心が折れたので、二度と元のパーティには戻りません~僻地ではじめるスローライフ

 その間、翼に炎をまとった、三尾鸚鵡(トライテール・パロット)のゆうが、宙を駆けていった。
 飛翔する度に、その翼の炎が広がっていく。

 そして、反対側の階段のドラム缶を激しく、燃え上がらせた。
 悲鳴があがり、ライフルが暴発した。
 ぱーん、と空虚な音を響かせて、ライフルが放り出される。

 リンとレッドが、まっすぐエレベーターからこちらへと、走り寄ってくるのが見えた。
 炎上するドラム缶を乗り越え、おれと併走するように、階段を駆け上がっている。

 その間も、レイダーたちが行く手を阻むように、おれに向かってきていた。
 階段の向こうの足場は、ひとりが行き来できる幅しかない。
 もう一度、おれは板剣を引き寄せ、脚を踏み込ませた。

「貫け!」
 叫ぶのと同時に、”剣王(けんおう)の矜恃(きょうじ)”を突き出す。
 再び、スパイラル・ブレードのコンバット・アーツを発動させる。

 スパイラル・ブレードは、打撃を距離のある相手にも届かせるものだが、狙いが正確ならば、背後にいる複数の相手にも貫通させることが可能だ。
 真紅色の光——スパイラル・ブレードの名の通り、螺旋を描く軌跡が、空間を走り抜けていく。

「ぐわっ!」
「おぉっ!」
 悲鳴が次々とあがり、おれのアーツを食らったレイダーたちがひざまずいたり、足場から下へと落下するなどしていく。

 残されたレイダーたちを相手にするのは、容易かった。
 コンバット・アーツなどの必要もなく、板剣を振り回して、足場に残っているレイダーたちを次々と、倒していく。
 横に薙ぎ払い、上段から振り下ろし、鎧ごと、斜めに斬りつけて、粉砕していく。

 リンたちのほうも、似たようなものだった。
 ライフルさえ無効化してしまえば、レイダーごとき、敵ではない。
 残りは、首領だけとなった。

「ふふ。てめぇらには、感謝しなけりゃな。あの忌々しいスレッジを、始末してくれたんだからよ」
「スレッジ——ってことは、あんた、”街道の狼”団の生き残りってことだね」
「生き残り、じゃねぇ。このセラスさまがこれから、一から作り直すんだよ。その前に、このばかでっかいおもちゃを使って、”街道の狼”を壊滅させたてめぇらを血祭りにして、名をあげてやるぜ」

 そう言うと、セラスは左の指先で、右腕の籠手に触れた。
 右腕が、奇妙な音をたてる。
 籠手と思い込んでいたそれは、実はそうではなかった。
 ——義手だったのだ。

 義手が、変形していく。
 腕状だったそれは、おれが見ている目の前で、指が引っ込み、拳が消え、そして——銃身を六つほど束ねた、中機関銃が姿を現わした。

『フィル!』
 ソフィが警告の声をあげる。
 しかし、反応が遅れてしまった。

 銃口がおれへと向けられ、銃身が回転した。
 モーター音が響くのと同時に、銃口が火を噴く。

「「フィル!」」
 これは、リンとレッドの声だろう。
 おれは後ろに跳び、機関銃の直撃を防いだ。
 さすがに、防御陣(シールド)を張っていても、機関銃の直撃を食らっていたら、ひとたまりもなかったところだ。

『防護陣の機能が80パーセント低下しました……防護陣の機能が60パーセント低下しました……防護陣の機能が40パーセント低下しました……』
 ソフィが機械的に、そう告げる。

 視界内に、桜色の防護陣が現われ、機関銃の銃撃を防いでいるのが露となった。
 あっという間に、防護陣の効果がなくなりかけ、さすがに、ひやりとしてものを感じてしまう。

 まだ、故郷に帰りついてもいないのに——リンや”八月の涼風”のメンバーとも、せっかく知り合ったばかりなのに、また死に戻って、やり直しだなんて、そんなことは絶対に避けなければならない。
 ——こうなったら、防御はすべて捨てて、捨て身で攻撃するつもりでいかなければ、生き残れないだろう。

 おれは、”剣王の矜恃”を身体の正面に構えた。
 板剣の剣身が、中機関銃の銃弾をある程度、弾いてくれる。

『我は唱える。「漆黒(しっこく)の帳(とばり)」よ、暗黒のすべての色を、此処に集めよ!』
 レッドの呪句(じゅく)を唱える声が響いた。
 呪符が舞い、そのなかの一枚が緑色の染まり、風を受けたように、くるくると回転しながら、色を失っていく。

 と同時に、視界が暗くなった。
 しかし、完全な闇とはならず、遠くのものはぼんやりと、近くのものはより、濃度を増したように、見通すことの出来ない闇と化していく。
 それでも、床を踏みしめる足場や壁との距離感などはわかるので、慣れていれば、ある程度の行動はできる。

「おぉ……くそっ! なんだ、これは!」
 セラスが義手を振り回して、じたばたとしているのを感じた。
 突然、視界を閉ざされて、混乱しているようだ。

 レッドがせっかく作ってくれたチャンスを、見逃すわけにはいかない!
 というか、身体が反射的に動いていた。
 コンバット・アーツや呪符を使いこなす余裕すらなく、一歩、脚を踏み込ませると、”剣王の矜恃”で斬撃を放った。

 手応えはあった。
 金属それに、肉と皮膚を切り裂くような感触が掌に走る。
 押し殺したような声があがった。

 そして、視界内の暗黒の色が少しずつ、薄れていく。
 目の前に、セラスの横幅が広い背中が現われた。
 鎧をおれの”剣王の矜恃”が切り裂き、そして、その下——腰のあたりから、リンの刀の尖端が突き出していた。

 正面からは、リンに刀で串刺しにされて、セラスが膝をついた。
 刀を引き抜かれると、セラスはものも言わずに、倒れ込んだ。
 全身から、血が流れ出す。
 腕から外れた義手が、足場から落下していった。

「やった……やったね!」
 リンが近づいてくる。

「ちょっと、ヤバかった……レッド、あんたの機転がなかったら、殺されていたのは、おれたちだったな」
 レッドを見ると、その場に座り込んでいる。
「アタシも、いくつか死線をくぐり抜けてきているつもりだけど、こんなギリギリの戦いは久しぶり……ちょっと、休ませて。寿命が縮んじゃったよ」