心が折れたので、二度と元のパーティには戻りません~僻地ではじめるスローライフ

 風が強いので、目を開けていられない。
 走るのは、脚馬に任せて、おれは手綱だけをしっかりと握って、”八月の涼風”たちからはぐれないように——それだけを、考えた。

 おれたちを包囲しているのは、ほぼ、盗賊団と思って間違いないだろう。
 獣どもではない。
 野獣の狩りのパターンには、どれも当てはまらないからだ。

 などと思っていると、左右から騎馬の兵たちが現われた。
 おれたちへと、迫ってくる。

 “八月の涼風”たちが、おれの前後に並びはじめた。
 連携に慣れていないおれを守るように、位置する。

 既に、レイダーたちとの戦いで、リンたちの戦いぶりは目にしている。
 おれも、彼女たちの戦い方に合わせられる自信はあるが、ここは見守ったほうがよさそうだ。

 “八月の涼風”のメンバーが、武器を抜いた。
 サーベルや小剣、弓などを構える。

 ライフルを使わないのは、銃弾がメディシアン大陸ではドリフテッド・シングスのひとつだから、だろう。
 ドリフテッド・シングスは、大陸では生産することが出来ないようなものが大半で、基本的にダンジョンや九曜の塔などを探索しないと、獲得することはできない。

 “八月の涼風”のメンバーで、弓を構えているのは、ひとりだけだ。
 レインという、若い男でおれよりも背が低く、筋骨隆々という体格で、弓兵というよりも、戦士のように見える。
 実際、身体は傷だらけで、額に走る傷跡が表情を凄みのあるものにしている。
 が、弓の腕はかなりのものだ。

 矢をつがえ、引き絞る。
 弦が鳴り、矢が弧を描いて、飛来する。
 続けて、二射、三射と、矢を射る。

 くぐもった声があがった。
 矢は盗賊の肩口に命中し、さらに矢を避けようとして、ひとりが落馬した。
 が、盗賊たちは怯まず、こちらへと向かってくる。

 数人が、投石紐を頭上で振り回し、石を投げつけてくる。
 しかし、全力で疾走している馬上から狙いをつけているので、命中することはなかった。
 狙いが的確だとしても、”八月の涼風”のメンバーが用意していた風の防壁の呪文に阻まれていたはずだ。

 “八月の涼風”たちは、騎馬兵と接敵すると、自分から向かっていった。
 切り結び、兵たちが次々と落馬する。
 数人の盗賊が、たまらず、馬の首を返した。
 逃げ出した兵たちを追いかけ、”八月の涼風”たちがそちらへと馬を走らせる。

 ——この程度か……大したことはないな。
 おれが、そう思いかけた時だった。

 地面が震動した。
 いきなり、目の前に巨大な岩の塊が落下してきた。
 ひとつだけでなく、ふたつ、みっつ……と、おれたちの行く手を阻むように、大岩が着弾する。
 地面にめりこんでしまった。

 土煙がもうもうとあがり、視界を閉ざした。
 馬たちも戸惑ったように、鳴き声をあげ、右往左往している。
 さらに、どーん……という音が響き、地面が揺れた。

「どうなっている!」
「わかんない」
「警戒して」

 “八月の涼風”たちが、口々に叫んでいる。
 ここは、動かないほうがいいのだろう。

『自走エクスカーベターみたいね』
 ソフィの呟きを、おれはそっくり返してしまう。
「自走エクスカーベター……?」

 それは、採掘用の自動機械ではなかっただろうか。
 巨大なドリフテッド・シングスのひとつで、ダンジョンや遺跡などで発見されるものの、多くの場合、破壊されているか、いくつかの部品が欠損しているのがほとんどだ。

 無限軌道の台座の上に塔のような居住部分、さらに前後に橋のようなアームと鉱脈を削り取るドリルやバケットなどが装備されていたはずだ。
 移動速度などは遅いが改造すれば、要塞と化することも可能なので、レイダーなどに入手されてしまうと、かなり危険なことになる。

「まさか……え、本当に?」
 リンが問い返してくる。
「わからん。しかし、逃げる——という選択肢はなくなってしまったようだな」

 土煙はさらに濃度を増し、すぐ近くにいるのに、顔などはわからなくなってしまっている。
 一度、はぐれてしまったら、迷ってしまうであろうことは、想像がつく。

 その時、笛の音が響いた。
 耳を刺激する。
 おそらく、指笛だろう。

「ゆうに案内してもらう」
「ゆう?」
「ぼくの、ダニエルの獣さっ」
 リンが空を指差す。

 おれは、片目をつむり、土埃が目の中に入らないようにして、見上げる。
 光るものが、空を横切っているのがわかった。
 羽ばたきながら、ゆっくりと移動している。

 ダニエルの獣、というのは使い魔の一種のことだ。
 使い手の意思によって姿形を変化させ、情報収集や戦闘、呪文の行使などの支援を行う。
 実体はないが、ソフィもそれに近い存在、となる。

 “旗を振るもの”のメンバーのなかにも、ダニエルの獣の能力者はいたので、どういうものなのか、知ってはいた。
「さぁ、これから反撃だ。ついて来て」
 そんなことを言いながら、リンが馬を走らせた。