心が折れたので、二度と元のパーティには戻りません~僻地ではじめるスローライフ

 それから、おれたちは岩場の斜面を歩き、川を渡ったり、深いクレバスをジャンプしたり、急斜面を登ったりした。
 歩いているうちに、地底湖が連なるフィールドから、洞窟が続く場所へとやって来たようだ。

 岩壁に開いた開口部のところに、首や肩から先がなくなった像があったり、時々、壁画が掘られていたりしていた。
 像は女神らしかったが、なんの女神なのかは、おれにはわからなかった。

 このメディシアン大陸は、古神と呼ばれる存在が降臨し、大地を形作り、火を与え、耕作を教え、双陽と五つの月を空に並べた……とされているが、詳しいことはおれも知らない。
 ここが神殿の一部、だとすると、さらに上の層まで到達しなければ、ドリフテッド・シングスなどは期待出来ないのかもしれない。
 しかし、そっちのほうはレッドたちがもう、回収しているのかもしれない。
 こちらは、なるべくこの神殿の区画からまっすぐ脱出する方法を考えたほうがいいのだろう。

 ぐねぐねと曲がりくねる洞窟のなかを、おれとリンは歩き続けていった。
 岩壁の両脇には、小部屋ぐらいの空間がいくつも、くりぬかれていて、鉄格子で仕切られていた。

 小部屋ぐらい——といっても、なかはかなり狭いようだ。
 ひとりがやっと、座れるぐらいのスペースしかない。
 そして、鉄格子の向こうには、貫頭衣を被った骸骨が胡座をかいて、座っていた。
 数体の骸骨の手前には、巻き物のようなものが置かれてはいるが、それも呪文書ではないみたいだった。
 こちらから見てもインクがかすれてしまって、何が書かれているのかは、わからない。

「……地下墳墓だな」
 おれは、いくつも連なる小部屋と骸骨を見て、つぶやいた。
「地下墳墓って?」
「あぁ……もとは、地下に作られた墓地のことだ。信仰の強い者が祀られていることが多いので、神殿によっては、聖なる場所として扱われていることもあるようだな」

 亡者に関する、死霊や冥府、歪曲といった魔力は、感じない。
 むしろ、おれは、この地下墳墓の周囲は、清らかな雰囲気で充たされている、思った。

 先に進もうとすると、足音が聞こえてきた。
 リンが、仲間たちと思ったのだろう、走りかけた。
 しかし、すぐに違うことに気づいたようだ。
 脚を止める。

 ばさり……と、ゆうが翼を広げた。
 その間も、がしゃ、がしゃ、がしゃ……と、金属をぶつけているような、足音は照明の届かない闇の向こうから、響いてきている。
 おれたちは、地下墳墓の真ん中で、立ち止まった。

 途中から、足音はぷっつりと、聞こえなくなってしまった。
 おれとリンは、それぞれ、武器を構えたまま、視線を合わせた。

 気配というか、闇の向こうから、脅威が迫ってきているのは、感じる。
 緊張感が、肌の上を静電気のように、走り抜けていく。
 ごくり……と、おれは口中に溜まった唾を飲み込んだ。

「……!」
 ひゅん、と風を切る音が響き、おれはその場から飛び退った。
 背後の床を、巨大な斧が打った。
 火花が散り、砕かれた石の破片が舞う。

 おれは振り返り、”剣王の矜恃”の切先をそれに向けた。
 そこに立っているのは、黒い塗装の鎧姿の大男だった。
 片手に戦旗、もう一方の腕に大きな斧を持っている。

 ——│亡旗《ぼうき》の剣士、だ。
 戦旗を振り回してきたので、おれたちは、剣士から距離を取った。

 亡旗の剣士は、遺跡やダンジョンなどを徘徊している、亡者の一種だ。
 戦場などで亡くなった戦士や騎士、軍人などの怒りや恨みなどを集め、その力を源泉にして、生きている者の魂を刈り取っていく異形のものだ。

 おれは、│呪符《フォース・インテンシブ・カード》をストレージから取り出した。
 いくつものカードが、身体の周りを巡る。

『我は打つ。「エッダの剣」よ。鋭き——』
 呪句を唱えようとすると、その前に亡旗の剣士の姿が霞んだ。
 全身が歪んだ、と思うと同時に、剣士が目の前から消えた。

 呪符を使って攻撃しようと思っていたおれは、勢い余って、バランスを崩しそうになった。
 何とか、踏みとどまる。

 おれの背後に、殺気が走る。
 危険を感じ、おれは頭から床に飛び込んでいった。

 衝撃が地面を伝ってきた。
 破片が再び、飛散する。
 立ち上がると、亡旗の剣士が斧で地面を削ってきたところだった。
 力任せに、おれとリンを屠ろうとしてきているようだ。

 それにしても——瞬間移動を使ってくる亡旗の剣士は、はじめてだ。
 おそらく、この亡旗の剣士、オリジナルのスキルということなのだろう。
 この狭い一本道の洞窟で、瞬間移動可能な敵との戦いは、こちら側の分が悪いようだ。

 おれはリンに近づくと、背中をくっつけて、警戒した。
 倒せない敵ではないが、かなり苦戦しそうだ。