おれたち、アリアンフロッドの間では特別な遺物——ドリフテッド・シングスとして、使うことが許されている。

 扇状に広がり、騎兵たちはライフルを構えている。
 速度も斜面の起伏も計算に入れて、タイミングぴったりで銃撃をしている。

 それにしても、見事なものだ。
 おれは、馬に関しては移動手段として使う程度だが、あの練度は感心してしまう。

 三番隊は、銃士隊として組織された小隊で、馬の扱いとライフルの腕は、”旗を振るもの”のなかでも屈しのものとなっている。
 案外、騎士への昇格は三番隊の活躍があったからかもしれないな、と思った。
 それにしても、どうしてエレナたちは、このアッシュウルフの討伐に参加しているのだろう?
 これまでの繰り返しの生のなかで、彼女が討伐に加わってきたのは、一度もないのに。

 銃弾が、金色のアッシュウルフに命中していった。
 着弾する度に、肌に血が散る。
 それでも、金色のアッシュウルフは倒れなかった。

 姿勢を低くして、唸り声をあげながら、牙を剥いている。
 瞳は、赤く染まり、憎しみの視線を向けていた。

「フィル! すまない、ちょっと遅れた」
 エレナが馬上から、声をかけてくる。
 全身、板金鎧で武装していて、フルフェイスの兜を被っている。

「よっと」
 馬から降りると、おれと並んだ。

「久しぶりに、おまえと肩を並べて、戦いたくなった」
「おい、三番隊はどうするんだよ」
「大丈夫だ。指揮はイオに任せている」

 イオとは、三番隊の副官の名前だ。
 何が、大丈夫なのか、わからないが、銃士隊としての役目は既に終えている、ということだ。

 エレナとは、戦場を共にすることは多いものの、それぞれが隊長となってからは、こうして横に並んで戦うことは、ほとんどなかった。
 そんなことを言い出す——ということは、もしかすると、エレナも既におれが”旗を振るもの”から追放される、ということを知っているのかもしれなかった。