心が折れたので、二度と元のパーティには戻りません~僻地ではじめるスローライフ

 リンは、板金鎧(フルプレート)の様子を見る、なんてことはしなかった。
 駆け足で迫ると、まずは長剣で斬りつけた。

 切れ目のない、連続技だった。
 おそらく、リンもコンバット・アーツを習得しているのだろう。
 刀が激しく、鎧に斬りつけられ、金属音が響く。

「こ……この!」
 板金鎧が、リンの連続攻撃が途切れた時を見計らい、両手で構えた斧を繰り出した。
 リンが、斧の刃をカタールの三叉の刃で受けると、流れるような動きで、身体の脇へと流した。

 板金鎧が、バランスを崩した。
 前のめりになる。

「ゆう!」
 リンが叫ぶと、光の形をした翼が飛来してきた。

『我は撃つ、鋭き一撃を! 「赤刃の報復」よ、灼熱をもって、仇敵を破砕せよ!』
 リンが呪句を唱える。
 数枚の呪符が現われ、身体の周りを巡りはじめる。

 カードの一枚が、赤い炎に包まれ、灰となる。
 と同時に、飛び込んできた翼が炎に包まれる。
 そのまま、板金鎧を貫くと、悲鳴があがった。

 二歩、三歩……と板金鎧がよろよろと歩き、四歩目でがしゃん、と大きな音をたてて、倒れた。
 ここより先は通さぬ、と威勢はよかったのに、あっけないものだ。
 長柄の斧を放り出し、動かなくなった。

 飛翔していた翼を持つものが、ふわりと宙を舞った。
 リンの左肩に降りる。

『三尾鸚鵡(トライテール・パロット)ですわね』
 ソフィが説明をしてくれた。

 首の回りにたてがみのような羽毛を持ち、背中と翼の外側が、硬い突起で覆われている。
 体色はカラフルで、黄色がベースだが、青や白、黄色などが混ざっている。
 尻尾は長く、その名前のもととなっている三叉になった尾羽根が、リンの肩から腰までまっすぐに伸びている。

『甲族(こうぞく)の一種で、身体の一部を魔力で硬質化して、戦うことが可能ですわ。また、知性も高く、汎人類種族(コモン)の言葉でコミュニケーションを取ることもできるようです』
 ゆう、というのが、リンがその三尾鸚鵡に付けた名前なのだろう。
 今はおとなしく、彼女の肩に掴まっている。

「さっ。それじゃ、先に進むよ」
 通路の突き当たりの扉を開け、おれたちは中へと入っていった。

 扉の向こうは、居住区画と設備用のスペースとなっているようだった。
 入ってすぐのところは、物置のように、様々な物——壊れた武器や防具、箱や壺、木材や割れたガラス瓶、書類などが雑然と積み上げられ、足の踏み場もない状態だった。

 正面の奥には廊下があり、左右に扉や階段、エレベーターなどが配置されている。
 廊下にも扉が並んでおり、そちらはすべて部屋となっていた。
 部屋はどれも瓦礫だらけで、寝袋が並べられているものもあった。

 曲がり角や物陰など注意してみるが、レイダーたちとは出会わなかった。
 区画のすべての部屋を調べ終わり、残りはエレベーターだけ、となった。
 上の階層へ向かうには、エレベーターを使うしかないようだ。

 まずは、おれとリン、レッドの三人がエレベーターに乗り込むことになった。
 ボタンを押すと、シャッターが閉まり、かごが動き出す。
 エレベーターに何らかのトラップが仕掛けられているのではないか——と思ったが、それは余計な心配だったらしい。
 かごが停止し、シャッターがゆっくりと開いていった。

 途端——銃声が響いた。
 エレベーターにはトラップはなかったものの、待ち伏せはされていたらしい。
 銃弾がかごの中を穿ち、奥に穴が開いた。

 おれは、エレベーターのシャッターを閉じ、下の階へ移動するためにボタンを連打するが、まったく反応しなかった。
 シャッターは開ききった状態のまま、動かなくなってしまう。
 その間も、射撃は続き、かごを揺らし続けた。

「リン、レッド……おれが隙を作るから、ふたりは援護してくれ!」
 そう言うと、返事を聞かずに、エレベーターから飛び出していった。

『ソフィ——』
『了解。《防護陣(シールド)》ね。あなたとリン、レッドに展開したわ。それと、《戦場の意思》を付与しました』
 指令を出す前に、ソフィがおれの意思を感じ取り、《防護陣》と《戦場の意思》のスキルを使ったようだ。

 戦場の意思は、戦闘に参加するパーティメンバー、全員のダメージをある程度、カットするという天恵だ。
 おれとリンや、レッドなら、レイダーたちに攻撃的なスキルは必要ないだろう。

 シャッターから走り出していくと、すぐに銃弾が飛んできた。
 防御陣に弾かれ、打撃がおれに届くことはなかった。
 おれは走りながら、”剣王の矜恃”を振り抜いた。

 エレベーターの向こうは、広い空間となっていた。
 左手には大きなガラス窓があり、そこから、煙たい夕刻前の陽の光が入り込んでいた。

 正面の壁際には鉄骨の階段が設置されており、奥で両脇から繋がって、見下ろすことのできる足場となっている。
 その足場のところに、やたらと大きい男がこちらを見下ろしていた。

 あれが、レイダーたちの首領ということなのだろう。
 フルフェイスの兜を被り、右腕だけがやたらと大きな籠手を身につけている。
 ——ひどく、アンバランスだけど、歩きづらくはないのだろうか?

 その首領の左右には、武装したレイダーが数人、並んでいる。
 左右にふたつある、階段の登り口の手前には、どちらにもドラム缶を数本、チェーンでまとめて立てかけた遮蔽物が置かれていた。
 その向こうに、レイダーが隠れているらしく、ライフルの銃口が覗いていた。

 ライフルは強力だが、連射できないのが、欠点だ。
 早いところ、決着をつけたほうがいいだろう。
 リンたちには援護を頼む、とは言っていたが、その前におれひとりでレイダーどもを始末する気ではいた。

 おれは、”剣王の矜恃”を構えた。
 右腕を引いて、板剣を引き寄せると一歩、踏み込み、水平に突き出した。
 コンバット・アーツのスパイラル・ブレードが発動される。

 スパイラル・ブレードは、剣が届かない距離にいる相手にも、打撃を届かせるスキルのひとつだ。
 おれの動作に応じて、剣が赤く光る。
 そして、剣の先から赤い螺旋状の輝きが打ち放たれた。

 スパイラル・ブレードの紅色の光の軌跡が、ドラム缶に殺到する。
 そして、その後ろに隠れていたレイダーの身体ごと、ドラム缶を吹き飛ばした。
 悲鳴があがり、レイダーが宙を舞う。
 そして、おれは階段を駆け上がっていった。