心が折れたので、二度と元のパーティには戻りません~僻地ではじめるスローライフ

 リンたちに、逃げるという選択はないらしい。
 売られた喧嘩は買う、ということなのだろう。
 “八月の涼風”たちも、リンの決断に疑念を抱いている者はひとりもいないようだ。
 揃って、馬を並べて走らせている。

 おれも、それに少し遅れて、追いかけるようにして、手綱を握った。
 土煙のなかで、光る鳥の形をしたものが、視界を横切っている。

 高空を飛翔していた鳥は、おれたちの目線の高さまで降下してくると、翼を羽ばたかせた。
 鳥が飛んだ跡が虹色の筋となって、瞬きをするほどの間ではあるものの、空中に残されている。
 それは、土煙のなかでも薄れず、道標として、くっきりと目に写った。

 やがて——おれたちの前に、うっすらと自走エクスカーベターの姿が浮かび上がってきた。
 遠くから鳴り響いていた轟音が、今度は耳を直撃する。
 大地を揺らす振動も、それに比して、大きくなっていった。
 ずしん、ずしん……と、腹の奥に、音と振動が響いてくる。

 自走エクスカーベターは巨大で、砦の塔ぐらいはありそうだった。
 前後に鉄の吊り橋のようなものが伸びていて、尖端の車輪状の円盤に鋭い刃を取り付けたものが、回転している。
 もとは、岩盤を削るためのものだが、それを使うことができれば、都市の城壁も簡単に崩れてしまうだろう。

 リンたちは、鞍の上で立ち上がり、手綱だけで馬を御すると、吊り橋となっている部分へ近づいていった。
 橋の下まで来ると、ためらうことなく、鞍を蹴って、ジャンプした。

 鉄の骨組みを掴みそこね、落下したら、かなりの怪我をするかもしれないのに、思い切りよく、リンは身体を踊らせ、橋桁の部分へと達した。
 他の”八月の涼風”の他のメンバーも、橋の下まで馬を走らせ、懸垂をすると、身体を引き上げていく。

 おれも、それに続いた。
 鞍の上からジャンプをして、両手で橋桁を掴むと、身を躍らせた。
 勢いをつけて、橋桁の上に脚をつける。

「ミュウ! 馬たちはまかせたよっ」
 リンが、馬上に残っている、最後の仲間に声をかけた。

 ミュウは獣人で、”八月の涼風”のメンバーのなかで一番、大柄な女性だった。
 犬歯の族(ルフス)——犬の特徴を宿しており、鼻面が長く、腕はびっしりと黒い獣毛で覆われている。

 ミュウは、その腕を上げて合図を送ると、引き上げていった。
 馬たちの進路を変えて、エクスカーベターから離れていく。

 それを見届けると、おれたちは風が吹きつけてくるなかを、橋桁の上でバランスを取りながら、早足で移動していった。
 橋桁の半ばまで来たところで、採掘用のバケットが動きはじめた。
 ベルト上の複数のバケット——岩盤を削るための爪を取り付けられた巨大な容器がガタゴト……と振動しながら、橋桁の中心を移動していく。

 どうやら、見つかってしまったようだ。
 橋桁全体が、今度は左へと横に大きく、振り出す。

「行くよっ!」
 リンが大きく声をあげ、橋桁の上を走りはじめる。

「おっと!」
 横に振れていた橋桁が突然、停止した。
 バランスを崩しそうになるが、踏みとどまる。
 ひとり、レッドが、脚を踏み外すが、橋桁を掴んで、落下するのを防いだ。
 仲間たちが手を差し伸べて、上へと引き上げる。

「ね、ね。あれを、利用させてもらおうよ~」
 メンバーのなかで一番、年齢の若いダガーが言う。
 少年のような外見だが、女の子らしい。
 風になびく、海色の前髪を手で押さえながら、バケットを指差した。